監修医師:
居倉 宏樹(医師)
は呼吸器内科、アレルギー、感染症、一般内科。日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会 総合内科専門医・指導医、肺がんCT検診認定医師。
結核(こども)の概要
結核とは「結核菌」によって生じる、慢性の感染症です。ただし、感染後に必ず結核が発病するとは限りません。なぜなら結核に感染しても、免疫機能によって菌の増殖が抑えられれば発病に至らないからです。この発病に至らない状態のことを「潜在性結核感染(Latent Tuberculosis Infection=LTBI)」といいます。
潜在性結核感染となった場合、80%~90%は生涯結核を発病しないと考えられています。一方で、免疫機能の低下により、感染者の5~10%の方は感染後数年から数十年を経て発病することもあります。このような発病を「二次型結核症(慢性型結核症、成人型結核症)」といいます。
こどもの結核について
こどもの場合は、結核に感染すると早い時期に発病するケースが多い傾向にあります。たとえば結核予防で行われるBCGワクチンを接種しない状態で、結核に感染しても発病予防の治療をしなかった場合に、発病に至る頻度は下記のとおりです。
0歳児
・30~40%:肺結核
・10~20%:粟粒結核(※)または結核性髄膜炎
(※)粟粒結核とは、肺への初感染からリンパや血液を介して全身に広がり重症化する病態のこと
1~2歳児
・10~20%:肺結核
・2~5%:粟粒結核または結核性髄膜炎
またこどもの場合は、結核発病後に一時的な発熱を認めるものの、ほとんど無症状で経過することもあります。のちに咳や発熱症状が出たときには結核が経気道性、リンパ行性・血行性などに広がり重症化しているケースが多いため、注意が必要です。
結核(こども)の原因
結核の原因は、結核菌です。結核菌は空気感染を起こし、患者から排出された結核菌は空気の流れて広範囲に広がります。
結核患者がくしゃみや咳をした際に排出された結核菌が、接触者の口から体内に入り肺胞に定着すると結核に感染します。
また稀なケースでは、母体から胎児へと感染することもあるようです。この場合は、出生後に発病し「先天性結核」と呼ばれます。
なお結核に発病登録されたこどものうち、約3/4の症例で感染源がわかっています。
50%強
本人の父母
25%程度
本人の祖父母
つまりこどもの結核の感染源は、生活を共にする成人の結核患者です。したがって成人の結核を早期に診断、治療することが、こどもの結核予防につながります。
結核(こども)の前兆や初期症状について
こどもの結核は発病しても無症状のケースが多く、前兆や初期症状に気付くことは困難です。したがって結核に感染した人と接触したなど、感染のリスクが高いときには小児科を受診しましょう。
参考までに一般的な結核の初期症状には、咳、痰(たん)、発熱など風邪のような症状が長引くといった特徴があります。さらに体重の減少、食欲の減少、寝汗増加などの症状が出ることもあるようです。
結核(こども)の検査・診断
結核の感染と発病、それぞれの検査と診断方法について紹介します。
結核感染の検査・診断
結核感染の検査、診断方法は、年齢やワクチン接種の有無によって異なります。
0~5歳/BCG未接種
ツベルクリン反応検査を優先、IGRA検査も参考
0~5歳/BCG既接種
IGRA検査とツベルクリン反応検査を併用
小学生(6~12歳)
IGRA検査とツベルクリン反応検査を併用
中学生以上(12歳~)
IGRA検査を優先(健診対象者が多い場合はツベルクリン反応検査を併用)
ツベルクリン反応検査は、結核菌に感染していると局所に発赤と硬結を伴う遅発型アレルギー反応が生じます。
一方IGRAは、血液検査によって感染の有無を調べる方法です。こどもの結核は発病すると早期に重症化しやすいため、より正確に感染診断を行う必要があります。そのため結核感染の診断をする際には、検査結果だけではなく、接触歴や状況など感染リスクをもとに総合的に判断することが望ましいとされています。
結核発病の検査・診断
結核の発病診断に適用されるのは、画像検査や菌検査です。
画像検査では、胸部単純X線検査が必須となります。
学童の場合は、呼吸を調整して撮影できるため細部まで確認できるX線画像が得られるケースが多いようです。
一方乳幼児の場合は、タイミングが合わずに精密な画像が撮影できないこともあります。
そのため結核感染が強く疑われる乳幼児に対しては、胸部CT検査を用いて慎重な評価を行うことが大切です。
菌検査では、喀痰採取による抗酸菌検査を連続する3日間実施します。
喀痰が採取できない場合には胃液培養を行います。
その他にも粟粒結核など肺以外の感染が疑われるときには、胸水・髄液・尿・便・リンパ節など感染が疑われる部位からの培養検査を行います。
ただし、こどもの発病例のうち細菌学的に診断できる例は3割程度にとどまっているようです。
そのため菌検査だけでなく、画像所見などそのほかの情報をもとに総合的に結核発病の診断をする必要があります。
結核(こども)の治療
結核の治療は、抗結核薬として抗菌薬を3剤以上併用して行います。
なぜなら単剤で治療を進めると耐性菌が作られる可能性があるからです。
治療期間は通常6ヶ月です。結核性髄膜炎や粟粒結核や骨関節結核などは、治療期間を12ヶ月程度まで延長します。
途中で薬を飲まなくなったり、指示された方法とは異なる飲み方をしたりすれば、結核菌が薬剤耐性を持ってしまうこともあります。
そうなると薬が効かなくなってしまう可能性があるので、医師や薬剤師の指示に従い治療が終わるまで正しく薬を使用しましょう。
結核(こども)で使用される薬について
代表的な抗結核剤について紹介します。
イソニアジド(INH)
投与量10~15mg/kg、1日1回連日内服
リファンピシン(RFP)
投与量10~20mg/kg、1日1回連日内服
ストレプトマイシン(SM)
投与量20~40mg/kg、1日1回筋肉注射
エタンブトール(EB)
投与量15~25mg/kg、1日1~2回連日内服
ピラジナミド(PZA)
投与量20~30mg/kg、1日1~2回連日内服(最初の2ヶ月間限定)
数種類の薬を併用するため、肝機能障害などに注意します。
乳幼児では自覚症状を訴えられず、副作用の発見が遅れないよう注意する必要があります。
EBを使用する際は視力障害に注意し、1ヶ月ごとに視力検査や眼底検査を行います。
SMを使用する際は聴力障害に注意し、治療開始前、開始1ヶ月後、治療終了時に聴力検査を行います。
結核(こども)になりやすい人・予防の方法
こどもの中でも抵抗力の弱い乳幼児は、結核感染に注意が必要です。
風邪のような症状が長引くときには病院を受診しましょう。
また予防接種法により、生後1年以内にBCGワクチンを受けることになっていますので、欠かさずに接種しましょう。
BCGワクチンの接種費用は、基本的に自治体等の負担で受けられます。
BCGワクチンとは?
BCGワクチンとは、ウシ型結核菌を弱らせた生ワクチンです。BCGワクチンを1歳未満までに接種すると、小児の結核発病を52〜74%程度減らせるといわれています。
重篤な結核性髄膜炎や粟粒結核などにも、64~78%程度もリスクを減らせると報告されています。
ただし、BCGワクチンの効果は10~15年程度です。したがって成人に対する結核予防効果は、あまりないようです。
関連する病気
- 肺結核
- 結核性髄膜炎
- 結核性リンパ節炎
- 結核性腹膜炎
- 結核性胸膜炎
- 髄膜炎
- 結核性心膜炎
参考文献