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聴器がん
小島 敬史

監修医師
小島 敬史(国立病院機構 栃木医療センター)

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【経歴】
経歴
2006年3月 慶應義塾大学医学部医学科卒
2008年3月 佐野厚生総合病院 初期臨床研修修了
2008年4月 慶應義塾大学耳鼻咽喉科学教室所属
2013年9月 慶應義塾大学病院 助教として勤務
2018年8月 米国 ノースウェスタン大学耳鼻咽喉科で遺伝性難聴の基礎研究に従事
2021年5月〜 国立病院機構 栃木医療センター 耳鼻咽喉科医長 (現職)
【資格等】
日本耳鼻咽喉科学会専門医・指導医、日本耳科学会認定医、補聴器相談医、補聴器適合判定医
所属学会:日本耳鼻咽喉科学会、日本耳科学会、日本聴覚医学会、耳鼻咽喉科臨床学会

聴器がんの概要

聴器とは聴覚に関する臓器のことを指し、外耳、中耳、内耳をまとめた呼称です。聴覚器官ともいい、いわゆる耳のことです。

外耳、中耳、内耳にできるがんを総称して聴器がんと呼びます。発生する場所としては、聴器のなかでも外耳道(耳の穴)に多く、外耳道にできるがんのことを外耳道がんと呼びます。外耳に比べると中耳にがんが発生する頻度は少なく、内耳にはほぼ発生しないといわれています。

聴器がんの種類としては扁平上皮がんが全体の約70%を占め、ほかに腺様嚢胞がん、基底細胞がんが見られます。聴器がんと診断される方の数は人口10万人あたり6例未満であり、とても希少ながんであるといえます。

なお、我々が一般的に耳たぶと呼んでいる、耳介という外部に露出している部位も聴器に含まれますが、この耳介に起こるがんについては皮膚がんとして扱われるのが一般的です。また、先述のとおり内耳にがんが発生する確率はきわめて低いとされていることから、聴器がんという言葉は外耳道がんと中耳がんを指すもの、と認識してもよいかと思われます。

聴器がんの原因

聴器がんの原因として考えられているのが、慢性的に続く炎症や刺激です。具体的には耳かきを繰り返すことで皮膚に物理的な刺激が続くことや慢性中耳炎により、聴器がんの発生リスクが高まると考えられています。

耳かきのしすぎでがんになる、といわれてもピンとこないかもしれませんが、胃がんとヘリコバクターピロリ、肺がんとアスベスト、皮膚がんと紫外線のように、慢性の炎症が起きている部位はがんの発生率が高まるとの相関が示されています。

特に外耳の部分は皮膚のすぐ下が軟骨もしくは骨で、皮下組織を持たないため、外部からの力に対して損傷を受けやすく、炎症を起こしやすいという特徴があります。

聴器がんの前兆や初期症状について

聴器がんで見られる前兆や初期症状として、主なものに耳の違和感、耳垂れ(耳漏)、耳の痛み、耳からの出血、聴力の低下、腫瘤(こぶ)の形成、耳がふさがったような感じ(耳閉感)などがあります。

先述のとおり聴器がんはとてもまれながんであり、また、これらの症状は外耳炎や中耳炎などの良性の疾患でも見られることから、診断の難しい疾患であるといえます。

良性の疾患と区別するためのポイントの1つとして、症状が長く続き、悪化していくということが挙げられます。耳の痛みや耳垂れが現れ、その症状が治まらずに数週間以上続いたり、痛みなどがひどくなっていったりする場合、聴器がんを含む悪性の疾患の可能性が考えられます。

また、聴器がんが進行し、大きくなった腫瘍が耳の近くを通る顔面神経に浸潤すると、顔面神経麻痺が現れる場合があります。

がんの一種のため、頚部リンパ節に転移して気付く場合もあります。この場合は頚部の腫れ物として自覚することがあります。

ほかの疾患の可能性も含め、耳に痛みや違和感を覚えた際は、軽く考えずに耳鼻咽喉科を受診し、医師に相談してください。

聴器がんの検査・診断

聴器がんの検査では、それまでの症状、経過を確認したうえで頭頸部領域の診察を行います。
がんが疑われる場合には、画像を撮影して検査を行います。CTのほか、必要に応じてMRIPET-CTなどの検査方法を用い、病変の深さや広がりといった範囲を調べます。

