監修医師:
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)
縦隔腫瘍の概要
縦隔腫瘍とは、左右の肺の間(縦隔)に存在する臓器に腫瘍ができる疾患です。良性だけでなく悪性のものもあり、年齢を問わず小児から高齢者まで発症する可能性があります。
縦隔には、心臓や心臓とつながる大血管、胸腺、気管、食道などが位置しています。縦隔腫瘍では、このうちいずれかの臓器に腫瘍が発生します。
縦隔は部位ごとに「上縦隔」「前縦隔」「中縦隔」「後縦隔」に分けられ、それぞれ以下のような腫瘍が発生することがあります。
- 上縦隔…「甲状腺腫瘍」「神経原性腫瘍」「悪性リンパ腫」「心膜のう胞」
- 前縦隔…「胸腺がん」「胸腺腫」「胸腺のう胞」「胚細胞性腫瘍」
- 中縦隔…「心膜のう胞」「悪性リンパ腫」
- 後縦隔…「神経原性腫瘍(神経鞘腫など)」「食道のう胞」「気管支のう胞」
最も発症頻度が高いのは胸腺腫で、縦隔腫瘍全体の約40%を占めます。次いで多いのが、のう胞、神経原性腫瘍であると報告されています。
縦隔腫瘍を発症していても無症状で経過することがあり、定期的に受診する健康診断で偶然発見されるケースもあります。しかし、悪性腫瘍の場合は、胸の圧迫感や痛み、息苦しさなどを自覚することもあります。
一部の良性腫瘍や悪性リンパ腫を除き、縦隔腫瘍の発症を認める場合は、外科的手術が第一選択として検討されます。
縦隔腫瘍の原因
縦隔腫瘍の原因についてははっきりとわかっていません。
縦隔腫瘍のうち最も発症頻度の高い胸腺腫は自己免疫疾患である「重症筋無力症」を合併するケースがあることから、両者に何らかの関連があるのではないかと考えられています。
縦隔腫瘍の前兆や初期症状について
縦隔腫瘍を発症していても、無症状で経過して気付かないケースもあります。無症状で経過するケースは良性腫瘍や悪性腫瘍の初期である場合が多い傾向にあります。
しかし、悪性腫瘍の場合では、咳や声のかすれ、息苦しさ、胸の痛み、胸の圧迫感などの呼吸機能に関連した症状を伴うことがあります。また、腫瘍が大きくなると周囲の臓器を圧迫することにより、さまざまな症状を認めるケースもあります。腫瘍が脊髄を圧迫したときに手足が麻痺したり、食道を圧迫したときに食べ物がつかえたりすることがあります。
縦隔腫瘍の検査・診断
縦隔腫瘍が疑われる場合は、血液検査や画像検査、組織学的検査などが行われます。
血液検査
血液検査では、一般的な検査項目のほか、がん細胞から作られるタンパク質などの値を調べる「腫瘍マーカー」を確認します。
画像検査
画像検査では、胸部のMRI検査やCT検査などが行われます。
MRI検査やCT検査は、腫瘍の存在だけでなく、他の臓器に転移していないかを確認する上でも重要です。
組織学的検査
組織学的検査とは、腫瘍の組織を一部採取し、顕微鏡でがん細胞の有無などを調べる検査です。組織の採取は、腫瘍の種類や部位に応じて、針を刺して採取したり、外科的に切開して採取したりする方法があります。
縦隔腫瘍の治療
縦隔腫瘍の治療には、外科的治療や放射線治療、抗がん剤治療(化学療法)があります。
治療の選択は腫瘍の種類や患者さんの状態によって異なるものの、一部の良性腫瘍と悪性リンパ腫を除いて外科的手術が第一選択されることが多いです。
外科的治療
外科的治療では、腫瘍を切除する治療が行われます。縦隔腫瘍のうち最も発症頻度の高い胸腺腫や胸腺がんの場合は、開胸手術が選択されます。一方、良性腫瘍や悪性腫瘍の初期の場合は、「胸腔鏡」と呼ばれる器具を使用して腫瘍を摘出するケースもあります。開胸手術と比較し、胸腔鏡を使用した手術の方が体への負担が少ない傾向にあります。
放射線治療
胸腺腫や悪性リンパ腫、甲状腺腫瘍、胸腺がんなどの悪性腫瘍では、病期(ステージ)などに応じて放射線治療が行われることもあります。
縦隔腫瘍の放射線治療では、体外から放射線を照射する「外部照射法」と呼ばれる治療法が考慮されます。
手術を行わない場合、抗がん剤治療と併用して行われることもあります。手術を行なって腫瘍をできる限り切除したものの、一部が残存している場合などにも「術後照射」として行われるケースがあります。
抗がん剤治療
悪性腫瘍のうち、手術や放射線治療などが適応にならないケースや、治療後に再発を認める場合には、抗がん剤治療が考慮されるケースもあります。
一般的に、胸腺腫に対しては「シスプラチン」「ドキソルビシン」「ビンクリスチン」「サイクロフォスファミド」の4種類の抗がん剤を組み合わせた「ADOC療法」が多く行われています。また、胸腺がんに対しては、「パクリタキセル」と「カルボプラチン」の2種類の抗がん剤を組み合わせた治療が標準治療として行われています。胚細胞性腫瘍では、シスプラチンを中心とした抗がん剤が用いられます。
縦隔腫瘍になりやすい人・予防の方法
縦隔腫瘍を含むさまざまな腫瘍は明確な予防法がないのが現状です。
しかし、早期発見につなげるために、普段から生活習慣を整えて健康管理に努め、定期的に健康診断を受けることが大切です。
特に、良性の縦隔腫瘍は健康診断で偶然発見されるケースもあるため、年に1回は健康診断を受けるようにしましょう。
参考文献