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慢性気管支炎
柳 靖雄

監修医師
柳 靖雄(医師)

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東京大学医学部卒業。その後、東京大学大学院修了、東京大学医学部眼科学教室講師、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授、旭川医科大学眼科学教室教授を務める。現在は横浜市立大学視覚再生外科学教室客員教授、東京都葛飾区に位置する「お花茶屋眼科」院長、「DeepEyeVision株式会社」取締役。医学博士、日本眼科学会専門医。

慢性気管支炎の概要

慢性気管支炎とは、気管や気管支に炎症が慢性的に起こり、痰や咳が続く病気です。
2年以上にわたって3カ月以上喀痰が続き、他の疾患を除外できる場合に診断されます。

慢性気管支炎は、喫煙やアレルギー、有害な化学物質への曝露などが主な原因です。
一方、急性気管支炎はウイルスや細菌により気管や気管支に炎症が発生し痰が出る病気で、慢性気管支炎とは治療法が異なるため区別されています。

現在は、肺気腫と慢性気管支炎の呼吸器疾患を合わせて慢性閉塞性肺疾患(COPD)と総称されています。

慢性気管支炎

慢性気管支炎の原因

慢性気管支炎の主な原因は、喫煙、アレルギー症状、有害な化学物質への曝露、感染症などが挙げられます。

喫煙

慢性気管支炎の最も重要な原因は喫煙です。タバコの有害成分によって気道の細胞に炎症を引き起こします。気道の炎症によって気道閉塞が発生することもあります。

有害な化学物質への曝露

工場などの勤務による粉塵や、タバコの副流煙、建築材料に使われるホルムアルデヒドなど化学物質に曝露した場合、慢性気管支炎の発症リスクを高めます。
ほこりが舞うような部屋での作業・生活も原因の一つです。

感染症

インフルエンザや肺炎球菌が原因で気道感染症を繰り返し発症してしまうと、慢性気管支炎の発症リスクを高める可能性があります。

慢性気管支炎の前兆や初期症状について

慢性気管支炎の前兆や初期症状は、人によって異なりますが、慢性的な咳、痰、息切れや喘鳴、胸痛といった症状が現れることがあります。

慢性的な咳

気道が炎症で閉塞してしまうため、常に刺激を受けやすく咳が出やすいです。
痰の量が多いことで痰を出そうと咳をすることもあります。
咳の種類はゴホゴホといった湿った咳です。

繰り返される気道の炎症により、気道の粘膜を守るために痰が出ることが多いです。
痰の種類は、透明でさらさらしていたり、黄色くねばねばしていたりします。

息切れ

気道の閉塞や肺の細胞が破壊されることで、息がうまく吐きにくくなり、運動や階段を上るときに息切れを伴うことがあります。
症状が進行すると、少しの動作でも息切れが伴い、日常生活が困難となる可能性もあります。

胸痛

気道や気管支の炎症では痛みを伴うことはありません。
しかし、呼吸困難による胸の痛みや締め付け感が発生することがあります。
また、咳のし過ぎで胸部の筋肉痛や神経痛を引き起こしている可能性も胸痛の原因の一つです。

喘鳴

気道が閉塞することにより呼吸時にヒューヒューという音が聞こえることがあります。

慢性気管支炎の検査・診断

以下は、慢性気管支炎の簡易な自己チェックリストです。
ただし、自己診断は専門的な医療診断の代わりにはならないため、症状がある場合は医師の診察を受けてください。

 3か月以上続く慢性的な咳がありますか?
 咳とともに痰が出ることが多いですか?
 軽い運動や日常活動で息切れを感じますか?
 喫煙者である、または過去に喫煙していたことがありますか?
 空気の汚染や化学物質に長期間さらされる環境で生活または働いていますか?