診断の確定のためには、病変が起きている部位の組織を採取して生検を行います。耳は組織生検で採取できる組織量が大変少ないため、1度だけではなく、繰り返し行われることもあります。

聴器がんの治療

聴器がんが患者さんの数が100万人に1人ともいわれており、とても希少ながんのため、症例数が少ないこと、また患者さんごとに病変の広がり具合に個人差があることから、ほかのがんと比べても明確な治療の方法が定まっていません。ほかの部位のがんと同様、手術による治療、放射線治療、化学療法を組み合わせて治療を計画することになります。

手術が可能な場合は外科的切除が優先されます。ほかの部位へ浸潤しているなどの理由で外科的切除が困難な場合は最初から化学療法や放射線療法が行われたり、手術後に追加で化学療法と放射線療法を行ったりすることもあります。

がんが小さく、狭い範囲に留まっている状態では外耳道とそれを構成する側頭骨一部を切除することで、術後の機能障害も小さくすみます。進行した聴器がんに対しては、顔面神経、耳下腺や顎の関節を一緒に切除する場合や、開頭手術で側頭骨の大部分を摘出する必要が生じることもあります。

広範囲にわたる頭部の手術となると、そのぶん周辺の神経、筋肉、リンパ組織などの切除が必要になることも多く、脳神経外科、頭頸部外科、形成外科が共同で手術にあたります。

神経や筋肉、皮膚組織を切除した際は再建手術も行われますが、外科手術後に行う放射線治療の影響などもあり、特に拡大手術後には顔面の麻痺が残る可能性が高くなります。

聴器がんの進行度を示すステージ分類にはPittsburgh分類と呼ばれる外耳道がんのステージ分類を用いることが一般的です。

T(腫瘍の進展) Pittsburgh分類
T1 外耳道に限局し、骨、軟部組織への進展のない腫瘍
T2 外耳道骨への部分浸潤、または限局した軟部組織浸潤(<0.5cm)を伴う腫瘍
T3 外耳道骨に全層浸潤し、限局した軟部組織浸潤(<0.5cm)を伴う腫瘍、または中耳や乳突蜂巣に浸潤した腫瘍
T4 蝸牛、錐体突、中耳内側壁、頸動脈管、頸静脈孔、硬膜に進展する腫瘍、または顎関節や茎状突起などの軟部組織浸潤(≧0.5cm)を伴う腫瘍、または顔面神経麻痺を伴う腫瘍

このT分類に加え、N分類(リンパ節転移の有無)、M分類(遠隔転移の有無)を加えて進行度や治療方針を決定します。

聴器がんになりやすい人・予防の方法

原因の欄でも触れたように、繰り返す耳かき、特に金属や木でできたような硬い耳かきによる耳掃除は聴器がんのリスクを高めるといわれています。

耳垢は乾燥した粉耳と、湿ったあめ耳の2種類がありますが、東アジア人の80〜90%は体質的に粉耳といわれています。粉耳の体質を持つ方が多い東アジアで耳かきの習慣があるとされていますが、耳垢の除去のほかに心地よさを求めて耳かきを行う方も多いと思われます。

しかし、硬い素材で頻繁に耳かきを行うことは、外耳道の炎症を招く恐れがあり、それが進展することで聴器がんの原因になりえると考えられています。したがって、聴器がんの予防のためには耳かきを控えることが有効であると考えられます。

外耳道の皮膚は鼓膜から自然と外側に少しずつ運ばれるような並び方をしており、この皮膚の働きによって、耳かきをしなくても自然に耳垢は外に押し出されるといわれています。どうしても耳垢が気になる場合は、耳鼻咽喉科で掃除をしてもらうのがよいでしょう。

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