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転移性肺がん
高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

転移性肺がんの概要

転移性肺がんは、ほかの臓器から発生したがんが肺に転移して発症する病気です。
肺は全身の血液が通過する主要な臓器であるため、がん細胞が到達しやすい特徴があります。そのため、肺は転移性がんが見つかる頻度が高い場所です。
たとえば、大腸がん、乳がん、腎臓がん、骨肉腫などのがんが肺に転移することが多いです。これらは原発性がん(最初に発生したがん)と呼ばれ、転移性肺がんはその二次的な結果として発生します。転移がんは一般的に原発性がんよりも治療が難しく、複数の臓器に広がる可能性があるため、特に注意が必要です。

最近では、転移性肺がんの発生メカニズムに関する研究が進み、血流を介したがん細胞の移動や肺における定着プロセスが明らかになってきています。これにより、新しい治療法の開発が進められており、予後の改善が期待されています。

転移性肺がんは必ずしも絶望的な病状を意味するわけではありません。早期に発見され、外科的切除や効果的な化学療法が適用されることで、生活の質を維持しながら長期的な生存を目指すことも可能です。また、治療法の選択肢が広がっているため、医師と相談しながら適切な治療プランを立てることが重要です。

転移性肺がんの原因

転移性肺がんの原因は、原発性がんから肺にがん細胞が移動し定着することです。この移動にはいくつかのメカニズムがあります。

血行性転移
がん細胞が血液を通じて肺に運ばれる経路です。肺は心臓から送り出された血液が最初に通る臓器であるため、血液中のがん細胞が最初に到達しやすい場所です。たとえば、大腸がんや腎臓がんではこの経路での転移が多く見られます。

リンパ行性転移
がん細胞がリンパ管を通じて肺に到達する経路です。この経路は特に乳がんや胃がんなどで多く見られます。リンパ節を通じた転移は、がんが全身に広がる際の主要な経路の一つです。

経管腔性転移(経気道性転移)
主に肺にできたがんが、気道の中を空気の流れに乗って肺のほかの部分にたどり着く場合もあります。

このうち転移性肺がんをきたす経路は、ほとんどが血行性転移だといわれています。

※直接浸潤
原発性がんが肺に隣接する臓器(肝臓や食道など)から直接浸潤するケースです。この場合、肺の一部に腫瘍が直接入り込み肺内にがんが形成されます。正確には転移性肺がんとは区別されます。

がん細胞の特性

がん細胞は「転移能」と呼ばれる特性を持つ場合があります。これには、血管内皮細胞に付着する能力や、体内の免疫システムを回避する仕組みが含まれます。がん細胞が肺の組織に定着するためには、これらの特性が重要な役割を果たします。

肺への転移を予防するためには、原発性がんの早期発見と治療が不可欠です。

転移性肺がんの前兆や初期症状について

転移性肺がんは初期段階では自覚症状がほとんど現れないことが多いです。そのため原発性がんの治療経過の画像のフォローアップが重要です。しかし、原発性がんによっては初診時より肺転移をともなっている場合もあり注意が必要です。進行に伴い以下のような症状が現れることもあります。

慢性的な咳
3週間以上の治療に反応しない咳が続く場合は注意が必要です。

血痰
肺内の腫瘍が血管を圧迫または破壊することで、痰に血液が混じる症状が見られます。これは肺の腫瘍が進行している可能性もあります。

息切れ
軽い運動や日常の活動でも息切れを感じる場合、肺の呼吸機能が低下している可能性があります。

胸痛
胸部の腫瘍が肺や胸膜を圧迫することで痛みが生じる場合があります。

全身症状
急激な体重減少、食欲低下、慢性的な疲労感、発熱などが挙げられます。これらの症状は、がんが全身に影響を及ぼしている兆候です。

早期に症状を察知し、呼吸器内科などの医療機関での検査を受けることが重要です。特に、がんの既往歴がある場合は、これらの症状が現れた際に迅速な対応が求められます。

転移性肺がんの検査・診断

転移性肺がんの診断には、以下の手法が用いられます:

画像診断

CTスキャン:肺内の腫瘍の大きさや位置を詳細に確認します。造影CTによってリンパ節も評価することが多いです。

PETスキャン:全身のがんの分布を評価するために使用されます。転移の有無や広がりを把握するのに有用です。ただし腫瘍が小さい場合は正しく判定できない可能性が高いです。

胸部X線:初期診断に使用される簡便な方法ですが、微小な病変を見逃す場合があります。

血液検査

原発性がんの腫瘍マーカー(例:CEA、CA19-9など)の測定により、がんの進行や治療効果を評価します。

生検

腫瘍の組織を採取して病理診断を行います。がん細胞の種類や性質を特定するために重要な検査です。臨床経過によって転移性の肺がんが強く疑われる場合には行わないこともあります。

気管支鏡検査

肺内部を直接観察し、腫瘍から組織を採取します。

転移性肺がんの治療

転移性肺がんの治療法には以下のものがあります。
基本的には原発のがんの種類によって決まります。抗がん剤などの全身治療が効きやすいかも重要な要素です。

外科的切除
転移が限局している場合には、外科手術で腫瘍を完全に切除することが可能です。これにより、原発性がんの種類によっては予後が大幅に改善する場合があります。大腸癌などでは切除可能であれば左右にある場合も一期的または二期的に切除する場合もあります。

化学療法
抗がん剤を使用してがん細胞を抑制します。最近では分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害剤が使用され、治療効果が向上している癌種もあります。

放射線治療
サイバーナイフや定位放射線治療などの技術を用いて、がん細胞を局所的に治療することもあります。

緩和ケア
症状の緩和や生活の質の向上を目的とした治療法です。患者さんの精神的なケアも含まれます。

転移性肺がんになりやすい人・予防の方法

なりやすい人

原発性がんの既往歴がある人
とくに原発のステージが進行している場合や血管やリンパ管に浸潤している所見がある場合はリスクが高いです。原発の種類によって再発のしやすさは異なります。
喫煙歴がある人

高齢者や免疫力が低下している人

予防方法

禁煙:肺への負担を軽減し、がんの発生リスクを低減します。

定期健診:がん治療歴がある人は、定期的な検査が重要です。

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