監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
自然気胸の概要
自然気胸(しぜんききょう)は、外的な障害が起きていないにも関わらず気胸が発生する疾患です。
気胸とは肺に穴が開いて空気が抜け、肺がしぼんでしまう状態で、肺の内部を構成する「肺胞」という小さな袋が破裂して、胸腔内(肺と胸壁の間)に空気が漏れ出し、肺が部分的または完全にしぼみます。
自然気胸は若い男性や、痩せ型の体型の人がなりやすい傾向があり、肺に基礎疾患がない場合でも発症します。
続発性自然気胸の場合、基礎疾患として肺気腫や肺結核などの肺疾患が関与することが多いです。
再発のリスクが高い疾患であり、病態によっては外科的な治療を必要とすることもあります。
自然気胸の原因
自然気胸は主に痩せ型の体形や喫煙、月経、遺伝性疾患、既存の肺疾患などによって、肺胞の表面に形成される「ブラ」「ブレブ」と呼ばれる小さな嚢疱が破裂することによって生じます。
ブラは肺実質内にできた嚢胞で直径1cm以上のもの、ブレブは胸膜内にできた嚢胞で直径1㎝未満のものを指します。
痩せ型の若年男性
自然気胸は痩せ型で高身長の若年男性に多く見られます。
通常、男性の身長が急激に伸びる時期は胸郭が上下方向に引っ張られますが、痩せ型の場合は内臓の成熟が遅く、胸郭の発達が追いつかなくなってブラやブレブができることがあります。
ブラやブレブはできてから数年以内に破れやすいこともあり、自然気胸は若年者で発症しやすくなります。
喫煙
喫煙によってブラやブレブの発生が促進され、自然気胸の原因になります。
タバコの煙に含まれる有害物質は肺胞の壁を破壊して気腫性変化を引き起こしたり、持続的な炎症により肺胞組織の脆弱化を招いてしまうからです。
急激な気圧の変化
飛行機での急上昇やダイビング時の浮上などによる急激な気圧の変化は、肺に負担をかけ、自然気胸を引き起こす原因です。
元々肺の表面にブレブやブラがある人は、気圧の変化により破裂して、自然気胸を発症しやすくなります。
月経随伴性気胸
女性の場合、月経が自然気胸の原因になる可能性があります。
子宮内膜症が胸腔に進展し、横隔膜や肺に病変ができると、月経時に繰り返し自然気胸が発生することがあります。
マルファン症候群
マルファン症候群は、結合組織に異常をもたらす遺伝性疾患であり、長身で痩せ型の体型や胸郭の異常が起こることが特徴です。
肺の組織が弱くなるため、ブレブやブラが形成されやすく、破裂して自然気胸につながります。
既存の肺疾患
肺気腫や肺結核、肺がんなどの肺疾患も自然気胸の原因になります。
肺組織が損傷を受けているため、治療が難渋しやすい特徴があります。
自然気胸の前兆や初期症状について
自然気胸の主な症状は片側に発生する突然の胸痛や呼吸困難などです。
胸痛は鋭い痛みがあり、深呼吸や咳で悪化します。
息切れや浅い呼吸が伴うこともあり、日常生活が困難になるほどの影響を与えることもあります。
軽度の場合、症状に気づかないことも多いですが、空気が皮膚に漏れ出すと皮下気腫を合併するケースもあります。
自然気胸の簡易的な自己チェックリストとして、以下の項目が挙げられています。
呼吸がしにくい、呼吸困難がある
息を深く吸うと痛みが増す
咳が続く、または咳をすると痛みを感じる
呼吸時に片側の胸が動かない感じがする
突然の息切れ、疲労感がある
重症な気胸である緊張性気胸になると、急激に肺が縮んで呼吸状態が悪化します。
緊張性気胸では胸腔内の圧力も著明に上昇するため、肺や心臓、大きな血管を圧迫して心機能にも影響を及ぼす可能性が高いです。
