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肺サルコイドーシス
高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

肺サルコイドーシスの概要

サルコイドーシスとは、全身に「肉芽腫」ができる疾患のことです。
肉芽腫とは慢性的な炎症の結果として生じる結節(かたまり)のことです。本来は体の中に入り込んだ異物に対して防御するために作る特別な組織のことです。体の中で小さな「壁」を作り、外に広がらないようにする役割を持っています。その結果、炎症細胞や微細な血管に富んだ線維などがかたまりを作ります。
サルコイドーシスは全身のさまざまな臓器・組織に肉芽腫を形成します。とくに多いのは呼吸器病変です。80〜90%以上の患者さんに認められ、「肺サルコイドーシス」と呼ばれています。

肺サルコイドーシスの症状には、呼吸困難、乾いた咳、胸の痛みなどが含まれますが、多くの患者さんが無症状であり、健康診断などで偶然見つかるケースも少なくありません。診断には、胸部X線やCTスキャン、組織検査などが利用されます。
サルコイドーシスは厚生労働省の指定難病に指定されており、重症度の高い場合には医療費の助成が受けられます。

肺サルコイドーシスの原因

肺サルコイドーシスの原因は、いまだに解明されていません。しかしながら、疾患になりやすい遺伝子を持つ人が、なんらかの原因物質に暴露されて発症するのではないかと考えられています。

遺伝的要因

複数の疾患感受性遺伝子が関与していると推定されています。特に注目されているのは​​ヒト白血球抗原(HLA)という遺伝子です。また、少数ながら家族内での発症も報告されています。

原因物質

アルミニウムやタルクなどの無機物、松の花粉などの有機物、ウイルスや細菌など、さまざまなものが関与している可能性が指摘されています。
特に注目されているのはアクネ菌です。サルコイドーシス患者さんの病変部から分離可能な唯一の微生物であることがわかっています。しかし、アクネ菌は「常在菌」とされ、ほぼすべての人の皮膚などに存在する菌です。一部の人のみがサルコイドーシスを発症するのは、なんらかのきっかけでアクネ菌に対する免疫応答が過剰に起こるためと考えられています。

肺サルコイドーシスの前兆や初期症状について

肺サルコイドーシスは初期には症状が出にくく、無症状のケースが多いため、健康診断などで偶然発見されることが多いです。かつては患者さんの半数以上が健康診断での胸部X線検査で見つかっていましたが、近年では症状を伴って発見されることが増えてきました。
肺サルコイドーシスによる呼吸器症状のほかに、ほかの臓器・組織の病変により起こる症状や臓器特異的でない全身症状など多彩な症状を認めます。

呼吸器症状

主な症状としては、乾いた咳・動いた時の息切れや息苦しさなどがあります。これらの呼吸器症状は肺サルコイドーシス患者さんのおよそ3分の1に認められます。ただし、肺サルコイドーシスに特異的な症状ではありません。一部の患者さんにおいては、胸部レントゲン写真で明らかな異常があっても自覚症状がほとんどないということもあります。
呼吸器症状を認めたり、健康診断などでサルコイドーシスを疑うような異常を指摘された場合は内科(とくに呼吸器内科)を受診しましょう。

他の臓器・組織の病変により起こる症状

サルコイドーシスは呼吸器系以外にもさまざまな臓器や組織に病変が起こりえます。病変が出現した部位に特異的な症状がきっかけとなってサルコイドーシスが判明し、肺病変も指摘されるケースもあります。

日本人で特に多いとされるのは眼症状です。ぶどう膜という目の内側の膜に炎症が起こり、眼がかすむ・光をまぶしく感じる・視界に動く黒いものが見える(飛蚊症)・視力が悪くなるなどの症状をきたします。

皮膚の症状を認めることもあります。サルコイドーシスの皮膚の症状は皮下の小さな結節ややや大きめの盛り上がった湿疹・小さなぶつぶつの集まりなど多種多様で、見た目だけでの診断は困難です。病変のある皮膚の一部を採取して顕微鏡で観察する「皮膚生検」という検査が必要になることも多くあります。

また、心臓の病変も日本人に多いことがわかっています。サルコイドーシスにより心臓のリズムが乱れる不整脈が起こると、動悸、息切れ、めまい、失神などを引き起こします。また、心臓のポンプ機能が低下し、息切れ、むくみ、体重増加などの心不全症状をきたすこともあります。進行した心サルコイドーシスは突然死の原因となることもあるため、早期の治療が重要です。

