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アトピー性皮膚炎
高藤 円香

監修医師
高藤 円香(医師)

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防衛医科大学校卒業 / 現在は自衛隊阪神病院勤務 / 専門は皮膚科

アトピー性皮膚炎の概要

アトピー性皮膚炎は強いかゆみを伴う発疹が、慢性的に良くなったり悪くなったりを繰り返す皮膚疾患です。アトピー性皮膚炎では、皮膚を外的刺激から守るバリア機能の低下や皮膚に炎症症状が引き起こされます。一般的にアトピーと呼ばれ、食物アレルギーや環境に対するアレルギーとの関連も示唆されております。症状は首のまわりや肘の内側、膝の裏、足首の前側などにかゆみが出ることが多く、アトピーの合併症のひとつとして、目に角結膜炎や白内障、網膜剥離などを引き起こすこともあります。

アトピー性皮膚炎は、生後4か月から6歳までで12%、20歳から30歳代で罹患するとわかっており、成人期以降も治療が必要な疾患です。有病率は乳児期で6~32%でありますが、成人以降は5~9%と年齢を重ねることで低下していきます。また、重症例は10%未満であり、全体の7~8割は軽症です。

アトピー性皮膚炎は、日常的に強いかゆみを伴うため、集中力の低下や睡眠障害を引き起こす疾患です。さらに、皮膚の乾燥などで見た目の変化を伴うことも、日常生活におけるストレスや精神的な負担が増加する要因となっています。このような影響を考慮すると、早期の診断と適切な治療が重要となります。

アトピー性皮膚炎の原因

アトピー性皮膚炎の原因は完全には解明されていませんが、両親に既往があるなど遺伝的要因や物理的刺激やストレスなどの環境要因が関与していると考えられています。代表的な環境要因として以下の5つが挙げられます。

アレルゲン

皮膚のバリア機能が低下し、アレルギー反応を引き起こしやすい体質が発症に関与しています。例えば、鶏卵、牛乳、小麦、大豆などの食べ物、ダニ、ホコリ、ハウスダストなどの環境要因、細菌や真菌(かび)などがアレルゲンとして知られています。これらの物質が皮膚に触れることで、アレルギー反応が引き起こされ、炎症が悪化します。

物理的刺激

引っかき傷、洗剤の刺激、洋服や髪の毛の接触などが皮膚にダメージを与え、炎症を誘発します。特に、化学物質を含む洗剤やシャンプーは皮膚に強い刺激を与えることがあります。

発汗

汗をかくこと自体に害はありませんが、かいた汗をそのままにしておくことが炎症増悪の原因となります。汗を置いておくことで雑菌が繁殖したり、より乾燥が誘発されたりすることでかゆくなります。

極端な環境

寒冷乾燥や高温多湿などの極端な環境条件が、皮膚のバリア機能を低下させることがあります。乾燥した環境では皮膚の水分量が低下し、高温多湿の環境では汗や皮脂が過剰に分泌され、皮膚トラブルが起こりやすいです。

ストレスや過労

精神的・肉体的な負担が症状を悪化させることがあります。ストレスは免疫システムに影響を与え、炎症反応を増強させることがあります。

アトピー性皮膚炎の前兆や初期症状について

アトピー性皮膚炎の初期症状は、強いかゆみを伴う湿疹です。湿疹は左右対称に現れ、顔や首、肘、膝の裏などに多く見られます。乳児期には頭や顔に始まり、次第に体や手足に広がる傾向があります。幼少期には首や手足の関節に湿疹ができやすく、思春期・成人期には上半身(頭、首、胸、背中)に強い皮疹が現れることが多いです。

湿疹は皮膚が赤くなり、ブツブツができたり、カサカサと乾燥して皮膚が剥けてかさぶたができる場合があります。強いかゆみを伴うため、掻きむしってしまうことで皮膚のバリア機能がさらに低下します。バリア機能の低下により症状が悪化することがほとんどです。

初期の段階では、皮膚がかゆくなり、軽い赤みや腫れが見られることがあります。この症状が次第に進行し、湿疹が広がっていくと共に、かゆみも強くなります。特に夜間にかゆみが増して、睡眠を妨げることがあります。この睡眠不足により、日中の活動にも影響が現れ、集中力の低下や疲労感を増すことがあります。

