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耳下腺炎
渡邊 雄介

監修医師
渡邊 雄介(医師)

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1990年、神戸大学医学部卒。専門は音声言語医学、音声外科、音声治療、GERD(胃食道逆流症)、歌手の音声障害。耳鼻咽喉科の中でも特に音声言語医学を専門とする。2012年から現職。国際医療福祉大学医学部教授、山形大学医学部臨床教授も務める。

所属
国際医療福祉大学 教授
山王メディカルセンター副院長
東京ボイスセンターセンター長

耳下腺炎の概要

耳下腺炎は、ウイルスや細菌の感染により耳下腺に炎症が起こる病気です。耳下腺は耳の前から下にかけて位置し、唾液を産生する働きをもちます。
ウイルスの感染が原因で起こる流行性耳下腺炎と、細菌の感染が原因で起こる反復性耳下腺炎と化膿性耳下腺炎にわかれます。

流行性耳下腺炎

流行性耳下腺炎はおたふくかぜとも呼ばれ、ムンプスウイルスによって引き起こされる感染症です。
3〜6歳の子どもにかかりやすく、最も発症しやすい年齢は4歳といわれています。
感染した後2〜3週間の潜伏期間を経て、痛みを伴う耳下腺の腫脹(両側もしくは片側)や噛むときの顎の痛み、発熱が起こります。症状のピークは通常、発症後48時間以内に起こり、1~2週間ほどで軽快します。
合併症として髄膜炎や脳炎、難聴などがみられることがあり、成人が発症すると精巣炎や卵巣炎が起こる可能性があります。
流行性耳下腺炎は一度発症するとムンプスウイルスの免疫ができるため、繰り返し発症することはありません。

反復性耳下腺炎

反復性耳下腺炎は細菌が耳下腺に入り込んで感染し、繰り返し耳下腺の炎症が起こる慢性的な病気です。
片側の耳下腺の腫れやわずかな痛みが伴い、耳下腺から膿がでることもあります。
流行性耳下腺炎との主な違いは、発熱が伴わないことや繰り返し発症することなどが挙げられます。
反復性耳下腺炎の症状は1〜2週間で自然に回復し、数ヶ月から数年の間隔で再発するのが特徴です。
成長につれて徐々に再発する回数が減り、10歳以降に自然に治るケースがほとんどです。

化膿性耳下腺炎

化膿性耳下腺炎は、細菌の感染によって起こる急性の耳下腺炎です。
主に片側の耳下腺に発症し、腫れや痛み、発熱、頭痛などが起こります。
重症化すると耳下腺から膿がでることもあり、放置すると波打つように耳下腺全体に膿がたまることもあるため、早めの診断と治療が大切です。
耳下腺炎のなかでは国内の症例が少ない病気ですが、子どもから高齢者まで発症する可能性があります。

耳下腺炎

耳下腺炎の原因

耳下腺炎の原因は病原体の種類によって異なります。

流行性耳下腺炎の原因は飛沫感染や接触感染によるムンプスウイルスの感染です。

反復性耳下腺炎や化膿性耳下腺炎の原因は明確にされていませんが、感染源となる菌は黄色ブドウ球菌や溶連菌、肺炎球菌などが多いと言われています。
これらの菌は口腔内に常在していますが、唾液の流れが悪くなったり免疫力が低下することで、耳下腺に逆行して侵入し、炎症を引き起こします。

耳下腺炎の前兆や初期症状について

流行性耳下腺炎と化膿性耳下腺炎の初期症状は、発熱や片側もしくは両側の耳下腺の腫れと痛みです。
流行性耳下腺炎の場合は、2〜3日後に両側の耳下腺や顎下線にも症状が広がることがあり、噛むときの痛みや食欲不振にもつながります。

