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林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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【出身大学】
名古屋市立大学
【経歴】
東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。
【資格】
医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、在宅医療連合学会専門医、禁煙サポーター
【診療科目】
総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科

肥満低換気症候群の概要

肥満低換気症候群(obesity hypoventilation syndrome:OHS)は、高度の肥満によって呼吸機能が低下し、十分な換気が行われなくなることで慢性的な高炭酸ガス血症低酸素血症を引き起こす病態です。一般的には、BMI(体格指数)が30kg/m²を超える肥満の方にみられ、閉塞性睡眠時無呼吸症候群を合併するケースが多いとされています。

肥満低換気症候群では、肺や呼吸筋が脂肪の影響を受けて動きにくくなり、深い呼吸が困難になります。これにより二酸化炭素(CO₂)が十分に排出されず、血中に蓄積し、慢性的な呼吸性アシドーシスを生じます。病気が進行すると、日中の強い眠気や集中力の低下、頭痛、動悸、さらには心不全や肺高血圧症、右心不全といった重大な合併症を招くこともあります。

肥満低換気症候群は、医療機関を受診する動機になりにくい非特異的な症状から始まることが多いため、見過ごされやすいという問題があります。高炭酸ガス血症や低酸素状態が長期間続くと、呼吸中枢の感受性も低下し、症状がさらに悪化するという悪循環に陥ることもあります。適切な診断と早期治療が、患者さんの生活の質(QOL)や長期的な予後を大きく左右するため、医療者側もこの疾患への理解と注意が求められます。

肥満低換気症候群の原因

肥満低換気症候群の主な原因は、重度の肥満です。特に腹部や胸部に脂肪が過剰に蓄積すると、横隔膜の動きが制限され、肺が十分に拡張できなくなります。このような呼吸の機械的制限により、肺の換気量が低下し、二酸化炭素が排出しきれなくなって体内に蓄積し、結果として慢性的な高炭酸ガス血症を引き起こします。

また、肥満によって咽頭周囲の組織が肥厚し、上気道が狭くなることにより、睡眠中の気道閉塞が起こりやすくなります。これが閉塞性睡眠時無呼吸症候群の発症につながり、夜間の低換気をさらに悪化させます。肥満低換気症候群患者さんの多くが閉塞性睡眠時無呼吸症候群を合併していることが知られており、この二つの病態はしばしば重なって存在しています。

さらに、肥満によって呼吸中枢の反応性が鈍くなり、血中のCO₂上昇に対する呼吸刺激が弱くなる換気応答の鈍化も、肥満低換気症候群の発症に寄与していると考えられています。つまり、呼吸の機械的負荷と中枢性の反応低下の両方が関与している複合的な疾患なのです。

加えて、身体活動の減少や筋力低下、糖尿病や代謝症候群といった合併症、長期間の不適切な生活習慣もリスクを高める因子です。肥満が長く続けば続くほど、呼吸機能への影響も深刻になっていくため、早期介入が重要です。

肥満低換気症候群の前兆や初期症状について

肥満低換気症候群は、初期には自覚症状が乏しいために見逃されがちです。典型的な初期症状は日中の過度な眠気であり、仕事中に眠ってしまったり、車の運転中に強い眠気に襲われるなど、日常生活に支障をきたすことがあります。大きないびきや断続的な無呼吸も周囲の指摘で気付かれる重要なサインです。

進行すると、起床時の頭痛、慢性的な倦怠感、集中力の低下、気分の落ち込み、動悸、息切れなどが現れます。なかでも、朝の頭痛は夜間の高炭酸ガス血症を反映している可能性が高く、肥満低換気症候群の兆候として重要です。また、下肢のむくみや体重増加に伴う動作困難なども徐々に目立ってきます。

特に注目すべきは、肥満の程度に比べて息切れや活動制限が明らかに強い場合です。このようなケースでは肥満低換気症候群の可能性を念頭に置いて評価する必要があります。無呼吸症候群の検査で陰性であったとしても、日中の高炭酸ガス血症がある場合には、肥満低換気症候群の診断に進むことが望まれます。

