

監修医師:
高宮 新之介(医師)
目次 -INDEX-
慢性肺アスペルギルス症の概要
慢性肺アスペルギルス症(まんせいはいアスペルギルスしょう)は、アスペルギルス属というカビ(真菌)が肺に定着してしまうことで起こる病気です。急性の肺感染症とは異なり、数ヶ月から数年という長い経過をたどりながら症状が進行する点が特徴です。アスペルギルスは日常生活の環境(空気中や土壌など)に存在することが多く、通常の免疫を保っている方であれば吸い込んでもすぐに身体が排除します。しかし、肺に空洞があったり、肺が弱っていたりすると、このカビが住み着いて慢性的な感染を引き起こす可能性があります。
慢性肺アスペルギルス症では、肺内部に空洞が形成され、その中にカビの塊(真菌球)ができることがあります。これによって長い期間にわたり咳(せき)や痰、息切れなどの症状が続き、体力を消耗しやすくなります。ときには喀血(かっけつ)といって血を吐く症状が出る場合もあり、日常生活に支障を来す恐れがあります。適切な検査や治療によって症状の進行を抑えることが目指されますが、長期的なフォローが大切です。
慢性肺アスペルギルス症の原因
この病気の原因は、アスペルギルス属の真菌が肺内に定着し、増殖することです。とりわけアスペルギルス・フミガータスという種類がしばしば見られます。この菌自体は自然界に広く存在しているため、誰でも日常的に吸い込む可能性がありますが、通常は免疫機能によって排除されます。慢性肺アスペルギルス症を発症する背景としては、肺にすでに損傷や空洞があったり、過去に肺の病気を患っていたりすることが挙げられます。たとえば結核治療後にできた空洞や、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺気腫などによる肺組織のダメージがあると、カビが根を下ろしやすくなるのです。
また、軽度の免疫低下も発症に関与します。たとえば糖尿病や長期間のステロイド投与によって身体の防御力が弱まっている場合も、アスペルギルスが定着しやすくなると考えられています。重度の免疫不全であれば急性の侵襲性アスペルギルス症を起こすことがあり、慢性肺アスペルギルス症は、こうした重症免疫不全でない方が発症しやすい病態といえます。
慢性肺アスペルギルス症の前兆や初期症状について
初期症状は地味でゆっくりと進むことが多く、風邪やほかの肺の病気と区別がつきにくいことがあります。代表的な症状には以下のようなものがあります。
- 長引く咳や痰:数週間以上続き、改善しにくいことがあります。痰に血が混じる場合もあります。
- 息切れや呼吸しにくさ:特に階段を上るときなどに呼吸が苦しくなる場合があります。
- 体重減少や倦怠感:食欲低下やエネルギー消耗によって体重が減り、だるさを感じるようになる場合があります。
- 微熱や胸部の違和感:微熱が続いたり、胸のあたりに不快感を覚えたりすることがあります。
こうした症状が続くときは、呼吸器内科を受診することが望ましいです。呼吸器に特化した専門の医師が、慢性肺アスペルギルス症を含むさまざまな肺の病気について詳しく調べてくれます。また、もし血痰や喀血などが見られる場合は早めに相談してください。症状の早期発見と適切な治療は、病気の進行を緩やかにするために重要です。
慢性肺アスペルギルス症の検査・診断
慢性肺アスペルギルス症を疑う場合、以下のような検査を組み合わせて診断します。
画像検査(胸部X線写真やCT)
肺に空洞がないか、真菌球が形成されていないかなどを詳しく調べます。空洞の周囲の炎症や胸膜の変化も、診断の手がかりです。
喀痰検査(培養・顕微鏡検査など)
痰からアスペルギルスが検出されるかを確認します。ただし菌が見つからない場合もあり、陰性だからといって除外できるわけではありません。
血液検査(抗体検査)
血液中にアスペルギルスに対する特異的な抗体があるかを調べます。慢性的な感染では、この抗体が上昇しやすいです。
組織検査(生検)
肺がんなどとの鑑別が必要な場合や確定診断が難しい場合に、気管支鏡などで肺組織を採取して調べることがあります。
これらの検査結果を総合し、画像所見や臨床症状の持続期間、患者さんの肺の背景疾患などを考慮して診断を行います。複数の検査で断定的な証拠が揃わない場合もあるため、医師の判断が求められます。
