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非小細胞肺がん
山形 昂

監修医師
山形 昂(医師)

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京都大学医学部医学科卒業。田附興風会医学研究所北野病院 臨床研修。倉敷中央医療機構倉敷中央病院 呼吸器内科、京都大学大学院医学研究科 呼吸器内科などで経験を積む。現在はiPS細胞研究所(CiRA)で難治性呼吸器疾患の病態解明と再生医療に取り組んでいる。専門は呼吸器疾患。研究分野は難治性呼吸器疾患、iPS細胞、ゲノム編集、再生医療。日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医、日本内科学会認定内科医。

非小細胞肺がんの概要

非小細胞肺がんは、肺がん全体の約8割を占める肺がんの一種で、小細胞肺がん以外の肺がんのことをいいます。
非小細胞肺がんには、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんの3種類があり、それぞれ発生する部位やリスク要因が異なります。

腺がんは肺の奥で発生することが多く、非喫煙者にも見られるのに対し、扁平上皮がんは喫煙と関連が深く、肺の入り口付近で発生することが多いです。
大細胞がんは肺の奥にある大きな細胞に発生するがんで、発症はまれであり明確な原因はわかっていません。

非小細胞肺がんは小細胞肺がんとがんの進行速度や治療方法が異なります。
小細胞肺がんは進行が非常に速く、脳や他の臓器への転移が早期から起こりやすいため、抗がん剤や放射線治療が効果的とされています。
一方、非小細胞肺がんは進行が遅く、手術が中心の治療法となります。

非小細胞肺がんの症状には、慢性的な咳、血痰、胸の痛み、息切れ、声のかすれなどがあります。

非小細胞肺がんの治療には、早期であれば手術が有効とされ、進行した場合には抗がん剤や免疫療法、放射線治療が組み合わされることがあります。
また、遺伝子検査の結果によっては、分子標的治療薬が適用されるケースもあります。
再発率が高いため、禁煙と早期発見が発症予防と重症化予防において重要です。

非小細胞肺がん

非小細胞肺がんの原因

非小細胞がんの主な原因は喫煙だと考えられています。
他にも有害物質の曝露、遺伝的素因が複雑に絡み合い、非小細胞がんのリスクが形成されると考えられています。

非小細胞肺がんの前兆や初期症状について

非小細胞肺がんは、無症状の期間が長く、進行してから症状が現れることが多いです。
主な症状には咳、血痰、胸背部の痛み、呼吸困難、嗄声、全身倦怠感などが挙げられます。

咳は初期段階で多く見られ、腫瘍や感染症が原因で悪化することも多いです。
血痰は腫瘍が気管支や血管に浸潤することで生じ、早期に現れる場合もあります。
胸背部の痛みは、腫瘍が胸膜や神経に浸潤することで強い痛みを感じる可能性があります。
呼吸困難は気道の圧迫や無気肺、胸水の貯留により発生し、体内が酸素不足になることで起こります。
嗄声は喉の神経が腫瘍に圧迫され、声帯が麻痺することで生じます。

非小細胞肺がんの症状が進行すると、体重減少や倦怠感など全身症状も現れ、生活の質に影響を与えます。

非小細胞肺がんの検査・診断

非小細胞肺がんの診断は、がんの種類や進行度、広がりを正確に把握するためにさまざまな検査が行われます。
胸部CTやMRIを用いた画像診断や、腫瘍の性質を確認する気管支鏡検査や生検、がんの活動度を測定するPET-CTなどを行います。

画像検査

CTとMRIは体内の臓器や組織を詳細に画像化する検査です。
またPET-CTではがん細胞の可視化することで、転移や広がりを確認することができます。

気管支鏡検査、生検

気管支鏡を使って気道を直接観察し、必要に応じて組織を採取する検査です。
腫瘍の性質を詳しく確認するために行われます。
生検とは腫瘍の一部を採取し、顕微鏡で詳しく調べることで、がんの種類や進行度を診断する検査です。
確定診断を行うための重要な手段であり、がん細胞の有無や組織型を確認して適切な治療方針を決定します。

腫瘍マーカー

腫瘍マーカーは血液中の特定の物質を調べる検査で、がんの進行状況や治療効果を把握するのに役立ちます。
非小細胞肺がんでは「CEA」や「CYFRA21-1」などが指標として使われます。

非小細胞肺がんの治療

非小細胞肺がんの治療には、手術、放射線療法、薬物療法、緩和ケアなどのさまざまなアプローチがあります。
非小細胞肺がんは、早期に発見して治療を始めると、その後の生存率が比較的高いことが知られています。
できるだけ早く適切な治療を選択することで、患者の良好な予後につながります。

外科治療

初期段階の非小細胞肺がんでは、腫瘍を完全に切除する手術を行います。
手術は腫瘍が小さければ胸の表面に穴を数か所空けて通した胸腔鏡で治療する胸腔鏡下手術(VATS)が選択されることも多いです。
術後の再発予防に、化学療法や放射線療法が追加されることもあります。

放射線療法

放射線療法は、局所的にがん細胞を死滅させるために使用され、特に手術が適さない場合や、術後の補助療法として効果的です。
進行期には、痛みなどの症状緩和にも効果があります。

薬物療法

非小細胞肺がんの薬物療法には、患者の遺伝子変異やがんの状態に応じて、分子標的治療、免疫チェックポイント阻害薬、化学療法が選択されます。
分子標的治療は、細胞の分裂や成長を調整する特定の遺伝子変異に対応する薬剤を使用し、がん細胞の増殖を抑制します。
腫瘍細胞のタンパク質の量であるPD-L1発現率が高い場合には、免疫チェックポイント阻害薬が有効で、免疫系を活性化してがんを攻撃します。
化学療法は、進行がんや他の治療が適用できない場合に使用され、がん細胞の分裂を阻害するプラチナ製剤が使われます。

緩和ケア

症状管理を目的とした緩和ケアも、患者の生活の質向上に欠かせない治療です。
進行した肺がんに伴う痛みや呼吸困難を軽減し、治療と並行して患者の快適さを保つための支援が行われます。
緩和ケアの一環で手術や胸水ドレナージ、リハビリテーションが行われることもあります。

非小細胞肺がんになりやすい人・予防の方法

非小細胞肺がんは、肺がんの中で最も多く、特に喫煙や受動喫煙が大きなリスク要因です。
喫煙者は非喫煙者に比べ、男性で約4.4倍、女性で約2.8倍リスクが高く、若年からの喫煙や長期間の喫煙もリスクを増大させます。

(出典:特定非常利活動法人 日本肺癌協会「1危険因子と臨床症状,検出方法」

アスベストやラドンガスなどの有害物質などに日常的にさらされる人や、肺がんの家族歴がある人もリスクが高いです。

予防策としては禁煙が最も重要です。その他、受動喫煙を避けること、バランスの取れた食事や適度な運動、適正体重の維持なども推奨されます。
リスクの高い人は定期的な胸部レントゲンやCTスキャンによる健康診断が早期発見に役立ちます。
職業などで有害物質や放射線の曝露リスクがある場合は、防護具の使用などで曝露を最小限に抑えることも重要です。


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