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胸膜炎
松本 学

監修医師
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)

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兵庫医科大学医学部卒業 。専門は呼吸器外科・内科・呼吸器リハビリテーション科。現在は「きだ呼吸器・リハビリクリニック」院長。日本外科学会専門医。日本医師会認定産業医。

胸膜炎の概要

胸膜炎は、肺の表面をおおう胸膜に炎症が起こる病気です。

胸膜は、肺を包む臓側(ぞうそく)胸膜と、胸壁の内側をおおう壁側(へきそく)胸膜の二重構造になっています。 2つの膜の間を胸膜腔(きょうまくくう)といい、わずかな量の液体があります。
その液体を胸水(きょうすい)といい、呼吸時の肺の伸び縮みによる摩擦を軽減する、潤滑剤のような役目を担っています。
胸水は臓側胸膜で作られて壁側胸膜に吸収されることで、過不足なく一定の量が保たれているのです。

しかし、胸膜炎のような何か問題が起きると胸水の生産と吸収のバランスが崩れ、正常範囲を超えて溜まる場合があります。
胸水が貯留している胸膜炎を湿性胸膜炎(しっせいきょうまくえん)、胸水が貯留していない胸膜炎を乾性胸膜炎(かんせいきょうまくえん)といいます。

胸膜炎になると胸膜に炎症が起こり、胸の痛みや咳、息苦しさ、発熱などの症状が現れます。

原因は感染症や悪性腫瘍、膠原病などさまざまです。
日本では感染症や悪性腫瘍による胸膜炎が多く、胸膜炎患者の60〜70%を占めています。
(出典:一般社団法人 日本呼吸器学会「胸膜炎」

胸膜炎の原因

胸膜炎の主な原因は以下のとおりです。

  • 感染症
  • 悪性腫瘍
  • 膠原病
  • アスベスト曝露(ばくろ)
  • 薬剤の副作用

感染症による胸膜炎では、細菌や結核が原因となっているケースが多く、細菌性胸膜炎や結核性胸膜炎といいます。
悪性腫瘍による胸膜炎では、肺がんが原因であったり、乳がんが転移したりして胸膜炎を引き起こしている場合があります。

日本では結核性胸膜炎と癌性胸膜炎が多いといわれています。

また、関節リウマチや全身性エリテマトーデスのような膠原病の場合でも、胸膜炎を引き起こす可能性があります。
アスベスト曝露や薬剤の副作用なども胸膜炎の一因です。

胸膜炎の前兆や初期症状について

胸膜炎の主な症状は、痰を伴わない乾いた咳や発熱、胸の痛みです。

悪性腫瘍にともなう胸痛は、深い息をしたり咳込んだりしたときに増強する特徴があります。
これは、臓側胸膜に存在している知覚神経が反応しているためです。

胸水が溜まる場合、両方の肺に貯留することは少なく、左右どちらかの肺に溜まることが多いです。
胸に溜まっている水が増えるにつれ、肺が圧迫されて息苦しさを感じることもあります。

原因疾患や程度により、症状の出方はさまざまです。

胸膜炎の検査・診断

胸膜炎の診断は、医師の診察に加えて以下のような検査によって行われます。

  • 胸部レントゲン検査
  • 胸部CT検査
  • 胸腔穿刺
  • 血液検査
  • 胸膜生検

胸部レントゲンは、左右どちらの肺にどれくらいの量の胸水が溜まっているのかを確認するために実施します。
胸膜炎は両方の肺に胸水が溜まることは少なく、片方の肺に貯留するケースが多いためです。

より精密に調べるために、胸部CT検査が行われることもあります。

肺に溜まっている胸水を胸腔穿刺(きょうくうせんし)によって採取し、詳しく調べて診断の材料にすることもあります。
胸腔穿刺(きょうくうせんし)とは肋骨の間から針を刺し、溜まっている液体を取り除く方法の名前です。

採取した胸水にたんぱく質が含まれている滲出性胸水(しんしゅつせいきょうすい)、たんぱく質があまり含まれていない漏出性胸水(ろうしゅつせいきょうすい)に分けられます。
原因となっている疾患によって胸水の性質が異なるため、診断の重要な材料になるのです。

血液検査では、炎症の反応を示す白血球数やCRPという値の上昇が見られることがあります。

また胸膜炎の原因となっている疾患の特定がむずかしい場合、胸膜生検が行われるケースもあります。
胸膜生検とは、胸膜の一部を採取して顕微鏡で分析する検査です。

複数の検査結果を総合的に判断して、胸膜炎の診断や原因となっている疾患の特定が行われます。

胸膜炎の治療

胸膜炎の治療では、原因となる疾患の治療が優先されることが一般的です。
たとえば感染症が原因の場合は有効な抗菌薬を、悪性腫瘍が原因の場合は抗がん剤が使用されます。

膠原病が原因で胸膜炎を発症している場合でも、同様に疾患の治療を優先しておこないます。

薬剤性胸膜炎の場合、まずは疑わしい薬剤の使用を中断することが第一選択です。

胸水が多量に溜まり呼吸困難がある場合、胸腔ドレナージによって胸水を持続的に排出します。
胸腔ドレナージとは、胸膜腔に管を入れて中に溜まっている液体を出す方法のことです。

繰り返し胸水が貯留する場合は、胸水が再び溜まらないように管から特殊な薬剤を注入し、2枚の胸膜を癒着させる手術も検討されます。

胸膜炎になりやすい人・予防の方法

以下のような場合、胸膜炎になりやすい可能性があります。

  • 免疫機能が低下している
  • 悪性腫瘍や膠原病を患っている
  • アスベストに曝露される職業である

喫煙や大量飲酒などの生活習慣は、感染症に対する抵抗力を弱め、胸膜炎の発症につながります。

糖尿病も免疫機能が低下するため、胸膜炎になる可能性があります。

悪性腫瘍や膠原病を患っている場合も、胸膜に病変をきたすことがあるため、胸膜炎のリスクがあるといえるでしょう。

アスベストに曝露する可能性がある職業の人は、アスベスト関連の胸膜炎になる危険性が高くなります。

これらをふまえて、胸膜炎を予防するためには以下の点に気をつけましょう。

  • 禁煙
  • 節酒
  • 疾患の管理
  • 防護服の使用や安全対策の徹底

たばこに含まれている多くの化学物質は、肺がんをはじめ重大な疾患を引き起こすため、禁煙は欠かせません。

また、日頃から大量に飲酒する習慣があると、食事量よりもアルコール摂取量の方が多くなる傾向があるため、栄養状態が整っていないことがあります。
栄養状態の低下にともない免疫機能も下がるため、結果的に胸膜炎になるリスクが高まります。
厚生労働省が推奨している純アルコール摂取量は1日20g程度で、ビールであれば500mlを1本分です。

悪性腫瘍や膠原病といった疾患がある場合は、適切な治療と管理が重要です。
疾患の治療をきちんと行うことが、胸膜炎の予防につながります。

職業的に胸膜炎になるリスクがある場合は、適切な防護具の使用や安全対策の徹底が必要です。
アスベストのような有害物質にさらされる可能性がある職場では、厳重な対策が欠かせません。


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