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伊藤 有毅

監修医師
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)

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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医

過換気症候群の概要

過換気症候群(かかんきしょうこうぐん)は、不安や緊張などの精神的ストレスが原因で、呼吸が速く浅くなる過呼吸状態を引き起こす疾患です。この状態が続くと、血液中の二酸化炭素濃度が低下し、体内がアルカリ性に傾くことでさまざまな症状が現れます。過換気症候群は特に若い女性に多く見られますが、男性や高齢者にも発症することがあります。

過換気症候群は、本態性過換気症候群と二次性過換気症候群に大別されます。本態性過換気症候群は、明らかな原因がない場合を指し、不安障害や心身症などの精神疾患が背景にあると考えられています。一方、二次性過換気症候群は、肺疾患や代謝性疾患、中枢神経系疾患などの器質的疾患に伴って発症する場合を指します。

過換気症候群の原因

本態性過換気症候群の原因

本態性過換気症候群の主な原因は、精神的な不安や恐怖、緊張などのストレスです。これらの心理的要因が呼吸中枢に影響を与え、呼吸が速く浅くなる過呼吸状態を引き起こします。不安障害や心身症、うつ病などの精神疾患が背景にあることが多く、ストレス対処能力の低下や認知の歪みが関与していると考えられています。

二次性過換気症候群の原因

二次性過換気症候群は、以下のような器質的疾患に伴って発症します
呼吸器疾患
肺気腫、気管支喘息、間質性肺疾患など
代謝性疾患
糖尿病、甲状腺機能亢進症、肝硬変など
中枢神経系疾患
脳腫瘍、脳血管障害、多発性硬化症など
その他
肥満、妊娠、薬物中毒など

これらの疾患によって、呼吸中枢や呼吸筋の機能が障害されたり、酸塩基平衡が乱れたりすることで、過換気が引き起こされます。

過換気症候群の前兆や初期症状について

過換気症候群の初期症状としては、以下のようなものが挙げられます
呼吸困難
呼吸が速く浅くなり、息切れを感じる
手足のしびれ
血液中の二酸化炭素濃度が低下し、カルシウムイオン濃度が低下することで起こる
動悸
過換気による血液のアルカリ化が原因
めまい
脳への血流量の変化が原因
吐き気
アルカリ化による胃酸分泌の亢進が原因
胸部圧迫感
過換気による胸郭の動きの変化が原因
頭痛
二酸化炭素濃度の低下や血管の収縮が原因
失神
脳への血流量の低下が原因

これらの症状は、過呼吸によって血液中の二酸化炭素濃度が低下し、体内がアルカリ性に傾くことで引き起こされます。特に手足のしびれや筋肉の痙攣(テタニー症状)は、カルシウム濃度の低下によるものです。

重症化すると、意識障害や痙攣発作を起こすこともあります。また、長期にわたる過換気状態が続くと、代謝性アルカローシスや呼吸性アルカローシスを引き起こし、さらに症状が悪化する可能性があります。

過換気症候群の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、精神科、内科です。過換気症候群は過剰な呼吸によるものであり、精神科や内科で診断と治療が行われています。

過換気症候群の検査・診断

過換気症候群の診断は、主に患者さんの症状と病歴に基づいて行われます。医師は、問診と身体所見から過換気症候群を疑い、必要に応じて以下のような検査を行います

動脈血液ガス分析

動脈血から採血し、血液中の二酸化炭素分圧(PaCO2)、pH、塩基過剰(BE)などを測定します。過換気症候群では、PaCO2が低値を示し、pHが高値(アルカリ性)を示すことが特徴的です。BEも正常値より低くなります。

パルスオキシメトリー

指先に装着したセンサーで、動脈血中の酸素飽和度(SpO2)を非侵襲的に測定します。過換気症候群では、通常、SpO2は正常範囲内にあります。

胸部X線検査

肺疾患や心疾患を除外するために行われます。過換気症候群自体では、胸部X線に異常所見はありません。

心電図検査

心筋虚血や不整脈などの心疾患を除外するために行われます。過換気症候群では、一過性の心電図変化が見られることがあります。

その他の検査

必要に応じて、甲状腺機能検査や血液生化学検査、呼吸機能検査なども行われる場合があります。これらの検査で、過換気症候群の原因となる基礎疾患の有無を確認します。

過換気症候群の治療

過換気症候群の治療は、主に以下の方法で行われます

呼吸の調整

過換気症候群の根本的な治療は、呼吸を調整することです。具体的には、ゆっくりとした深い呼吸を促し、呼吸を意識的に遅くするよう指導します。リラクゼーション法や呼吸法の習得が有効です。

心理的サポート

不安や緊張が過換気の引き金となっているため、患者さんの心理的サポートが重要です。落ち着いた環境を提供し、リラクゼーション技法やカウンセリングを行うことで、ストレス軽減を図ります。

薬物療法

必要に応じて、以下の薬物療法が行われます
抗不安薬
不安症状を軽減するために使用されます。ベンゾジアゼピン系の薬剤が代表的です。

抗うつ薬
うつ状態が背景にある場合に使用されます。

気管支拡張薬
呼吸器疾患に伴う過換気の場合に使用されます。

薬物療法は、症状の改善を図りながら、根本原因への対処を並行して行う必要があります。

かつては「ペーパーバッグ法」と呼ばれる方法が用いられていましたが、現在では酸素不足や過度の二酸化炭素上昇のリスクがあるため推奨されていません。

過換気症候群になりやすい人・予防の方法

過換気症候群は、以下のような人に多く見られます

  • 心配性や不安を感じやすい人
  • 几帳面な性格の人
  • 若い女性
  • 不安障害や心身症などの精神疾患を持つ人
  • ストレス対処能力が低い人

予防のためには、日常生活でのストレス管理が重要です。具体的には、以下のような方法が推奨されます
リラクゼーション技法の習得
呼吸法、瞑想、ヨガなどを実践する。
適度な運動
有酸素運動を定期的に行う。
十分な睡眠
睡眠不足を避ける。
バランスの取れた食事
栄養バランスに気を付ける。
趣味や娯楽の確保
気分転換の機会を設ける。
ストレス対処法の学習
認知行動療法などを受ける。

また、過換気発作が起きた場合の対処法を事前に学んでおくことも有効です。発作時には、落ち着いて呼吸を整え、リラックスした環境に移動するなどの対応が必要です。

精神的ストレスが過換気症候群の主な原因であるため、日頃からストレス管理を心がけ、適切な対処法を身につけることが予防につながります。必要に応じて、専門家に相談することをおすすめします。

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