一つでも当てはまる場合は医療機関へ受診を検討しましょう。

 
慢性気管支炎の診断は、聴診、肺機能検査、画像検査、動脈血ガス分析に基づいて行われます。

聴診

聴診器で胸の音を聴いて、肺や気管に異常がないか確認するのが聴診です。
慢性気管支炎の場合は気道が狭くなってヒューヒューという音が聴取されます。
痰などが気道にあるとブツブツした音が聞こえることもあります。

肺機能検査

スパイロメトリーという機械を使って肺の機能検査を行います。
息を思いっきり吸って吐く検査で、吐いた空気の量や、1秒間で吐いた空気量が全体で吐いた空気のうちどれぐらいの割合か(1秒率)を測定します。
1秒率が70%未満で、気道閉塞の判断基準です。
参考:COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版

画像検査

肺の状態を画像で確認します。
レントゲンでは肺の過膨張変化(横隔膜が下がって見えたり、胸郭の前後径が増加したりする)が認められます。
MRIでは肺気腫があると気腫性陰影(肺の細胞が壊れている様子)が確認でき、気腫の範囲によって病型が診断可能です。

動脈血ガス分析

動脈血から採血を行い、血液中の酸素や二酸化炭素の濃度、体内の酸塩基反応を確認します。
簡便に検査できるものとしてパルスオキシメーターがあり、赤い光を当てることで経皮的に動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定します。
慢性気管支炎の場合SpO2は88〜92%を目標数値であり、88%は低酸素血症の診断が考えられます。
参考:COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版

慢性気管支炎の治療

慢性気管支炎の治療は、症状の重症度や原因によって異なりますが、安定している場合には禁煙、薬物療法、呼吸リハビリテーション、酸素療法などの治療が行われます。

慢性気管支炎は完治することはなく、症状をコントロールして進行を予防することが重要です。

禁煙

喫煙により慢性気管支炎を発症している場合は、禁煙が最も重要な治療法です。
喫煙は気管や気管支の細胞を破壊し、外から侵入する異物を防ぎにくくなったり、痰が増える原因となります。
禁煙しても壊れた細胞は元に戻らないと言われていますが、禁煙することで咳や痰が減り、症状の軽減が期待できます。

薬物療法

慢性気管支炎の薬物療法では、気管支を広げたり、痰を出しやすくしたりする薬を服用します。
気管支を広げる薬を使用する場合、吸入薬を使用することが多いです。
吸入薬を使用することで労作時の息切れなどの症状を改善するだけでなく、進行や予後を改善させる可能性もあります。
吸入が上手く行えない場合には貼付薬の使用も検討されます。

呼吸リハビリテーション

慢性気管支炎での呼吸リハビリテーションは薬物療法と並んで重要な治療の柱の一つです。下肢筋力を鍛えて運動の耐容能力を上げると息切れを軽減することができます。
また、口すぼめ呼吸などの呼吸法を学ぶことで息が吐きやすくなり呼吸困難が緩和されます。
日常生活と結びつけた反復的な動作練習も効果的です。

酸素療法

慢性気管支炎での気道狭窄や肺の破壊が重症で低酸素が継続する場合は、酸素を吸入します。

在宅酸素療法(HOT)では、自宅に酸素濃縮器(室内の空気を圧縮して酸素を作り出す機械)を置いたり、酸素ボンベを利用したりして酸素吸入が可能です。
高濃度の酸素を流しすぎたり、逆に低酸素で足りない状態が続くと意識障害を起こす危険性があるため、定期的な酸素濃度のチェックや受診が必要になります。

慢性気管支炎になりやすい人・予防の方法

喫煙は慢性気管支炎の最も大きなリスクファクターです。
喫煙しており、咳や痰、息切れなどの呼吸器症状で日常生活に支障が出ている人はすぐに禁煙しましょう。
なかなか一人で禁煙できない人は、病院で禁煙外来などの利用も効果的です。
自分が喫煙していなくても、喫煙者がいる空間に長くいることでも発症しやすいため、できるだけ避けるようにしてください。

また、粉塵、煙、化学物質などの有害な物質に曝露されている可能性がある人も、慢性気管支炎の発症リスクが高いです。
仕事上、どうしても関わる必要がある場合は高性能のマスクを着用したり、長時間の曝露にならないように時間を調整したりする必要があります。
また、引っ越しなどを契機に咳や痰が増えて悩まされる場合は、シックハウス症候群による慢性気管支炎の疑いが考えられるため注意しましょう。

さらに、インフルエンザや肺炎などの感染症は、慢性気管支炎の悪化につながります。
手洗いうがいの感染対策を基本として、ワクチンの利用も積極的に検討してください。

運動習慣や食事を見直し、定期的な運動や栄養バランスを考えたものを摂取することも慢性気管支炎の重要な予防法の1つです。


関連する病気

  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
  • 急性気管支炎
  • インフルエンザ感染症
  • シックハウス症候群
  • 新型コロナウイルス(COVID-19)

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