

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
ホモシスチン尿症の概要
ホモシスチン尿症は、生まれつきアミノ酸(タンパク質の一部)の代謝に必要な酵素が足りず、正常に代謝できなくなる病気です。通常、食事から摂るタンパク質には「メチオニン」というアミノ酸が含まれており、メチオニンが体内で処理されることで「ホモシスチン」という物質が産生されます。ホモシスチン尿症では、このホモシスチンの代謝がうまくいかず体に溜まり、さまざまな症状が引き起こされます。
ホモシスチン尿症は、欠損または異常をきたしている酵素に応じて「Ⅰ型」「Ⅱ型」「Ⅲ型」に分類されます。最も多いのは「Ⅰ型」で、生まれたばかりの赤ちゃんに行われる検査(新生児マススクリーニング)で見つけることができます。「Ⅱ型」と「Ⅲ型」は現在の検査では見つけにくいとされています。
体内に溜まったホモシステインは、血管や骨、目などに影響を与え、さまざまな症状を引き起こします。発症が発覚した場合は、生涯にわたって食事療法やビタミン補充などの治療を行い、症状の管理を続ける必要があります。
ホモシスチン尿症の原因
ホモシスチン尿症は、アミノ酸の代謝に必要な酵素が足りないために起こります。
Ⅰ型では、ホモシステインを別の物質に変えて蓄積を防ぐ「シスタチオニンβ合成酵素」が欠損しています。この酵素が足りないと、ホモシステインが体に溜まり、一部が尿に排出されます。
また、Ⅱ型ではビタミンB12の働きを助ける「コバラミン代謝系コバラミンC」という酵素、Ⅲ型では葉酸の代謝に関わる「葉酸代謝系メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素」が異常をきたしています。どちらの酵素も通常であれば、ホモシステインを別の物質に変える過程で重要な役割を果たしています。
ホモシスチン尿症の前兆や初期症状について
ホモシスチン尿症の症状は、型によって異なります。生まれてすぐに発見し治療を始めれば、症状が出ないこともあります。体に溜まったホモシステインは、血管や骨、目に影響を及ばせるため、治療が遅れると、以下のような症状があらわれます。
Ⅰ型の症状
知能の発達の遅れや、けいれん発作、不安、気分の落ち込みなどの症状が出ることがあります。また、背が高く手足が細長いという特徴的な体型になったり、骨がもろくなったりします。
10歳前後では、多くの患者で目の中のレンズにあたる水晶体が正常な位置からずれる「水晶体脱臼」が起こり、見えにくくなります。思春期から大人になるころには、血管の中に血の塊ができる「血栓症」が起こりやすくなります。心臓や肺、脳の血管に血栓ができると命に関わることがあります。
Ⅱ型とⅢ型の症状
乳幼児期において、発達の遅れや成長障害、けいれんなどの症状が見られます。学童期以降の子どもや大人になってから症状が出る場合は、学校の成績が急に悪くなったり、行動が変わったりすることがあります。目の症状や貧血、血栓症なども見られることがあります。
ホモシスチン尿症の検査・診断
ホモシスチン尿症を調べるには、いくつかの検査を行います。
生まれたばかりの赤ちゃんには、新生児マススクリーニングを実施します。この検査では、赤ちゃんの踵から少量の血液を採って調べます。Ⅰ型ではメチオニンが血液中に多く見つかることでホモシスチン尿症と診断できますが、Ⅱ型とⅢ型は新生児マススクリーニングでは見つけにくいです。
血液検査や尿検査も行います。血液中のメチオニンとホモシステインの量、尿中のホモシスチンの有無を調べます。メチオニンの量はⅠ型では多く、Ⅱ型とⅢ型では普通もしくは少なめですが、どのタイプでもホモシステインの量は増えています。
また、ビタミンB6を飲んで血液中の反応を確かめる検査や、遺伝子の検査をすることもあります。
ホモシスチン尿症の治療
ホモシスチン尿症の治療は、体内のホモシステインの減少を目的として行われます。
Ⅰ型の治療
Ⅰ型では、食事からメチオニンの摂取を減らすことを基本とします。メチオニンはタンパク質に含まれていて、体に必要な物質なので完全に避けることができませんが、特別なミルク(メチオニン除去ミルク)を使って摂取量を調整します。
また、体内にすでに溜まっているホモシステインを減らすために、薬が使われることもあります。薬には有害なホモシステインを減らせる利点がありますが、逆にメチオニンが増えてしまう問題もあります。そのため、医師はホモシステインとメチオニンの値を確認しながら、薬の量と食事の内容を調整していきます。
Ⅱ型とⅢ型の治療
Ⅱ型ではビタミンB12の一種、Ⅲ型では葉酸などの栄養素の補充が行われます。これらのタイプでは、Ⅰ型と異なりメチオニンが少ない場合があるため、必要に応じてメチオニンを補うこともあります。
ホモシスチン尿症になりやすい人・予防の方法
両親が共に遺伝子の異常を持っている場合、産まれてくる子どもがホモシスチン尿症を発症する可能性があります。ホモシスチン尿症の遺伝形式は常染色体劣性遺伝であり、両親がともに遺伝子の異常を持っている場合、子どもが発症する確率は4分の1です。
先天性の病気であるため完全に予防することはできませんが、出生時の検査でできるだけ早く発見し、すぐに治療を始めることで症状をコントロールできる可能性が高まります。
すでに診断されている方は、医師から処方された薬を指示通りに服用し、指示された食事の摂り方や定期的な検査の実施、血栓症を防ぐための喫煙などを心がけることが大切です。とくに女性は、妊娠・出産時に血栓症のリスクが高くなるため、医師の指示をあおぎながらコントロールすることが大切になります。
参考文献




