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小児副鼻腔炎
小島 敬史

監修医師
小島 敬史(国立病院機構 栃木医療センター)

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慶應義塾大学医学部卒。医師、医学博士。専門は耳科、聴覚。大学病院および地域の基幹病院で耳鼻咽喉科医として15年以上勤務。2年間米国で基礎研究に従事の経験あり。耳鼻咽喉科一般の臨床に従事し、専門の耳科のみならず広く鼻科、喉頭、および頭頸部腫瘍疾患の診療を行っている。日本耳鼻咽喉科学会専門医、指導医。日本耳科学会、日本聴覚医学会、日本耳鼻咽喉科臨床学会の各種会員。補聴器適合判定医、補聴器相談医。

小児副鼻腔炎の概要

副鼻腔は、頬、両目の間、おでこの下の骨の中にあり、粘膜でおおわれた4対の空洞で、それぞれが鼻の中でつながっています。副鼻腔炎は蓄膿症とも呼ばれ、急性期と慢性期でその原因や治療法が異なります。 原因として、急性副鼻腔炎では風邪が悪化して鼻腔に感染したウイルスや細菌が副鼻腔まで広がる場合が多いです。アレルギー性鼻炎で副鼻腔が炎症を起こしやすい状態のところに、ウイルスや細菌が感染して発症することもあります。慢性副鼻腔炎では、細菌やウイルスはほとんどいないものの、粘膜の炎症が遷延してしまうことで起こります。

副鼻腔炎は風邪に続発して生じ、顔面痛や発熱と鼻汁が主な症状となる急性期副鼻腔炎と、3ヶ月以上鼻水・後鼻漏・鼻詰まりなどが続く慢性副鼻腔炎に分けられます。小児では大人に比べて急性期副鼻腔炎の発症が多く、慢性副鼻腔炎は少ないことがわかっています。 副鼻腔炎の主な症状は、黄色や緑色の粘性のある鼻水や鼻づまり、痰(たん)や痰に伴う湿った咳などです。急性ではこれに痛みや発熱が伴います。また、慢性副鼻腔炎では鼻づまりに伴い、嗅覚障害や集中力の低下、睡眠時無呼吸などの睡眠障害を伴うこともあります。

診断は、問診と鼻腔内を観察することによって行います。治療としては、鼻水の吸引や去痰薬による投薬治療が主となります。細菌感染を起こしている場合は抗菌薬を投与することもあります。特に小児は、大人に比べて鼻の構造も免疫機能も未熟であることから、大人よりも感染による急性副鼻腔炎になりやすい状態となっています。鼻の構造、すなわち頭蓋骨が成長していくにつれて、急性副鼻腔炎にかかりにくくなることや、慢性副鼻腔炎の場合でも、9~12歳頃に軽快し、次第に自然治癒する可能性が高いことがわかっています。とはいえ、小児慢性副鼻腔炎が遷延すると大人の慢性副鼻腔炎へ移行してしまうので、重症化する前に、耳鼻科を受診して適切な治療を受けることが大切です。

小児副鼻腔炎の原因

急性副鼻腔炎・慢性副鼻腔炎いずれでも、風邪のウイルス感染が副鼻腔へ及んだり、二次的に細菌感染が副鼻腔まで広がることが原因として多いです。アレルギー性鼻炎によって鼻腔・副鼻腔の粘膜が腫れていることで副鼻腔が炎症を起こしやすい状態になることもあります。まれに、神経にまで至る深いむし歯から副鼻腔に細菌感染が広がることもあります。

小児は特に以下の要因から副鼻腔にウイルスや細菌が感染し、炎症を起こしやすい状態となっています。

  • 副鼻腔を含む頭蓋骨が発達過程であるため
  • 鼻をうまくかむことができず、鼻腔内に鼻水がたまりやすいため
  • 免疫機能が発達過程であり、ウイルスや細菌への防御力が弱いため
急性副鼻腔炎の原因はウイルス感染と細菌感染がほぼ50:50と考えられています。ウイルス感染の場合、7〜10日程度で自然治癒することがほとんどです。症状が長引く場合は、ウイルス感染によって免疫機能が弱った副鼻腔粘膜に、細菌が感染している可能性が高くなります。急性副鼻腔炎を起こすような感染では、急性中耳炎を合併する場合がありますので、かならず耳もチェックしてもらいましょう。

慢性副鼻腔炎は急性副鼻腔炎による炎症が長引くことで発症することがあります。小児では副鼻腔が発達過程であるため、慢性副鼻腔炎に移行することもあります。慢性化した場合、ウイルスや細菌はほとんどいないので、痛みはありません。その代わり、黄色い鼻水や後鼻漏が長期間続きます。この炎症が耳にも波及し、滲出性(しんしゅつせい)中耳炎を合併することもあります。