このような症状がある場合には、呼吸器内科睡眠医療の専門外来での受診が推奨されます。適切な検査によって早期に診断し、換気障害に対する治療を開始することで、予後を大きく改善できる可能性があります。

肥満低換気症候群の検査・診断

肥満低換気症候群の診断には、肥満高炭酸ガス血症その他の呼吸器疾患がないことの3要素を満たすかを確認する必要があります。まず行われるのは動脈血ガス分析であり、日中の安静時に動脈血中の二酸化炭素分圧(PaCO₂)が45mmHgを超えていれば高炭酸ガス血症と診断されます。

次に、夜間の無呼吸の有無や呼吸状態を評価するため、終夜睡眠ポリグラフィー(PSG)が実施されます。これは睡眠時無呼吸症候群の有無と重症度を把握するうえで重要です。肥満低換気症候群患者さんの大半は閉塞性睡眠時無呼吸症候群を併発しているため、PSGは欠かせない検査となります。加えて、SpO₂(経皮的動脈血酸素飽和度)の持続測定によって、夜間の低酸素状態の有無も確認されます。

胸部X線検査や心電図、心エコー検査なども、肺疾患や心不全の有無を除外する目的で実施されます。特に肺高血圧症や右心不全が疑われる場合は、心臓超音波検査で右心機能の評価が推奨されます。また、甲状腺機能や電解質異常など、他疾患による呼吸抑制がないかを確認するための血液検査も併用されます。

肥満低換気症候群の治療

肥満低換気症候群の治療では、換気補助療法生活習慣の改善が中心となります。特に効果があるとされるのは、非侵襲的陽圧換気療法(NIPPV)です。これは、鼻や口にマスクを装着し、外部から陽圧を加えることで換気を補助する方法で、夜間の呼吸状態を安定させ、日中の高炭酸ガス血症や眠気を改善します。

睡眠時無呼吸症候群を合併している場合には、CPAP(持続陽圧呼吸療法)が用いられることもあります。閉塞性睡眠時無呼吸症候群の重症度によっては、CPAP単独でも症状改善が得られることがありますが、肥満低換気症候群ではNIPPVの方がより高い効果を示すとされています。これらの治療により、低酸素・高炭酸ガス状態の改善だけでなく、血圧、血糖、脂質代謝などの全身的な代謝異常も良好にコントロールされることがあります。

並行して行うべき重要な治療が減量です。食事療法や運動療法による段階的な体重減少は、横隔膜の可動性改善、呼吸負荷の軽減、無呼吸の改善など多くのメリットをもたらします。内科的治療で効果が不十分な場合や高度肥満の場合には、肥満外科手術も選択肢のひとつです。

また、合併する高血圧、糖尿病、脂質異常症、心不全などの慢性疾患についても、並行して内科的に管理する必要があります。特に、急性増悪(感染や薬剤の影響による呼吸悪化)が起こった場合には、酸素療法や入院加療が必要となるケースもあるため、患者さんへのセルフモニタリング指導や定期的な通院管理が重要となります。

肥満低換気症候群になりやすい人・予防の方法

肥満低換気症候群になりやすいのは、BMI30kg/m²以上の高度肥満のある方で、特に腹部肥満が強い場合や、運動習慣が乏しい方、睡眠中のいびきや無呼吸の自覚がある方は注意が必要です。また、糖尿病、高血圧、脂質異常症などのメタボリックシンドローム関連疾患を有する方も肥満低換気症候群の発症リスクが高いとされています。

予防には、まず体重の適正化が重要です。日常的に適切なカロリー制限とバランスの取れた食生活を心がけるとともに、週3回以上の中等度の有酸素運動を習慣づけることが推奨されます。急激な減量ではなく、継続可能な範囲での段階的な減量を目指すことが成功の鍵となります。

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