心臓が空気によって広がりにくくなると、血圧低下や頻脈、チアノーゼなども引き起こします。
自然気胸の検査・診断
自然気胸の診断には胸部X線検査が一般的です。
自然気胸が起きている場合、胸部X線では漏れた空気が胸部に溜まり、肺が虚脱している状態が確認できます。
必要に応じてCT検査が使用されることもあり、肺の虚脱範囲や原因となる嚢疱の状態をより詳細に評価します。
加えて身体診察で、肺音の減少や打診音の異常がないか確かめます。
自然気胸の治療
自然気胸の治療は、重症度に合わせて治療が選択されます。
軽症の場合は胸腔内の空気が自然に吸収されるのを待つため、1~3週間は安静期間が必要になります。
針吸引法(シンプルアスピレーション)
針吸引法は、細い針を胸腔内に挿入して胸腔に溜まった空気を抜き取り、肺の再膨張を促す治療法です。
特に緊急時の症状を緩和させるために行うことが多く、根本的な治療ではありません。
後に再膨張性肺水腫や気胸の再発が起こる可能性もあるため、定期的なレントゲン撮影を行う必要があります。
胸腔ドレナージ
胸腔ドレナージ治療は、胸腔にドレーンチューブを挿入して体外に空気を排出し、肺を再び膨張させる治療で、肺が中等度以上虚脱している場合に行います。
立位で取った胸部X線写真で、虚脱した肺が肺尖部(肺の一番上部)から3cmあれば、ドレナージの適応だといわれています。
参考:レジデントのためのやさいイイ呼吸器教室/長尾大志/日本医事新報社/p242
ドレーンチューブが胸腔に挿入された後、専用の装置(チェストドレーンバッグ)に接続され、胸腔内に陰圧をかけて肺の膨張を促します。
胸腔鏡下手術
胸腔鏡下手術では破裂した肺胞や肺の表面に空気が溜まった部分の切除を行います。
胸腔鏡下手術は肋骨の間に数か所穴を開けて行うため低侵襲であり、比較的術後の回復が早いです。
術後の回復が早い一方、開胸手術に比べて再発率が高いとされています。
開胸手術
肺内の炎症性病変が多く、高度な癒着や多発ブラがある場合は開胸手術が選択されることもあります。
自然気胸のなかでも続発性気胸として他に疾患がある場合に選択される治療法です。
侵襲が高い手術ですが、直視下で気胸の原因を確認できるため、再発率が低い手術になります。
自然気胸になりやすい人・予防の方法
自然気胸になりやすい人は、高身長で痩せ型の若い男性といわれています。
喫煙している場合も自然気胸のリスクが高くなるため気を付けましょう。
月経随伴性気胸の場合、予防には排卵抑制剤が有効な場合がありますが、再発する可能性があります。
自然気胸の予防として、喫煙者の場合、禁煙が最も効果的な予防法として推奨されています。
自然気胸は再発しやすいため、一度発症した人は生活習慣を見直したり、肺に過度な負荷をかける作業を避けたりしましょう。
特に激しい運動や、気圧の変化が激しい活動(ダイビングや高山登山など)は避けてください。
参考文献
- 自然気胸に対する胸腔鏡手術昭和医学会雑誌/72巻/4号/p407-410
- 初発時に高度虚脱を呈する原発性自然気胸の手術適応日本呼吸器外科学会雑誌/37巻/1号/ p. 2-7
- ソラシックエッグ®による自然気胸の外来治療の検討日本呼吸器外科学会雑誌/25 巻/1号/p. 007-012
- 続発性自然気胸における新たな術後合併症予測因子/日本呼吸器外科学会雑誌第36巻/第6号/p614-620
- 自然気胸患者における心的特性/日本歯科大学紀要/一般教育系, 35/p75-78
- 原発性自然気胸に対する脱気療法の前向き検討/日本呼吸器外科学会雑誌/第34巻/第4号/p196-199
- レジデントのためのやさしイイ呼吸器教室/日本医事新報社