がん性胸膜炎
松本 学

監修医師
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)

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兵庫医科大学医学部卒業 。専門は呼吸器外科・内科・呼吸器リハビリテーション科。現在は「きだ呼吸器・リハビリクリニック」院長。日本外科学会専門医。日本医師会認定産業医。

がん性胸膜炎の概要

がん性胸膜炎はがんによって胸膜に炎症が起こり、胸水が過剰に溜まる病態です。

数種類ある胸膜炎のなかで、がん性胸膜炎は結核性胸膜炎と合わせて全胸膜炎の6〜7割を占めており、胸膜炎の主要な原因といえます。

出典:一般社団法人 日本呼吸器学会「呼吸器の病気」

肺がんが原因となる場合が多く、乳がんや悪性リンパ腫、悪性胸膜中皮腫など、他の部位で発生したがんが肺へ転移し、がん性胸膜炎を引き起こすケースもあります。

がん性胸膜炎の主症状は呼吸困難です。 これは胸膜に溜まった胸水が肺を圧迫することで生じます。

ほかには片肺のみに起きるチクチクした胸の痛みや、咳などの症状が特徴的です。

がん性胸膜炎の背後には、がんという重篤な疾患が存在するため、溜まった胸水を排出する治療はもちろんのこと、がんそのものに対する治療が求められます。

がん性胸膜炎の原因

がん性胸膜炎の原因は、がんによって胸膜に炎症が起きることです。

胸膜は二重構造をしており、内側の臓側胸膜(ぞうそくきょうまく)と、外側の壁側胸膜(へきそくきょうまく)から成り立っています。

膜と膜の間には胸腔(きょうくう)という空間があり、胸腔内には肺の動きをスムーズにする少量の胸水が存在しています。

通常、胸水は一定量に保たれていますが、胸膜に炎症が起きると胸水の排出が滞り、過剰に溜まることがあります。

がん性胸膜炎の原因となるがんのなかで最も多いのは肺がんです。

乳がんや悪性リンパ腫、悪性胸膜中皮腫など、他の部位で発生したがんが、血液循環に乗って転移することでも発症することが知られています。

このように、がん性胸膜炎は肺がんのみでなくさまざまな種類のがんによって発症するため、原因となっているがんを特定することは治療方針を決定する上で重要です。

がん性胸膜炎の前兆や初期症状について

がん性胸膜炎の主症状は呼吸困難です。胸腔内に胸水が溜まることで肺が圧迫され、十分な呼吸ができなくなることで出現します。

初期段階では軽い息切れ程度で経過する場合もありますが、胸水の量が多くなると症状は徐々に強くなります。

また胸痛も症状の一つです。 チクチクあるいはピリピリした痛みとして感じられる点が特徴で、片肺のみに現れる傾向があります。

その他の症状として、咳が出たり発熱や倦怠感が現れたりなど、全身的な症状が出現することもあります。

これらの症状は胸膜炎特有の症状ではなく、他の疾患でも現れることが多いため、少しでも症状を感じた際はできるだけ早く医療機関を受診しましょう。

乳がんや悪性リンパ腫、悪性胸膜中皮腫などのがんを患っている場合は、定期的な受診により慎重な経過観察が求められます。

がん性胸膜炎の検査・診断

がん性胸膜炎の診断は、X線検査やCT検査などの画像検査を中心におこないます。これらの画像検査では胸水貯留の有無や程度などを確認できます。

肺がんに起因するがん性胸膜炎の場合、これらの胸部の画像検査によってがんの浸潤範囲や程度も調べられます。

また、胸腔穿刺(きょうくうせんし)による胸水の採取もおこないます。

これは胸部に局所麻酔をして細い針を刺し、胸水を採取するもので、採取した胸水の性状やがん細胞の有無などを分析し確定診断に役立てます。

必要に応じて胸膜生検を実施することもあります。これは胸膜の組織の一部を採取して顕微鏡で調べる検査です。

呼吸音の聴診では胸水が溜まっている場合、貯留部の呼吸が弱くなることが特徴的です。

がん性胸膜炎の治療

がん性胸膜炎の治療は、原因となっているがんに対する治療と、胸水貯留による症状緩和の両側面から進めます。

がんの治療では、原因となっているがんの種類に応じて、適切な抗がん剤を選択し投与します。

また、胸水の貯留による呼吸困難が強い場合は、胸水を排出する処置が必要です。この処置により肺の圧迫が解消され、息苦しさが緩和されます。

胸水の量が多い場合は、胸腔内に管(ドレーン)を留置して持続的に排液を促す場合もあります。

胸水の貯留が繰り返し起こる場合は、胸膜癒着術(きょうまくゆちゃくじゅつ)という治療を検討します。

これは2枚の胸膜を癒着させて胸水が溜まるスペースを無くし、再び胸水の貯留が起きないことを目的としています。

治療の過程では、定期的な画像検査や胸水の検査、血液検査などをおこないながら、治療効果を確認します。

また、咳や胸の痛み、発熱などの症状に対しては、それぞれ適切な対症療法も併せて、総合的なアプローチによって治療を進めていきます。

がん性胸膜炎になりやすい人・予防の方法

がん性胸膜炎は肺がんや乳がん、悪性リンパ腫との関連が深く、これらのがんを患っている人がなりやすいといえます。

ほかにも、アスベストへの曝露を原因とする悪性胸膜中皮腫を患っている人や、喫煙習慣がある人も該当します。

これらを踏まえて、がん性胸膜炎の予防策として大切なのは、肺がんや乳がんなどを患っている人は疾患の治療を続け、経過観察を受けることです。

疾患のフォローとして定期的に血液検査や画像検査を受けることが、がん性胸膜炎の早期発見や早期治療につながるのです。

また喫煙は免疫機能を低下させ、身体的にさまざまな悪影響を及ぼすため、禁煙に努めることも重要です。

免疫機能の維持や向上の観点からいうと、バランスの良い食事や十分な睡眠、適度な運動やストレスを溜めないことなども予防につながるといえます。


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