反復性耳下腺炎の初期症状は片側の耳下腺のわずかな痛みと腫れで、発熱は伴いません。

耳下腺炎の検査・診断

耳下腺炎の検査では問診や身体診察、血液検査によって、3つの耳下腺炎の判別と診断をおこないます。

問診

問診では自覚している症状だけでなく、流行性耳下腺炎の流行状況やワクチン接種の有無、過去に耳下腺炎を発症したことがあるかなどについて聴取します。
合併症のリスクを評価するために、全身の症状についても確認します。
耳下腺の腫れだけでなく発熱の症状が認められたり、周囲で流行している場合やワクチン接種をしていない場合は流行性耳下腺炎が疑われます。
周囲で流行していない時期の発症や発熱がない場合は、反復性耳下腺炎の可能性があります。

身体診察

身体診察では耳の前と下を注意深く観察して触診し、耳下腺の腫れや発赤、熱感、圧痛の有無とその程度を評価します。
口のなかも観察して膿の排出や、顎下腺と舌下腺の腫れについても確かめます。
流行性耳下腺炎や化膿性耳下腺炎では、耳下腺の腫れに強い痛みが伴うケースが多く、口を開けたり飲み込むときに不快感が起こることもあります。
化膿性耳下腺炎が進行した場合では、耳下腺の開口部から膿が排出される可能性が高いです。

血液検査

血液検査は流行性耳下腺炎の確定診断としておこなう方法で、IgMとIgGというムンプスウイルスの抗体価を調べます。
検査結果でIgMが陽性、IgGが陰性の場合は流行性耳下腺炎と診断されます。
しかし、結果がでるまでに1週間ほどかかるため、問診や身体診察で流行性耳下腺炎の可能性が高いと判断した場合は、血液検査までおこなわないケースがほとんどです。
反復性耳下腺炎や化膿性耳下腺炎の可能性がある場合は、耳下腺の分泌液から細菌培養検査をおこない、原因菌の特定と抗生物質の選択に活用します。

耳下腺炎の治療

耳下腺炎の治療は3つの病気でそれぞれ異なります。

流行性耳下腺炎の治療

流行性耳下腺炎の治療は対処療法が基本となり、発熱や痛みを抑えるために鎮痛解熱剤の投与がおこなわれます。
痛みによって食事が進まない場合は流動食や柔らかい食べ物を摂取し、十分な水分補給が欠かせません。
髄膜炎が合併して脱水などが見られる場合は、点滴療法などの積極的な治療が必要です。

反復性耳下腺炎の治療

反復性耳下腺炎にはペニシリンやセフェム系の抗菌薬のほか、消炎鎮痛剤を投与します。
再発を抑えるために耳下腺に直接抗菌薬を注入したり、耳下腺内を洗浄することもあります。

化膿性耳下腺炎の治療

化膿性耳下腺炎ではペニシリンやセフェム系の抗菌薬を投与して安静に過ごします。
膿が耳下腺に波打つように見られたり、膿瘍ができている場合は、切開膿瘍術の適応になります。
切開膿瘍術は局所麻酔でおこなわれ、膿を取り除くことで症状の改善が期待できます。

耳下腺炎になりやすい人・予防の方法

耳下腺炎になりやすい人はわかっていませんが、予防法は病気によって異なります。

流行性耳下腺炎の予防で有効なのはワクチン接種で、日本小児学会では1歳以上で計2回の接種を推奨しています。
流行時期には手洗いやうがい、マスク着用などの感染予防対策を意識して予防することが大切です。

流行性耳下腺炎は感染力が非常に強く、学校保健安全法で第2種の感染症と定められています。耳下腺や顎下腺、舌下腺の腫脹が発現した後5日を経過し、全身状態が良好になるまで基本的に出席停止となります。

反復性耳下腺炎と化膿性耳下腺炎には明確な予防法はありませんが、口腔内を清潔にしながら唾液の分泌を促すと細菌の侵入を抑えられます。
毎食後の歯磨きを欠かさずおこなって衛生面を保ったり、ガムやレモンなどを摂取して唾液の分泌を促したりすることが効果的です。


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