

監修医師:
植田 郁実(医師)
ハンター症候群の概要
ハンター症候群とは、細胞内で不要になった物質を分解するための酵素が不足または欠如する遺伝性の疾患です。約5万人に一人の確率で発症し、国内には約200人の発症者がいると報告されています。発症者のほとんどは男児です。
発症者は、性染色体のX染色体に存在する「イズロン酸-2-スルファターゼ」という酵素の機能の低下や欠損が認められることがわかっています。この酵素は体内のムコ多糖を分解する役割があるため、発症者の体内には分解されなかったムコ多糖が蓄積し、さまざまな症状が出現します。
ハンター症候群は、ほとんどが男児に発症します。発症者には、発達の遅れや骨・関節の異常のほか、特徴的な顔つきなどが見られます。また、広範囲の異所性蒙古斑(いしょせいもうこはん)、臍や鼠径のヘルニア、反復性の中耳炎などを認めるケースもあります。さらに、症状が進行するにつれ呼吸障害や嚥下障害、弁膜症、肝脾腫などを合併することもあります。
また、ハンター症候群は、発症時期や症状によって大きく「軽症型」と「重症型」に分けられ、それぞれ経過が異なります。
軽症型では、知的発達の遅れなどは認めず比較的緩やかに経過するものの、幼児期の関節症状などが目立ち診断に至るケースがあります。
一方、重症型では乳幼児期から発語や知的発達の遅れが目立ち、成長とともに症状が進行して呼吸症状や神経症状などの重篤な症状を呈することがあります。
いずれの場合にも、症状は進行性で完全な治癒には至りません。しかし、発症初期に診断に至り、早期に治療を開始した場合には比較的良好な経過を辿る可能性もあります。
治療では、発症者に不足する酵素を補充する治療や、骨髄移植などが考慮されます。
出典:国立研究開発法人国立生育医療研究センター内 小児慢性特定疾病情報センター 「76.ムコ多糖症Ⅱ型」
ハンター症候群の原因
ハンター症候群は、遺伝子の異常によって発症することがわかっています。
発症者は、性染色体であるX染色体に位置する加水分解酵素(イズロン酸-2-スルファターゼ)に異常があることが確認されています。
性染色体とは、生まれ持つ性を決定するための遺伝子で、両親から1本ずつ引き継がれます。性染色体にはXとYの2つがあり、両親から引き継いだ性染色体が「XX」の場合には女児、「XY」の場合には男児として出生します。
女児の場合、1本のX染色体に異常が見られても、もう一方のX染色体がそれをカバーするタンパク質を作り出すため、見かけ上発症していることが分からない(保因者)です。 しかし、男児の場合にはX染色体に異常がある場合、もう一方のY染色体にそれをカバーするためのタンパク質を作り出すことができないため、ハンター症候群の発症者となります。
ハンター症候群の前兆や初期症状について
ハンター症候群では、生まれつき特徴的な身体所見が見られます。
顔つきは、額の突出や鼻翼の広がり、目と目の間が広い「眼間開離」、厚く幅広い唇、大きい頭部などをを呈します。
また、手足は短く、異所性蒙古斑や多毛などを認めることもあります。
さらに、関節が動かしにくくなる「関節可動域制限」や、心臓の雑音、精神発達遅延、難聴、心不全、肝脾腫など全身にさまざまな症状・疾患を認めることもあります。
軽症の場合には、初期症状として幼児期に関節の拘縮を認めることがあります。知的機能には問題ないものの、視力や聴力の低下、成長障害、骨や関節の諸症状、心臓弁膜症などを認めることもあります。
一方、重症の場合には、発語の遅れなどを機に医療機関を受診して診断に至るケースが多く、呼吸器症状や骨・関節症状、成長障害などの症状が進行性に出現します。
ハンター症候群の検査・診断
身体診察や血液検査、尿検査、画像検査などがおこなわれます。
身体診察では、ハンター症候群に特徴的な顔貌や関節可動域制限の有無を総合的に診察します。
血液検査では、全身の機能を確認するほか、採取した血液から遺伝子検査をおこない、遺伝子の異常について調べます。
尿検査では、ハンター症候群の原因となるムコ多糖の過剰な蓄積の有無を評価します。
画像検査ではX線検査やMRI検査などがおこなわれ、骨や関節の異常、脳の異常などについて調べます。
このほか、発症者の状態に応じて聴力検査や眼科検査、肺機能検査などがおこなわれることもあります。
ハンター症候群の治療
ハンター症候群の治療では、酵素補充療法や骨髄移植などが考慮されます。
酵素補充療法は2007年から承認された新しい治療法で、ハンター症候群で不足または欠如する酵素を人工的に補充する治療法です。なるべく早期に開始することで、歩行障害や心肺機能の低下などに一定の効果が期待できるほか、関節可動域の改善や中耳炎の発症頻度の減少にも効果が期待できます。しかし、精神発達遅延など神経的な症状を改善することは期待できないと言われています。
一方、骨髄移植では、赤血球や白血球などの血液細胞の元となる「造血幹細胞」の移植がおこなわれます。ハンター症候群に対する造血幹細胞移植では、治療後に通院回数を減らすことができるほか、精神発達遅延にも効果が期待できることがわかっています。
ただし、造血幹細胞移植は、ドナーが見つからない場合には治療を開始することができないため、治療を希望してもすぐに受けられるわけではありません。また、移植に伴い副作用や合併症のリスクが生じることにも注意が必要です。
酵素補充療法や造血幹細胞移植のほか、発症者の症状や合併症に応じて発達療法や呼吸療法、合併症に対する外科的治療がおこなわれることもあります。
ハンター症候群になりやすい人・予防の方法
ハンター症候群は両親のどちらかに特定の遺伝子異常がある場合に、産まれてくる子ども(特に男児)に発症する可能性があります。
遺伝子異常があることがわかっており、次世代への影響について知りたいという場合には、遺伝カウンセリングで相談するのも一つの方法です。
参考文献