これらの症状がみられた場合、 皮膚科だけでなく、小児科、内科、アレルギー科を受診して適切な検査・治療を受けることをおすすめします。

アトピー性皮膚炎の検査・診断

アトピー性皮膚炎の診断は、問診や身体診察、血液検査などを通じて行われます。以下の内容で検査が行われます。

血液検査

アレルギー反応で上昇するIgE抗体やTARC(皮膚の細胞から作られる物質)の量を調べます。これにより、体内のアレルギー反応の程度を確認することができます。

アレルゲン

検査
アレルギー反応を引き起こす物質の有無を調べるために行います。具体的には、食物アレルギーや環境アレルゲンの特定が行われます。

皮膚テスト

アレルゲンが疑われる物質を皮膚に晒して反応を観察するパッチテストや、針で皮膚に少量のアレルゲンを注入して反応を観察するプリックテストなどがあります。これにより、特定のアレルゲンに対する反応を確認することができます。

アトピー性皮膚炎の診断基準としては、強いかゆみがあること、特徴的な皮疹が体の左右の同じような場所に現れることで確認できます。湿疹はおでこ、目や口や耳の周り、首、手や足の関節のやわらかい部分に現れることが多く、皮膚症状が改善したり悪化したりを繰り返すことが特徴です。

アトピー性皮膚炎の治療

アトピー性皮膚炎の治療は、原因への対策、スキンケア、薬物療法の3つを組み合わせます。具体的には、以下のような内容です。

原因への対策

アトピー性皮膚炎は、痒みが特徴的で引っ掻きにより症状が悪化します。痒みは温度や発汗・衣類・ストレスなどさまざまな環境因子が引き起こすため対策が必要です。室内の温度を調整、衣服の素材を調整することで対策ができます。

スキンケア

アトピー性皮膚炎で、水分保持能力の低下や易感染性などの機能異常が見られます。そのため、皮膚を清潔に保ち、保湿を徹底することが重要です。刺激の少ない石けんを使い、強くこすらないように洗い流し、入浴後は十分に保湿します。保湿剤の種類は問わず、使いやすく肌に合うものを使用します。特に、乾燥しやすい冬場や入浴後には保湿を徹底することが大切です。

薬物療法

アトピー性皮膚炎に対しては、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬が基本です。ステロイドは正しく使えば安全であり、炎症を抑える効果があります。タクロリムスは免疫抑制剤であり、ステロイドで効果が不十分またはステロイドの副作用が強い場合に用いられ、湿疹やかゆみを抑えます。

外用薬に加えて抗ヒスタミン薬を使用するとかゆみを抑えるのに効果的です。抗ヒスタミン薬は内服薬として使用されることが多く、かゆみを軽減することで、引っ掻くのを防ぎ、睡眠の質を向上させることが期待されます。また、コレクチム軟膏やモイゼルト軟膏の適応も追加されています。

紫外線療法

特定の波長の紫外線を照射することで、皮膚の炎症を抑える治療法です。紫外線療法は、皮膚の炎症を軽減し、症状を改善する効果があります。

また最近では、生物学的製剤デュピルマブ(商品名デュピクセント)が登場し、IL-4とIL-13の働きを直接抑えることで、皮膚の炎症やかゆみを改善する新しいタイプの薬剤として注目されています。デュピルマブは、重症のアトピー性皮膚炎患者さんに対して、非常に効果的な治療法として使用されています。

アトピー性皮膚炎になりやすい人・予防方法

アトピー性皮膚炎になりやすい人は、遺伝的要因やアレルギーを起こしやすい体質がある人です。家族や自分がぜん息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎を持っているとなりやすいです。また、IgE抗体を産生しやすい体質の人が該当します。

アトピー性皮膚炎の予防方法:皮膚への刺激を避ける

ダニ、ホコリ、汗、ストレスなどの刺激を避けることが大切です。床はカーペットや畳よりもフローリングにし、ペットは飼わないようにします。ソファは布製ではなく革・合成皮革製を選び、観葉植物は置かないようにします。ぬいぐるみは毛羽立った製品を避け、表面がツルツルの製品を選びます。床はこまめに掃除機をかけます。

アトピー性皮膚炎の予防方法:規則正しい生活

日頃から保湿を中心としたスキンケアを行い、規則正しい生活を送ることが大切です。ストレスや過労を避け、十分な睡眠をとることが推奨されます。特に、乾燥しやすい冬場や入浴後には全身に毎日保湿をしましょう。これは新生児期から実施することでアトピー性皮膚炎の発症率が低下します。

アトピー性皮膚炎は、適切な治療と予防策により症状をコントロールすると生活の質を向上させられます。患者さん一人ひとりに合った治療法を見つけるために、専門医の指導のもとで治療を続けることが重要です。


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