

監修医師:
五藤 良将(医師)
加齢性難聴の概要
加齢性難聴とは、年齢を重ねることで徐々に進行する聴力低下のことを指します。
これは自然な老化の一つであり、一般的に40歳代から聴力が低下すると言われています。65歳を超えると、聞こえにくさを感じる人が急激に増え、75歳以上では約半数の方が何らかの聞こえにくさがあるとされています。
加齢性難聴は高音域から聞き取りにくくなるのが特徴です。具体的には若い女性や子どもの声、電話の着信音などが聞こえづらくなります。また、聞こえにくくなる症状は徐々に進行するため、本人が自覚ない場合も少なくありません。
聴力低下により、日常生活では会話の聞き取りが困難になるほか、テレビやラジオの音量を上げすぎることで周囲とのいざこざが生じるケースもあります。
さらに、警告音やアラーム音に気づきにくくなることで安全面への影響も懸念されます。このような状況が続くと、孤立感や不安感が増し、精神的健康にも悪影響を与えることがあります。
加齢性難聴は誰にでも起こり得る現象ですが、補聴器の使用や周囲のサポートにより、生活の質を維持することが可能です。早期に専門家へ相談することで適切な対応が取れるため、自覚症状があれば早めの対応を心がけましょう。
加齢性難聴の原因
加齢性難聴は、内耳にある「有毛細胞(ゆうもうさいぼう)」の減少によって引き起こされます。「内耳」は鼓膜がある「中耳」よりもさらに奥にあります。
内耳は、音を聞くために大切な「蝸牛(かぎゅう)」と、体のバランスを保つための「前庭(ぜんてい)」や「三半規管(さんはんきかん)」からなります。
「蝸牛」の中には、音を感じ取る役割を果たす「有毛細胞」がたくさん存在します。年齢を重ねるごとにその数が減っていき、いくつかの要因によって、有毛細胞の減少が加速するのです。
例えば、長期間にわたる騒音環境での生活や勤務、喫煙の習慣、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、特定の薬を長期間飲み続けることなどが要因として挙げられます。また、体内の血管が硬くなる動脈硬化も、聴覚の老化を進行させる一因とされています。
さらに、遺伝的な要因も加齢性難聴の発症や進行に関係していると考えられています。
加齢性難聴の前兆や初期症状について
加齢性難聴は、年齢とともに徐々に進行し、会話の理解が難しくなる症状が特徴です。初期段階では本人が気づきにくいことが多く、知らないうちにコミュニケーションに支障をきたす可能性があります。
以前は普通の音量で視聴できていたテレビが、家族から「音が大きすぎる」と指摘されるケースも少なくありません。また、家族や友人との会話中に何度も「もう一度言って」と聞き返すことが増えた場合も、初期症状の一つと考えられます。特に騒がしい場所では、相手の言葉がうまく聞き取れず、会話が途切れがちになることがあります。
電話の音声がこもって聞こえたり、相手の話す内容を誤解するのもよく見られる兆候です。特に、子どもや女性の高い声が聞き取りにくくなる、騒がしい環境で会話が難しくなるといった特徴も加齢性難聴の典型的な症状です。
加齢性難聴の検査・診断
加齢性難聴の症状を把握するには、適切な診断と検査が欠かせません。
まず、はじめに行われるのは、ヘッドホンを通じてさまざまな高さの音を聞き取れるか確認する聴力検査です。高い周波数(4000ヘルツから8000ヘルツ)の音が聞き取りにくい場合、加齢性難聴の可能性が示唆されます。
鼓膜の観察も重要です。医師が顕微鏡を使って鼓膜を確認することで、他の耳の疾患や異常が原因でないかを調べます。
補聴器が必要な方には、言語のききとり検査も行われます。単語や文章を聞き取り、その正確さを評価します。この検査により、日常生活でどの程度会話が困難であるかを明らかにします。
いくつかの検査結果をもとに、聴力低下の原因や進行具合が判断され、適切な治療方針が立てられます。
加齢性難聴の治療
加齢性難聴は、現代の医学では完治は難しいとされていますが、適切な治療法を活用すれば、生活の質の向上が期待できます。
補聴器は、加齢性難聴における最も一般的で効果的な治療法です。
代表的な種類には、耳掛け型、耳穴型、ポケット型があります。耳掛け型は装着が簡単で調整もしやすく、耳穴型は小型で目立ちにくい反面、細かな操作が必要です。ポケット型は操作が簡単で高出力な点が特徴です。
補聴器の価格は、片耳あたり数万円~数十万円程度と幅広いですが、医療機器として認定された補聴器は医療費控除の対象となる場合があります。また、自治体によっては購入費用を補助する助成制度が利用できる場合があるため、事前に確認するのがよいでしょう。
補聴器を効果的に使用するには、音に慣れるためのトレーニングが必要です。聴覚リハビリテーションと呼ばれる訓練は、医師や専門家の指導のもとで進めるとスムーズに適応できます。
さらに、耳鼻咽喉科での定期的な診察は、聴力の変化を早期に発見する上で欠かせません。
加齢性難聴が進行すると、認知症のリスクが高まることが知られています。そのため、聴力が低下した早めの段階で補聴器の使用が推奨されます。早期の対応は、認知機能の低下を予防し、社会的な孤立の回避が期待できるでしょう。
加齢性難聴になりやすい人・予防の方法
加齢性難聴は年齢とともに誰にでも起こりうるものです。ただし、特定の条件に該当する人ではリスクが高まる傾向があります。
例えば、高血圧や糖尿病など生活習慣病を抱える場合、内耳の血流が不安定になりやすく、聴力低下が進みやすいです。また、長期間にわたって騒音環境で働いていた人や喫煙の習慣がある人もリスクが高まります。家族に若い頃から難聴を発症した人がいる場合は、遺伝の影響も考えられます。
加齢性難聴を予防するには、生活習慣病の管理が重要です。血圧や血糖値を適切にコントロールすることで、内耳の血流を保ち、聴力の低下を抑える効果が期待できるでしょう。また、騒音環境を避けることも有効です。耳栓や防音ヘッドホンを活用すれば、耳への負担を軽減できます。
定期的な聴力検査も大切です。年に1回程度の検査で異常が見つかれば、補聴器やリハビリテーションなどの対応策が早期に可能となります。
加齢性難聴を完全に防ぐことは難しいものの、適切な対策で進行を遅らせ、日常生活への影響を最小限に抑えられるでしょう。
参考文献