小児副鼻腔炎の前兆や初期症状について

急性副鼻腔炎では、まず発熱や不機嫌を生じることが多いですが、初期では普通の風邪となかなか見分けがつきません。進行すると、次第に黄色や緑色の粘性の高い鼻水や鼻づまり、顔の痛みが出始めます。鼻の奥にたまった鼻水が喉に流れ込むことによって、痰や痰に伴う湿った咳が出る場合もあります。また、鼻づまりに伴い、嗅覚や集中力の低下や、睡眠時無呼吸などの睡眠障害を伴うこともあります。 また、小児の場合は、鼻と耳をつなぐ耳管が太く短いため、副鼻腔から耳へ炎症が広がりやすく、急性中耳炎や滲出性中耳炎を引き起こすこともあります。 鼻水や鼻づまりの症状を長期間放置すると合併症を発症するリスクが高くなります。鼻水や鼻づまりが続く場合は、早めに耳鼻科を受診しましょう

小児副鼻腔炎の検査・診断

問診と鼻腔内粘膜の腫れや鼻水の状態を観察することによって診断します。慢性副鼻腔炎では炎症に伴う鼻ポリープを生じる場合もあり、鼻詰まりが強い場合は内視鏡を用いて鼻腔の奥の方をより詳しく観察する場合もあります。 画像検査を行う場合、急性副鼻腔炎では主にX線検査により診断します。鼻ポリープを生じるような慢性炎症がある場合や、合併症として炎症が眼や脳にまで及んでいる疑いがある場合、CTやMRIを撮って確認します。 炎症の原因が細菌感染によるものか、アレルギーが関与しているかを確認するために、細菌培養検査や採血によるアレルゲンの反応検査を行うこともあります。

小児副鼻腔炎の治療

急性副鼻腔炎および慢性副鼻腔炎の治療はそれぞれ以下のとおりです。

急性副鼻腔炎の治療

鼻水や鼻づまりの症状が出て間もない時期で、軽症の場合は、ウイルス感染の可能性が高いため、鼻水の吸引を行い、3〜7日程度は経過観察をします。軽症かどうかは、鼻汁の量や顔面痛、発熱などの症状から総合的に判断します。 それ以上症状が続く場合や中等症以上の急性副鼻腔炎では、細菌が感染している可能性が高くなるため、抗菌薬の投与を行います。この場合、原因となる菌は、インフルエンザ菌もしくは肺炎球菌である可能性が高いため、これらの細菌に対して効果のあるペニシリン系やセフェム系の抗菌薬を投与します。

また、鼻から吸入器で抗菌薬を吸い込むことにより、直接鼻腔へ薬剤を送り込むネブライザー治療や、生理食塩水による鼻洗浄を行うこともあります。その他の処方薬として、鼻水を排泄しやすくするため、去痰剤を処方することが多いです。アレルギーが関与している場合には、抗アレルギー薬を投与します。 急性副鼻腔炎が悪化し、眼や脳にまで炎症が及んでいる場合には、全身麻酔下の手術を検討する場合もあります。

慢性副鼻腔炎の治療

急性副鼻腔炎同様、鼻水の吸引および去痰薬の処方を中心に、必要に応じて抗アレルギー薬の投与や抗菌薬の投与を行います。 慢性副鼻腔炎では副鼻腔に溜まった炎症物質をなるべく取り除き、鼻の環境を改善するのが重要です。そのため、定期的な鼻水の除去と去痰薬の内服が中心となります。加えて、アレルギーの要素が疑われる場合、点鼻ステロイド薬を使用します。自宅で定期的に鼻うがいによる鼻洗浄を行うのも有効です。これらの治療が有効でない場合、鼻水の性状によってはマクロライド系抗菌薬を少量で長期間投与する場合もあります。

こういった治療でも鼻づまりが改善しない場合、鼻の奥のリンパ組織であるアデノイドが肥大して鼻腔が狭くなっていることが原因となっている場合があります。重度の鼻づまりにより睡眠時無呼吸を合併している場合で、X線やCT検査によりアデノイド肥大が確認された際には、手術でアデノイドを除去することもあります。ただ、アデノイドは4〜5歳で最も大きくなり、10歳頃から急激に小さくなるため、重度の症状がない場合は、経過観察をすることが多いです。

小児副鼻腔炎になりやすい人・予防の方法

副鼻腔炎は風邪が悪化して発症することが多いため、風邪をひきやすい条件が副鼻腔炎にかかりやすい条件となります。具体的には、低年齢、保育園などの集団保育、兄弟からの伝播などが挙げられます。

以下に示す基本的な感染症の予防対策を行うことで、副鼻腔炎を予防できます。

  • 手洗い、うがい
  • マスクの着用
  • 栄養バランスのとれた食事
  • 適度な運動
  • 十分な睡眠
  • 室内の湿度管理

また、アレルギー性鼻炎から副鼻腔炎へ移行することもあるため、アレルギーを持っている場合は、アレルギー対策を行うことも有効です。

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