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肺水腫
本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

肺水腫の概要

肺水腫は、肺の中に液体が異常にたまる状態です。通常、肺は空気で満たされており、酸素を体に取り込む役割を果たしています。しかし、肺水腫では肺に液体がたまるため、酸素が十分に身体に行き渡らなくなり、呼吸が苦しくなります。肺水腫には心臓が原因の「心原性」と、心臓以外の原因による「非心原性」の2種類があります。

肺水腫の原因

肺水腫の原因は大きく分けて、心原性と非心原性の2つです。

心原性肺水腫

心原性肺水腫は、心不全や心筋梗塞など心臓の病気が原因です。心不全では、心臓が体全体に十分な血液を送り出せず、血液が肺に戻ってしまいます。これにより、肺に液体がたまり、肺水腫が発生します。

非心原性肺水腫

非心原性肺水腫は、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)、TRALI(輸血関連急性肺障害)、REPE(再膨張性肺水腫)、HAPE(高地肺水腫)など、さまざまな要因が関与します。

  • ARDS(急性呼吸窮迫症候群) 重篤な感染症や外傷によって引き起こされることが多く、肺の血管から液体が漏れ出します。ARDSは、肺の炎症が原因で、肺の血管が漏れやすくなり、液体が肺にたまります。この状態は、肺の働きを著しく低下させ、呼吸困難を引き起こします。
  • TRALI(輸血関連急性肺障害) 輸血後に急激に発生する肺水腫で、輸血に含まれる抗体(身体を守るためのたんぱく質)が原因です。TRALIは、輸血後6時間以内に発症し、呼吸困難、低酸素血症、低血圧などの症状が現れます。TRALIの発症リスクを減らすためには、適切な輸血管理が重要です。
  • REPE(再膨張性肺水腫) 長期間の気胸(肺の一部がつぶれた状態)後に再膨張するときに発生します。REPEは、気胸の治療後や、大量の胸水を抜いた後にに急に肺が膨らむことで、肺の血管が破れて液体が漏れ出すことが原因です。このため、気胸の治療は慎重に行う必要があります。
  • HAPE(高地肺水腫) 高地に急速に到達した際に発症して低酸素状態(酸素が足りない状態)になります。HAPEを防ぐためには、ゆっくりと高地に適応することが重要です。

肺水腫の前兆や初期症状について

肺水腫の初期症状には、急に息切れや呼吸困難になること、咳や痰が増えること、喘鳴(ぜいめい:息をするときに音がすること)などがあります。これらの症状は突然現れ、短時間で悪化することがあります。また、胸の中で水泡音(泡のような音)が聞こえることもあります。これらの症状が現れたら、早めに医療機関を受診することが重要です。

心原性肺水腫では、以下のような症状が現れることがあります。

  • 急性の息切れ
  • 呼吸困難
  • 咳(ときにはピンク色の泡状の痰を伴うこともあります)
  • 胸の中で水泡音が聞こえる
  • 夜間に悪化することが多い

非心原性肺水腫の場合も、症状は似ていますが、原因によって異なる特徴があります。例えば、ARDSでは重篤な感染症や外傷が背景にあり、TRALIでは輸血後に急激に症状が現れます。REPEでは気胸の治療後に発症し、HAPEでは高地に到達後に症状が出ます。 これらの症状が現れたときは循環器呼吸器内科、呼吸器外科を受診しましょう。

肺水腫の検査・診断

肺水腫の診断には、以下の方法が使われます。

  • 症状の確認 息切れや呼吸困難、咳、痰、喘鳴などの症状を確認します。
  • 聴診 胸に聴診器を当てて、肺の音を確認します。水泡音が聞こえる場合、肺水腫の可能性があります。
  • 酸素の量を測定 血液中の酸素濃度を測定し、低酸素血症(酸素不足)の有無を確認します。
  • 画像検査 胸部X線やCTスキャンで肺の画像を撮影し、液体のたまり具合を確認します。

心原性肺水腫の場合、心臓の超音波検査心電図検査も行います。これにより、心臓の構造や機能が正常であるかどうかを確認します。例えば、心エコー検査では心臓のポンプ機能を評価し、心不全の有無を判断します。 非心原性肺水腫の場合、一般的な血液検査特定のバイオマーカー(体内の変化を示す物質)の測定が行われることがあります。例えば、ARDSの診断には、血液中の炎症マーカーを測定することが有効です。TRALIの診断では、輸血後の症状の出現時期と関連があるため、輸血履歴の確認が重要です。REPEは、気胸の治療後に発生することが多いため、気胸の治療歴の確認が診断の鍵となります。HAPEは、高地への急速な移動が原因で発生するため、高地への移動歴を確認します。