このほかにも、神経・筋肉・骨・腎臓・リンパ節・肝臓・脾臓・消化管など全身のさまざまな部位に病変が出現する可能性があります。

非特異的な全身症状

肺サルコイドーシスの患者さんでは、臓器・組織の病変があることだけでは説明不可能な倦怠感・疲労感・全身の痛み・発熱・体重減少などの症状が起こることがあります。これらの症状は検査などでわかるものではないために見過ごされがちですが、時に患者さんの生活に大きな影響を及ぼすこともあります。

明らかな不調がある部位があれば該当する診療科の受診が勧められます。一方、どこを受診すれば良いかわからなければ、まずは一般内科・総合内科を受診しましょう。

肺サルコイドーシスの検査・診断

肺サルコイドーシスにおいては、胸部X線やCT検査で異常が指摘されます。中でも特徴的なのは、両側の肺門リンパ節腫脹(BHL)です。

肺サルコイドーシスの診断において最も重要なのは病変部の組織を採取し、顕微鏡で観察することです。サルコイドーシスの病変をきたした組織では、「乾酪壊死を伴わない肉芽腫」が検出されます。乾酪壊死とは感染症の一種である結核などで見られる、組織がチーズのように柔らかく崩れてしまう状態を指します。「乾酪」はチーズのことなので、乾酪壊死は「チーズのように壊れている」状態です。「乾酪壊死を伴わない肉芽腫」というのは、チーズのような崩れた状態にならない肉芽腫のことで、サルコイドーシスで特徴的な所見です。

この組織診断のために行われる検査の一つは気管支鏡検査です。口から細いカメラを挿入し、気管支の粘膜を観察します。発赤や小結節が見られれば、組織を採取するための生検が行われます。これにより、サルコイドーシス特有の肉芽腫の存在が確認されると、診断が確定します。

そのほかにも、気管支鏡検査では「気管支肺胞洗浄」を行うこともできます。肺に水を入れて、それをまた吸い出すことで、肺の中の細胞やいろいろな成分を調べる検査です。肺サルコイドーシスではとくに「CD4リンパ球」という免疫細胞が増加していることが多く、診断の参考になります。

そのほか、血液検査で血清アンジオテンシン変換酵素(ACE)活性や血清リゾチーム値の上昇・血清可溶性インターロイキン-2受容体(sIL-2R)の上昇などといった異常所見も参考になります。体内の腫瘍や炎症性病変の存在を調べるガリウムシンチグラフィ18F-FDG/PETという検査を行うこともあります。合併症の精査のために、眼や心臓の検査も重要です。

肺サルコイドーシスの治療

肺サルコイドーシスは自然に治癒することも多い疾患であるため、治療が必要な場合とそうでない場合の判断が大切です。
症状が軽度で日常生活に支障がない場合や、肺機能に大きな障害がない場合には、経過観察のみで治療は行われないこともあります。

その一方で、徐々に進行して肺が線維化をきたして硬くなる「肺線維症」をきたすこともあります。肺線維症が進行すると肺の機能が低下して息切れ・呼吸困難をきたすため、その前に治療介入を行うことになります。
治療が必要な場合には、まずステロイド薬が使用されます。ステロイド薬は、炎症を抑え、症状の進行を防ぐ効果があり、肺サルコイドーシスの治療の第一選択薬とされています。しかし、ステロイド薬の長期使用は感染症、糖尿病、骨粗しょう症といった副作用があるため、医師の指導の下で適切に使用することが重要です。
また、ステロイド薬だけでは効果が不十分な場合や、副作用のリスクが高い場合には、免疫抑制薬などが併用されることもあります。最も重症のケースでは肺移植が検討されることもありますが、進行が極度に進んだ場合の最終手段です。

肺サルコイドーシスになりやすい人・予防の方法

肺サルコイドーシスは、原因が完全には解明されていません。例えば、20〜30代や50〜60代の年齢層に発症することが多く、特に女性の罹患率が高い傾向にあるなどはわかっていますが、誰が発症しやすいかの予測は困難です。

予防方法としては、原因が明らかでないため、確実な方法は存在しません。健康診断をうけ、体調の変化に気を配り、早期に異変を察知して医療機関を受診することが大切です。

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