

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
洗剤中毒の概要
洗剤中毒とは、洗剤を誤って飲み込んでしまったようなケースで生じる中毒症状のことです。洗剤に含まれる洗浄成分である「界面活性剤」によって消化管などが障害されるため、「界面活性剤中毒」と呼ばれることもあります。
洗剤中毒では、口腔や咽頭、消化管の粘膜が刺激され、嘔吐、腹痛、下痢などの症状がみられます。重篤な例では、吐血、下血がみられることもあります。
さらに、摂取量が多かったり、洗剤の原液を飲み込んだりした場合は、けいれんなどの神経症状、肝障害、アシドーシス、肺水腫などを併発し、生命に危険が及ぶ可能性もあります。
洗剤中毒の診断では、どのような種類の洗剤をどの程度摂取してしまったのかを特定することが重要な判断基準となります。治療は症状に合わせた対症療法がとられます。
洗剤中毒は、乳幼児の誤飲事故や、認知能力の低下した高齢者の誤飲事故によって起こりやすいことで知られています。特に近年はパック型洗濯洗剤による事故が多発しており、国民生活センターや各自治体からも注意喚起が出ています。
洗剤中毒は、身の回りで起こりやすい健康被害ですが、日常生活の中で洗剤の保管や取扱いに注意することで、発生を予防することができます。
参考:国民生活センター|なくならない洗濯用パック型液体洗剤による事故
洗剤中毒の原因
洗剤中毒の原因は、洗剤に含まれる界面活性剤という化学物質です。界面活性剤は、水と油をなじませる働きを持つことから、家庭用洗剤から業務用洗剤まで、さまざまな洗剤の主成分となっています。
界面活性剤はその化学的性質により、生物の細胞膜を傷つけ破壊するおそれがあります。特に粘膜のような組織には強く作用するため、目や消化管に入ると激しい痛みや不快感を伴います。
一般的には洗剤を誤って口にしてしまった場合でも、通常はその違和感や不快感、あるいは痛みによってすぐに吐き出してしまうため、飲み込んでしまうことはまれと考えられています。しかし、パック型洗剤のようにカプセル状になった洗剤や、鮮やかな色やよい香りがつけられている洗剤では、乳幼児や高齢者が誤って口にしてしまう可能性があります。
なお、洗剤に使われている界面活性剤は数種類のタイプがあり、毒性の強さが異なります。一般的な家庭用洗剤に使われる陰イオン系、非イオン系の界面活性剤に比べ、陽イオン系、両イオン系界面活性剤は毒性が強いことが知られています。こうしたタイプの界面活性剤は、業務用の強力な洗浄剤、あるいは柔軟剤、殺菌剤、静電気防止剤などに含まれている可能性があります。
洗剤中毒の前兆や初期症状について
初期症状は、嘔吐、腹痛、下痢などで、風邪や食中毒にも似ているとされています。
重症のケースでは、吐血や下血がみられることもあります。さらには全身の脱力、筋力低下、けいれんなどの神経症状にも発展することがあります。経口摂取した量や洗剤の種類によっては、できるだけすみやかに医療処置を受ける必要があります。
重篤な症例としては、肝障害、アシドーシス、肺水腫なども知られており、こうした合併症が起きた場合は生命にも危険が及ぶとされています。
洗剤による健康被害として、経口摂取以外に注意すべき項目は、眼球と皮膚への付着です。洗剤が目に入った場合は角膜を損傷するなどのおそれがあり、強力な洗剤が皮膚についた場合はやけどのような腫れ、痛み、かゆみ、ただれなどの症状が出る可能性があります。
洗剤中毒の検査・診断
洗剤中毒の検査・診断では、まず最初に、どのような種類の洗剤をどの程度摂取してしまったのかを特定することが重要です。その後は、摂取した状況や患者さんの状態から総合的に判断し、血液検査や尿検査などの追加の検査をおこなうのが一般的です。
おう吐により、吐物が肺や気管支に流れ込んでいるようなケースでは、胸部レントゲン写真撮影やCT検査なども活用されます。胃や食道の損傷を確認するため、胃カメラ検査などがおこなわれることもあります。
洗剤を飲み込んでいることがわかっていれば、上記のように比較的容易に診断ができ、すみやかに治療に移ることができます。しかし、洗剤を摂取したことに患者さん本人も周囲の人も気がついていないような状況では、他の疾患や食中毒などと区別するのが難しく、診断が遅れるケースもあります。
洗剤中毒の治療
飲んでしまった洗剤が一般的な台所用や洗濯用などで、量がごく少量であれば、特に処置を必要としないケースもあります。まずは水で口をすすいで、コップ1杯程度の水や牛乳を飲み、様子を見ましょう。
洗剤を多量に飲んでしまった場合や、原液のまま飲んでしまったような場合はできるだけすみやかな治療が必要で、救急病院に搬送することが望まれます。患者が嘔吐する際には、吐しゃ物が泡立ちやすく、そのまま気管に入ると誤嚥性肺炎などの原因となるおそれがあるため、注意が必要です。
医療機関では、診察に基づいてさまざまな対症療法がとられます。摂取からそれほど時間が経過していなければ胃洗浄が効果的であることが知られているものの、消化管穿孔(せんこう)にはじゅうぶん注意する必要があります。そのほか、下剤や活性炭を投与することもあります。
体内に入った洗剤の毒性が取り除かれるまでの間、血圧、心臓、呼吸などを安定させる治療をおこないます。重症例では血液透析や腸管洗浄などの処置も検討されます。
洗剤中毒になりやすい人・予防の方法
洗剤中毒は、身の回りにある洗剤で起こりうるため、誰でも事故の発生リスクがあります。
ただし、特に注意が必要なのは、乳幼児を含む小児、そして認知能力の落ちている高齢者などです。
小児や高齢者は、誤飲による事故がおきやすく、また症状も重症化しやすいと言えます。
一方で、予防策を徹底することで日常生活の中で起こり得る事故は、大半を防ぐことができると考えられています。「乳幼児の手が届く範囲には洗剤を置かない」「高齢者が混乱しないように洗剤の置き場所を工夫する」など、誤飲や容器の取り違えの事故がおきないようにすることが大切です。