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林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科を経て現職。診療科目は総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本老年医学会老年科専門医、禁煙サポーター。

慢性閉塞性肺疾患の概要

慢性閉塞性肺疾患(Chronic obstructive pulmonary disease:COPD)は、タバコ煙を主とする有害物質を長期間にわたり吸入することによって引き起こされる肺の炎症性疾患のことです。この疾患は、主に肺気腫と慢性気管支炎の2つの病態を含み、呼吸困難咳嗽、および喀痰の増加を特徴とします。COPDは、肺胞が損傷を受け弾力性を失い、肺の気道が炎症を起こして狭くなり空気の流れを妨げるため、日常生活に大きな支障をきたします。
日本のCOPD患者は500万人以上と推定されています。

慢性閉塞性肺疾患の原因

COPDの主な原因は喫煙です。長年にわたり有害物質を吸入することで肺の細胞に炎症を引き起こし、気道を狭め、肺の組織を破壊します。喫煙は能動喫煙(自分でタバコを吸うこと)だけでなく、受動喫煙(喫煙者ではなく、周囲の人がタバコの煙が混ざった空気を吸うこと)でもリスクとなる点に注意が必要です。
その他の原因としては、大気汚染、粉塵や化学物質への暴露、遺伝的要因などが挙げられます。特に職業的なリスクとして、炭鉱作業や建設作業に従事する人々はCOPDを発症しやすいようです。
また、遺伝的要因としてα1-アンチトリプシン欠乏症が知られており、この遺伝子異常はCOPDの発症リスクを高めます。大気汚染に関しては、都市部での生活や工業地帯での長期間の居住が影響するようです。

慢性閉塞性肺疾患の前兆や初期症状について

COPDの初期症状としては、長期間続く咳喀痰の増加体動時の呼吸困難などが挙げられます。これらの症状は徐々に進行し、次第に日常生活に支障をきたすようになります。
初期段階での症状は軽いため、風邪や加齢によるものと誤解されることが多く、診断が遅れることがあります。

症状が持続する場合や喫煙歴がある場合は、早めに一般内科、総合診療科や呼吸器内科を受診することが重要です。

COPDは進行するにつれて夜間の呼吸困難体重減少筋力低下などの全身症状が現れることもあります。これにより、生活の質が著しく低下し、社会活動や家庭内での生活が困難になることがあります。

慢性閉塞性肺疾患の検査・診断

COPDの診断には、主にスパイロメトリー(肺機能検査)が使用されます。この検査では、患者が深呼吸後に息を強く早く吐き出すことで呼吸の速度と量を測定し、気道の狭窄具合を評価します。
スパイロメトリーにより、1秒量(FEV1)努力肺活量(FVC)の比率である1秒率(FEV1%)が70%未満であることが確認されるとCOPDと診断されます。この検査は、確定診断においても病期分類においても重要です。COPDの病期は予測1秒量に対する比率(対標準1秒量:%FEV1)に基づいて1期から4期にわけられます。

また画像検査である胸部X線写真胸部CTスキャンも行います。
胸部X線写真では、肺の過膨張慢性気管支炎による気管支壁の肥厚を観察することが可能です。
胸部CTスキャンは、より詳細に肺の微細な構造変化や病変の有無を高精度で検出することができます。これにより、ほかの疾患(気管支拡張症、肺結核後遺症、びまん性汎細気管支炎など)との鑑別診断が行われ、より適切な治療方針を立てることが可能になります。

きわめて稀ですが、若年者(45歳以前)の場合は、α1-アンチトリプシン欠乏症の可能性があるため遺伝性疾患の有無を確認するため血液検査を行うことがあるようです。
α1-アンチトリプシン濃度が90mg/dL未満の場合にα1-アンチトリプシン欠乏症と診断されます。

COPDの病期分類

I期(軽度の気流閉塞)
FEV1/FVC<70%、%FEV1≧80%

Ⅱ期(中等度の気流閉塞)
FEV1/FVC<70%、50%≦%FEV1<80%

Ⅲ期(高度の気流閉塞)
FEV1/FVC<70%、30%≦%FEV1<50%
Ⅳ期(きわめて高度の気流閉塞)
FEV1/FVC<70%、%FEV1<30%

慢性閉塞性肺疾患の治療

COPDの治療は、症状やQOLの改善、疾患進行の抑制および健康寿命の延長を目的としています。主な治療法としては、禁煙、薬物療法、リハビリテーション、酸素療法、外科手術があります。

禁煙

禁煙はCOPDの症状の進行を抑えるうえで最も重要です。病気の進行度に関係なく、COPDの進行を遅らせるのに役立ち、死亡率や増悪を減少させ予後の改善が期待できます。そのため、禁煙に対する患者教育や、ニコチン依存がみられる場合にはニコチン置換療法も検討されます。

薬物療法

薬物療法の中心は、吸入療法であり、COPDの重症度や喘息病態の合併の有無によって薬剤が選択されます。また、吸入療法のみではコントロールが不十分の場合は、内服薬が追加されることもあります。

吸入薬

吸入薬は、COPD治療の中心的な役割を果たします。短時間作用型および長時間作用型の気管支拡張薬があり、これらを組み合わせて使用することで、持続的な気道拡張効果を得ることができます。
一般的に、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)長時間作用性β2刺激薬(LABA)の単独または併用で行います。短時間作用型の気管支拡張薬は必要に応じて頓用で使用されます。
吸入ステロイド薬(ICS)は、炎症を抑える効果があり、特に喘息病態が合併している場合や、頻回に増悪をきたすCOPD患者で末梢血の好酸球が増多している場合などに使用されることがあります。

内服薬

内服薬は、テオフィリン喀痰調整薬(カルボシステイン)が使用され、症状の緩和とともに急性増悪の頻度を減少させる効果が期待されます。
テオフィリンは中毒を回避するために血中濃度をモニタリングするため採血検査が必要になります。

貼付薬

吸入が困難な患者には、LABAの貼付薬を考慮することがあります。

ワクチン

インフルエンザワクチン肺炎球菌ワクチンは、COPD増悪の発症頻度を減少させることができるため接種することが推奨されます。

呼吸リハビリテーション

呼吸リハビリテーションは、COPDの呼吸困難の改善、運動耐容能の改善などに有効です。呼吸法のトレーニングや運動療法を通じて、肺機能の改善や筋力の強化を図ります。また、栄養管理もリハビリテーションの一環として重要で、適切な栄養状態の維持は、体力の向上と感染症予防に寄与します。

酸素療法

酸素療法は重度のCOPD患者に対して行われ、慢性的な低酸素血症を改善し、症状の緩和と生活の質の向上を図ります。

外科手術

外科手術として肺容量減少手術肺移植などがあります。最終手段として適応条件を厳正に検討したうえで考慮されることがあります。

慢性閉塞性肺疾患になりやすい人・予防の方法

COPDになりやすい人

COPDになりやすい人は、主に喫煙者や長期間にわたり大気汚染物質にさらされている人々です。特に50歳以上の中高年層に多くみられます。

予防の方法

予防のためには、喫煙を控えることが最も重要です。また、職業性粉塵や化学物質への暴露を避けるために、適切な防護具を使用することが推奨されます。さらに、定期的な健康診断を受けることで、早期発見・早期治療が可能となり、症状の進行を防ぐことができます。
健康的な生活習慣の維持や適度な運動、バランスの取れた食事も、COPDの予防に寄与します。


関連する病気

  • 肺癌(Lung Cancer)
  • 心不全(Heart Failure)
  • 肺高血圧症(Pulmonary Hypertension)

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