

監修医師:
長友 孝文(医師)
喉頭乳頭腫の概要
喉頭乳頭腫(こうとうにゅうとうしゅ)は、ヒトパピローマウイルス(HPV)が原因で発症する良性腫瘍です。喉にある声帯周辺の気管に腫瘍ができます。若年発症型と成人発症型に分類され、特に5歳以下の子どもに発症する例が多く見られます。
喉頭乳頭腫は良性腫瘍ではあるものの、再発も多いことが知られており、ごくまれに悪性化することもあります。また、多発することもあるため、特に小児では注意が必要な疾患です。
症状は嗄声(させい:声のかすれ)から始まり、進行すると腫瘍が声帯全体に広がって声が出なくなる可能性があります。特に小児の場合は、気道狭窄によって呼吸困難や喘鳴、チアノーゼなどが起こることもあります。
検査ではファイバースコープ(内視鏡の一種)を用いて喉頭の状態を確認します。
さらに、病変部位の組織を採取し、病理学的検査をおこなうことで確定診断します。
喉頭乳頭腫には根本的な治療法が今のところ存在しませんが、腫瘍そのものはレーザー治療などで治療が可能です。インターフェロン(腫瘍増殖抑制作用を持つ薬剤)の局所注入や腫瘍の外科的摘出術をおこなうこともあります。
再発を防ぐために、定期的な検査と経過観察が重要になります。

HPVについて
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、皮膚上などにも存在しているウイルスです。200種類以上ともいわれる多くの型があり、型によってそれぞれ感染しやすい場所や引き起こす症状が異なることが知られています。
一般的に、感染するといぼ状の病変を形成することが多く、その多くは良性の腫瘍となるものの、中には悪性度の高い腫瘍を形成しやすい「高リスクHPV」もあります。HPV感染に関係する疾患としては「子宮頸がん」などのがんが有名ですが、「尖圭コンジローマ」などの性病の原因にもなっています。
喉頭乳頭腫の発症には、低リスク型のHPV6型とHPV11型との関連が指摘されています。
喉頭乳頭腫の原因
喉頭乳頭腫の主な原因は、HPVへの感染です。
HPVのなかでも低リスク型と言われているHPV6型とHPV11型が関連していることが明らかになっています。
HPV感染の原因は、小児では主に出産時の母子感染であり、成人では性的接触によるものが多いとされています。
喉頭乳頭腫の前兆や初期症状について
喉頭乳頭腫の初期症状は声のかすれです。
声帯付近に腫瘍ができて、声が出しづらくなったり、小さな声しか出なくなったりします。
声の変化は、初期では周囲には気づかれにくいこともあります。また乳幼児では泣き声の弱さなどとして現れることもあります。病状が進行して腫瘍が声帯全体に広がると、声が完全に出なくなる可能性があります。
特に小児の発症例では、症状の進行が深刻な病状をもたらすことがあるため、注意が必要です。腫瘍の成長により気道が狭窄し、呼吸困難や喘鳴、チアノーゼなどの症状が現れることもあります。
喉頭乳頭腫の検査・診断
喉頭乳頭腫の検査と診断は主にファイバースコープを用いておこなわれます。
喉頭乳頭腫が疑われる場合、ファイバースコープによって喉頭の状態を直接観察し、腫瘍の存在や範囲を確認します。ファイバースコープにより、乳頭状に増殖する特徴的な腫瘍の状態を肉眼で確認できます。
診断の精度を高めるため、ファイバースコープで確認しながら病変部位の一部を採取し、病理学的検査をおこないます。
採取された組織は顕微鏡下で詳細に調べられ、腫瘍の性質や悪性の可能性、HPVの存在などが確認されます。
腫瘍が良性であり、HPVが検出された場合、喉頭乳頭腫と診断されます。
必要に応じてHPV遺伝子のタイピング検査もおこない、HPVのどの型に感染しているのか確かめることもあります。
喉頭乳頭腫の治療
喉頭乳頭腫の治療は、現在のところ根本的な手段が確立されていません。一度感染してしまったHPVに対する治療法が存在していないからです。
生じた腫瘍に対する対症療法的な治療法として、CO2レーザーなどを用いたレーザー治療が広くおこなわれています。レーザー治療が成功すると、腫瘍を比較的容易に取り除くことはできますが、喉頭乳頭腫では腫瘍が再発する可能性があります。
レーザー治療後、補助的な治療として「インターフェロン」や「シドフォビル」などの腫瘍増殖抑制作用や抗ウイルス作用を持つ薬剤を局所的に注入することがあります。
これらの薬剤は腫瘍の再発を抑制し、治療効果を高めることを目的としています。
場合によっては腫瘍を外科的に摘出する手術もおこなわれます。
しかし、子どもの場合や腫瘍が多発している場合は、完全な摘出が困難であることが多く、複数回の手術が必要になるケースが少なくありません。
また、摘出術では病変部位の丁寧な切除と正常な粘膜の保護に細心の注意を払う必要があります。
腫瘍の広がりによっては発声機能を犠牲にせざるを得ないこともあります。
治療後も、長期にわたる経過観察と再発時の迅速な対応が基本になります。
喉頭乳頭腫になりやすい人・予防の方法
喉頭乳頭腫になりやすいのはHPVに感染している人です。
特に5歳以下の小児は発症リスクが高く、症状も重篤になりやすいため注意が必要です。
したがって、HPVへの感染をできる限り避けることが、この疾患の予防法となります。
母親がHPVに感染している場合、生まれてくる赤ちゃんは母子感染する可能性があります。
成人の場合は不特定多数との性的接触、オーラルセックスを含む性行為を通じてHPVに感染するリスクが高まります。
HPV感染の予防が期待できる手段としては、HPVワクチンの接種があります。
喉頭乳頭腫の原因とされているHPV6型とHPV11型にも対応しているHPVワクチンとしては「シルガード9型」などが知られています。
HPV感染を完全に防ぐことは難しいですが、不特定多数との性行為を控えることは重要な予防策と言えるでしょう。定期的な健康診断や異常を感じた際の早期受診も、予防や早期発見につながります。
参考文献




