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監修医師:
渡邊 雄介(医師)
所属
国際医療福祉大学 教授
山王メディカルセンター副院長
東京ボイスセンターセンター長
目次 -INDEX-
中耳腫瘍の概要
中耳腫瘍は、耳の奥にある中耳に発生するさまざまな腫瘍の総称で、比較的珍しい病気です。
中耳には、耳小骨という小さな骨が3つ連なって存在し、外からの音を内耳に伝える役割があります。耳小骨の近くに腫瘍ができると、腫瘍が小さい段階でも症状があらわれやすいものの、場所によっては症状が出にくく、健診で偶然見つかることもあります。
中耳腫瘍は、良性でも悪性でも放置すると症状が悪化するため、早い段階で治療を受けることが重要です。
中耳腫瘍の原因
中耳腫瘍がどのようにして発生するのか、詳しい仕組みはまだ完全には分かっていません。しかし、さまざまな可能性が指摘されています。
一つの説として、胎児期の耳の発達過程に関係していると考えられています。中耳の内側を覆う粘膜が作られる過程で、一部の未熟な細胞が残ってしまい、後になって腫瘍になる可能性があるという説です。
また、一部の患者では遺伝的な要因が関係している可能性も指摘されています。そのほか、長年続く中耳炎などの炎症も腫瘍の発生リスクを高める可能性があります。
中耳腫瘍の前兆や初期症状について
中耳腫瘍の症状は、腫瘍の大きさや場所によってさまざまです。聴覚に関連した症状が多く見られますが、進行すると他の症状もあらわれることがあります。
聴覚の低下と違和感
最も多く見られる症状は聞こえ方の変化です。腫瘍が中耳内で大きくなると、音を伝える耳小骨の動きが妨げられ、徐々に難聴が進行します。初期段階では「耳が詰まった感じ」「音が遠くなった」といった症状で始まり、耳鳴りを伴うこともあります。こうした症状は、片側の耳にあらわれることが多いのが特徴です。
中耳炎の症状
腫瘍に中耳炎が合併すると、耳痛や耳だれがみられることがあります。耳だれは、通常の中耳炎と同じように粘液性や膿性のものなど、性質はさまざまです。ただし、炎症の程度と腫瘍の進行には大きな関係はないとされています。
めまい
腫瘍が大きくなり、内耳まで広がるとめまいが生じることがあります。ただし、これは比較的まれな症状です。
顔面神経麻痺
進行すると、中耳を通る顔面神経に影響がおよぶことがあります。悪性度の高い腫瘍では、周囲の骨を破壊しながら大きくなるため、良性の腫瘍よりも顔面神経麻痺を生じやすいです。
中耳腫瘍の検査・診断
中耳腫瘍は、慢性中耳炎や真珠腫など、似たような症状を示す病気が多くあります。そのため、正確な診断のためにいくつかの検査を行い、総合的に判断します。
耳の診察
耳鼻咽喉科医が特殊な機器(耳鏡やファイバースコープ)を使って耳の中を観察します。鼓膜の奥に灰色または白っぽい腫瘍が確認できます。検査時の痛みはほとんどなく、モニターで患者さんと一緒に耳の中の様子を確認できます。
しかし、腫瘍の状態を詳しく把握することはできないため、必要な場合は画像検査の実施が必要です。
画像検査
CTやMRIで腫瘍の大きさや広がり、性質を詳しく調べます。腫瘍の周囲にある骨や軟部組織、血管・神経との位置関係を把握することができます。
生検
必要に応じて、腫瘍の一部を採取して顕微鏡で調べることがあります。腫瘍の種類や性質を調べられ、治療方法の選択に役立ちます。良性か悪性かの判断や、他の病気との鑑別でも重要な検査です。
聴力検査
聴力検査では、「純音聴力検査」による、さまざまな高さの音をどの程度聞き取れるかの確認や、ティンパノメトリーによる音の伝わり方の検査を行います。聴力検査は、治療後の聴力改善の効果測定にも役立ちます。
中耳腫瘍の治療
中耳腫瘍では、手術が基本的な治療となります。ただし、すでに腫瘍が浸潤し、手術が困難だと判断された場合は、放射線療法や薬物療法を組み合わせた治療が行われます。
手術療法
中耳腫瘍の治療の基本は手術です。腫瘍の大きさや位置によって、耳の穴からアプローチする方法と、耳の後ろから行う方法があります。最近では内視鏡を使用した手術も行われており、より小さな傷で手術を行うことが可能です。
手術では腫瘍を完全に取り除くことを目指しますが、手術の過程で音を伝える耳小骨に触れる必要がある場合があります。その際は、人工の耳小骨を入れたり、残っている骨をつなぎ合わせたりして、聴力の維持を目指します。
放射線療法や薬物療法
手術が困難な場合は、放射線療法や薬物療法を行うことがあります。放射線療法では腫瘍に放射線を照射して、腫瘍の増殖を抑えたり、縮小させたりします。一方、薬物療法は抗がん剤などの薬を使用して腫瘍の進行を抑えます。
中耳腫瘍になりやすい人・予防の方法
中耳腫瘍は、はっきりとした原因が分かっていないため、確実な予防法はありません。
しかし、中耳腫瘍を早期に発見できれば、手術により切除ができる可能性が高くなるため、難聴や耳鳴りといった症状があらわれた場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診することが推奨されます。
とくに、慢性中耳炎がある方は、腫瘍の発生に何らかの関連があると考えられているため注意が必要です。定期的に耳の検査を受けることで、腫瘍が発生していても早い段階で発見できる可能性が高まります。
参考文献