慢性肺アスペルギルス症の治療
慢性肺アスペルギルス症の治療は、主に抗真菌薬(抗カビ薬)の投与と適切な管理により行われます。
抗真菌薬による内科治療
イトラコナゾールやボリコナゾールなどのトリアゾール系薬剤がよく使用され、長期間の服用が必要になる場合があります。症状の進行を抑え、喀血や肺の機能悪化を予防する目的で実施されます。定期的に血液検査を行いながら、薬の血中濃度や肝機能などをチェックします。
外科的治療
もしも喀血が頻回に起こり、抗真菌薬で十分な効果が得られない場合や、肺の一部に局在した病巣が原因で危険な症状を引き起こしている場合は、外科的にその部分を切除する選択肢があります。ただし高齢の方や肺機能の低下がある方は手術のリスクも高いため、慎重な評価が行われます。
サポート療法
呼吸を楽にするためのリハビリテーションや、栄養状態を改善する取り組みを並行して行うことも大切です。また、喀血が激しいときには、気管支動脈塞栓術と呼ばれる処置で出血箇所を塞ぐ場合があります。
治療期間は症状や病状によってさまざまですが、数ヶ月から年単位にわたることが一般的です。病気の進行を抑えながら生活の質を保つためにも、医師の指示を守って継続的に治療を受けることが重要です。
慢性肺アスペルギルス症になりやすい人・予防の方法
慢性肺アスペルギルス症は、肺に空洞がある方や過去に肺の手術や感染症(とくに結核など)を経験した方など、肺機能が損なわれている方に生じやすいと考えられます。また、軽度の免疫低下状態(糖尿病や低用量ステロイド療法など)も要因となる可能性があります。そのため、以下のような対策を心がけることで発症リスクを低減できる場合があります。
肺の健康管理
喫煙は肺にとって大きな負担となるため、禁煙を検討してください。ほかの肺疾患があれば定期的に検査を受け、悪化を防ぐように気をつけることが大切です。
清潔な環境を保つ
カビが繁殖しやすい場所(湿気の多い部屋、換気の悪い物置など)を定期的に掃除し、ホコリをためないようにします。マスクを活用しながら掃除やガーデニングを行うと、カビの胞子を吸い込む機会を減らせます。
早めの受診
長引く咳や血痰、体重減少などの症状があれば早期に呼吸器内科を受診しましょう。軽視して放置すると、慢性的な感染が進行する場合があります。
栄養と休養
十分な栄養と休養を取り、免疫状態を保つことは予防や再発防止のために大切です。バランスのよい食事と適度な運動を心がけて体力維持に努めてください。
こうした予防策を積み重ねることで、発症や再燃のリスクを減らせる可能性があります。ただし、どれだけ注意しても環境中のカビを完全に防ぐことは難しいため、肺に弱点がある方ほど定期的な検査や早期の診断・治療が重要です。
参考文献
- Barac A, et al. Chronic pulmonary aspergillosis update: A year in review. Medical Mycology. 2019;57(Suppl_2):S104-S109
- Patterson TF, et al. Practice Guidelines for the Diagnosis and Management of Aspergillosis: 2016 Update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2016;63(4):e1-e60
- Denning DW, et al. Chronic pulmonary aspergillosis: rationale and clinical guidelines for diagnosis and management. Eur Respir J. 2016;47(1):45-68
- Smith NL, Denning DW. Underlying conditions in chronic pulmonary aspergillosis including simple aspergilloma. Eur Respir J. 2011;37(4):865-872




