

監修医師:
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)
目次 -INDEX-
アスペルギローマの概要
アスペルギローマ(肺アスペルギローマ)は、カビの一種である「アスペルギルス菌」が肺内の空洞などに定着し、菌や血液などが混ざって形成される球状の塊(菌球)を指します。
肺アスペルギルス症のうち免疫の低下が軽度で、慢性的な肺疾患を持つ人に発症する「慢性肺アスペルギルス症」に分類される病型の1つです。結核や非結核性抗酸菌症などで生じた肺の空洞部分に発生しやすい傾向があります。
特徴的な症状は血痰や喀血です。無症状で偶然発見されることも少なくありません。長引くせきなどの呼吸器症状が見られることもあります。
診断は胸部X線やCT検査で菌球の特徴的な像を確認し、喀痰検査や血液中の抗体検査で確定します。
治療は症状や全身状態によって選択され、喀血などの症状が強い場合は外科的切除が第一選択となります。手術が難しい場合は抗真菌薬による内科的治療が行われますが、特効薬はなく、症状のコントロールが中心です。
アスペルギローマの予防は、カビの多い環境を避け、室内の換気や湿度管理を行うことです。肺の慢性疾患を持つ人は定期的な健康診断も大切です。

アスペルギローマの原因
アスペルギローマの原因は、真菌(カビ)の一種であるアスペルギルス菌です。アスペルギルス菌が肺内で増殖し、発症します。
アスペルギルス菌は土壌やホコリなどの身近な環境に広く存在します。健康な人では吸い込んでも肺の線毛(異物を外に出してくれる毛)や免疫細胞が排除するため、通常は感染に至りません。ステロイドや抗がん剤の治療などで体の抵抗力が落ちている場合は、菌が増殖して病気を発症します。
免疫状態に問題がなくても、肺に空洞やのう胞(袋状の空洞)、気管支拡張症など構造的な異常があると、アスペルギルス菌が住み着き、繁殖しやすくなります。 結核の後遺症で肺に空洞が残った人に、アスペルギルス菌が入り込んで発症するケースも多く報告されています。
アスペルギローマの前兆や初期症状について
アスペルギローマの特徴的な症状は、血痰です。軽度の血痰から、命に関わるような大量の喀血(咳とともに吐き出される血液)まで、症状の程度はさまざまです。
初期症状として、長引くせきや痰の増加、微熱、全身のだるさ、息切れなどが見られることもあります。ただし、これらの症状はアスペルギローマに特有のものではなく、症状がほとんど現れないまま経過する人も多いのが特徴です。
アスペルギローマは、ほかの目的で撮影した胸部レントゲン検査で偶然発見されることも少なくありません。
アスペルギローマの検査・診断
アスペルギローマが疑われる場合、画像検査や喀痰(かくたん)検査などを組み合わせて診断します。
画像検査
胸部エックス線検査や胸部CT検査では、肺内に空洞や菌球が存在するか確認します。特に胸部CT検査では、空洞内部に球状の塊があり、塊の周囲に空気の隙間が見える特徴的な所見が見られることがあります。
喀痰検査
画像検査で疑いがある場合、確定診断のため喀痰検査がおこなわれます。喀痰検査では、肺から出た痰にアスペルギルス菌が検出されるかを培養して確かめます。
血液検査
血液検査ではアスペルギルスに対する抗体の有無を確認します。採取した血液を用いて「沈降抗体(ちんでんこうたい)」と呼ばれる検査(特定の抗原と結びつき沈殿するか調べる検査)をすることで、アスペルギローマを診断する手がかりとなります。
気管支鏡検査
気管支鏡検査では、肺に内視鏡を挿入して空洞内の内容物を採取し、それを検体として培養や病理検査を行います。アスペルギルス菌の存在を確認し、診断を確定できます。
アスペルギローマの治療
アスペルギローマの治療は、患者さんの症状や全身状態に応じて決定されます。症状がほとんどない場合には、定期検査を行いながら治療せず様子を見る選択肢もあります。
外科的治療
喀血の症状が強い場合や放置するとリスクが高いと判断される場合には、外科的治療が第一選択です。手術では病変部位の肺を切除し、肺内の菌塊と空洞部分を取り除くことで完治が期待できます。ただし、肺の基礎疾患があり呼吸機能が低下している人や、高齢で体力が低い人では手術が難しいこともあります。
気管支動脈塞栓術
大量の喀血が生じた緊急時には、気管支動脈塞栓術というカテーテルを用いた止血術が行われることもあります。太ももまたは手首の動脈からカテーテルを挿入し、喀血の原因となる気管支動脈を塞ぐ処置を施します。
内科的治療
手術が難しい場合や病変が複数に及ぶ場合には、抗真菌薬(抗カビ薬)による内科的治療が中心となります。抗真菌薬は内服または点滴で長期投与します。アスペルギローマを完治させる薬はありませんが、菌の増殖を抑えて病状の進行や合併症を防ぐ効果が期待できます。
アスペルギローマになりやすい人・予防の方法
肺結核の後遺症として肺に空洞が残っているような人は、アスペルギローマを発症しやすいと言われています。非結核性抗酸菌症やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、肺線維症、過去の肺手術歴がある人も発症リスクが高まります。
アスペルギローマを予防するにはアスペルギルス菌の体内への侵入を防ぐことが大切です。ホコリやカビの多い場所はできるだけ避け、必要な場合はN95などの効果的なマスクを着用しましょう。
室内では風通しを良くし、湿気を抑えてカビの繁殖を防止します。エアコンや浴室に生えたカビは早めに掃除し、肺の防御機能を弱める喫煙も控えることが望ましいです。
関連する病気
- 侵襲性肺アスペルギルス症
- 慢性壊死性肺アスペルギルス症
- アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
- 副鼻腔アスペルギルス症(副鼻腔アスペルギローマ)
- 肺結核後遺症
- 非結核性抗酸菌症
- 慢性閉塞性肺疾患
参考文献
- 空洞内の菌球を確認し得た肺アスペルギローマの2例/気管支学/42巻/5号/2020/p.448-455
- 中枢側気管支腔内に発症したアスペルギローマの1例/32巻/4号/2010年/p.327-331
- 原発性肺アスペルギローマの1切除例呼吸器外科/22巻/4号/2008年/p.63-67
- 治療に難渋した肺アスペルギローマの1例/呼吸器外科/21巻/7号/2007年/p.68-72
- 肺アスペルギルス症に対する術後抗真菌薬の必要性に関する検討/日本呼吸器外科学会/27巻/7号/2013年/p.19-25
- 一般内科医が見落としたくない難治性感染症の診断と治療 3)肺アスペルギルス症/日本内科学会/110巻/9号/2021年/p.1808-1814
- Aspergillosis/Medical Mycology Journal/52巻/2号/2011年/p.97-105
- 肺真菌症昭和学士会雑誌/77巻/6号/2017年/p.690-697