肺水腫の治療

肺水腫の治療は、原因によって異なります。

心原性肺水腫

心原性肺水腫の治療は、主に心不全の管理に重点が置かれます。以下のような治療法があります。

  • 利尿薬の使用 利尿薬は、体内の余分な水分を尿として排出する薬です。これにより、肺にたまった液体を減少させ、呼吸を楽にします。代表的な利尿薬には、フロセミドがあります。腎臓の働きを助けて尿の排出を促進し、血液の量を減らして心臓の負担を軽減します。
  • 酸素療法 酸素療法は、血液中の酸素濃度を上げるために酸素を吸入する治療法です。酸素吸入は、鼻カニューラやマスクを使って行います。酸素療法により、呼吸困難や息切れの症状が緩和されます。
  • 血管拡張薬の使用 血管拡張薬は、血管を広げて血流を改善する薬です。これにより、心臓への負担を減らし、肺の血液量を減少させます。代表的な血管拡張薬には、ニトログリセリンがあります。ニトログリセリンは、心臓の血流を改善し、酸素供給を増やす効果があります。
  • 強心薬の使用 強心薬は、心臓の収縮力を強めて血液を送り出す力を高める薬です。これにより、心臓の機能を改善し、血液循環を良くします。代表的な強心薬には、ドブタミンやデジタリスがあります。ドブタミンは、心臓の収縮力を強め、血流を改善します。デジタリスは、心拍数を安定させ、心臓の効率を高めます。
  • 人工呼吸器の使用 重症の場合、人工呼吸器を使用して呼吸を助けることがあります。人工呼吸器は、機械的に肺に空気を送り込み、酸素と二酸化炭素の交換を助けます。これにより、呼吸が楽になり、体内の酸素供給が改善されます。

これらの治療法を組み合わせて、心原性肺水腫の症状を改善し、患者さんの状態を安定させます。治療の選択は、患者さんの状態や病歴に応じて医師が判断します。弁膜症や虚血性心疾患が原疾患の場合には、原疾患の治療を優先してカテーテル治療や外科的手術を行うこともあります。

非心原性肺水腫

酸素療法人工呼吸管理が必要となることが多い傾向です。例えば、高地での肺水腫(HAPE)の場合、早急に低地に移動することが効果的です。また、特定の薬剤(ニフェジピンやアセタゾラミド)が予防に効果的であることが示されています。ニフェジピンは血管を拡張し、肺の圧力を下げることでHAPEの発生を防ぎます。 ARDSの場合、治療は主に酸素療法と人工呼吸管理が中心です。人工呼吸器を使用して肺に十分な酸素を供給し、肺の回復を助けます。ARDSの治療には、低容量の換気(肺にかかる圧力を低くする)や体位管理(体の向きを変える)が効果的です。

肺水腫になりやすい人・予防の方法

肺水腫になりやすい人は、心臓疾患や慢性肺疾患(長期間続く肺の病気)を持っている人、高地に急速に到達する人、長期間の気胸(肺に空気がたまること)がある人などです。予防方法としては、以下が重要です。

  • 基礎疾患の適切な管理 心不全の予防には、適切な食事、運動、薬物療法が効果的です。塩分を控えたバランスの良い食事、適度な運動、医師の指示に従った薬の服用が推奨されます。例えば、ナトリウム制限食は心不全の予防に効果的です。
  • 高地への適応 高地に行く際には、徐々に高度を上げることや特定の薬剤の使用が予防に有効です。ニフェジピンやアセタゾラミドといった薬を使用することで、高地肺水腫の発生を防ぐことができます。これらの薬は、高地に適応するための体の調整を助けます。
  • 気胸の予防 気胸には特別な予防方法はありませんが、肺の健康を維持するための定期的な健康診断が推奨されます。さらに、喫煙を控えることや、呼吸器感染症を予防するためにワクチンを接種することも効果的です。例えば、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンは呼吸器感染症の予防に役立ちます。

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参考文献

  • 国立循環器病研究センター. 「肺水腫の診断と治療」
  • 日本呼吸器学会. 「急性呼吸窮迫症候群(ARDS)診療ガイドライン」

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