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重金属中毒
吉川 博昭

監修医師
吉川 博昭(医師)

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医学博士。日本ペインクリニック学会専門医、日本麻酔科学会専門医・指導医。研究分野は、整形外科疾患の痛みに関する予防器具の開発・監修、産業医学とメンタルヘルス、痛みに関する診療全般。

重金属中毒の概要

重金属中毒は、体内に重金属の成分を多く吸収することで発症する疾患です。

重金属とは、金属を比重(同じ体積の標準物質との質量比)によって大きく分類したものです。比重が4以上である、鉄、銅、鉛、マンガン、カドミウム、ニッケル、水銀など、日常生活で目にすることもある多くの金属が、重金属に含まれます。

重金属中毒にはさまざまな形態があります。 代表的な重金属中毒の例として、職業的な曝露による産業中毒(鉛、水銀、クロム、マンガンなど)、大気や水などの環境汚染による中毒(有機水銀による水俣病やカドミニウムによるイタイイタイ病など)、自殺や他殺に用いられるヒ素中毒などが知られています。

重金属が過度に体内に侵入すると、金属の種類と量によっては体の各組織の機能が阻害され、生命活動に重大な支障をきたす可能性があります。 重金属中毒の症状は原因となる金属や金属化合物によって異なります。腹痛や嘔吐などの急性症状から、臓器や神経の慢性的な障害までさまざまです。

診断は、主に血液や尿、毛髪中の重金属濃度の測定などによっておこなわれます。

重金属中毒の治療は原因や症状にもよりますが、一般的には、体内にある重金属の排出を促す「キレート剤」などでおこなわれます。 重金属中毒は迅速な対応が求められる健康被害であり、早期発見と適切な治療が重要です。

重金属中毒の原因

重金属中毒の主な原因は、体内に過剰な量の重金属が取り込まれることです。

重金属に分類されている金属のすべてが強い毒性を持つわけではありません。 鉄、亜鉛、銅など、人体で重要な働きを持つ金属もあり、重金属のいくつかはミネラルとして認識されています。さらに金、銀、白金などの貴金属のように、その希少性や化学的特性から人体への影響が意識されない金属も、重金属に分類されています。

一方で、重金属は、人体にとって有害な化合物を形成しやすいものが多いことが知られています。またミネラルとして認識される金属も含め、過剰摂取が生体機能に影響を与えるものも多く含まれています。

人体には、取り込まれた重金属類を体外へ排出する機能が備わっているものの、その排出能力を超えるような短時間での大量摂取や、慢性的な摂取の蓄積により、重金属中毒を発症します。

なお、ウランやプルトニウムなどの金属も分類上は重金属ですが、化学的毒性より放射能による毒性の影響が大きいと考えられるため、別にして扱われる傾向があります。

重金属の体内への侵入経路は経口摂取、吸入、皮膚からの吸収などがあります。

大規模な重金属中毒がおきた歴史的事例として、イタイイタイ病や水俣病などの公害事件が挙げられます。 イタイイタイ病の場合、カドミウム汚染を受けた米や野菜、飲料水を継続的に摂取したことが原因でした。 水俣病では、工場から水俣湾に排出されたメチル水銀に汚染された魚介類を、地域の住民が日常的に食べてしまったことが原因でした。

そのほか、自殺や他殺の手段として用いられるヒ素中毒のように、一度の大量摂取でも生命に危険を及ぼす場合があります。

重金属中毒は、産業活動や環境汚染、意図的な摂取によっても引き起こされる深刻な健康被害として知られています。

重金属中毒の前兆や初期症状について

重金属中毒の症状は、重金属の種類や侵入経路によってさまざまな形で現れます。

急性の症状では多くの場合、初期症状として消化器系の症状が見られ、腹痛や嘔吐、下痢、下血、吐血などが見られます。 重金属が肺に侵入した場合は、呼吸困難や肺炎などの呼吸器症状が現れることがあります。皮膚接触の場合は、接触性皮膚炎や潰瘍が生じる可能性があります。

慢性の症状では、腎臓や肝臓などの臓器障害、あるいは骨や血液の障害、そして神経系の障害など、全身性の障害も含めさまざまなものがあります。

重金属中毒の検査・診断

重金属中毒の診断は、問診や血液検査、尿検査、画像検査などを組み合わせておこなわれます。 問診では、患者の生活環境や職業歴を詳しく聴取し、重金属への曝露経路を特定します。 さらに、血液や尿、便、毛髪などの検体を用いて、原因となる重金属の検出と濃度測定がおこなわれます。 神経症状が見られる場合は、脳のCT検査やMRI検査が実施され、中枢神経系の異常の有無が確認されます。 消化器系の障害が疑われる際には、全身のCT検査もおこなうことがあります。

これらの検査結果を総合的に評価することで、重金属中毒の診断と重症度の判定がおこなわれます。

重金属中毒の治療

重金属中毒の治療は、原因物質の排除と症状の管理を中心におこなわれます。

急性毒性のある物質を摂取した場合は救命処置、あるいは胃洗浄などが優先しておこなわれます。

体内に蓄積した重金属の排出には、キレート剤が用いられ、点滴や内服で投与されます。 投与されたキレート剤は重金属と結合し、尿などの排泄物とともに体外への排出を促します。 そのほか、肺炎などの二次感染を防ぐための抗生剤投与や、各種症状に対する対症療法もおこなわれます。

重金属中毒になりやすい人・予防の方法

重金属中毒は、危険性のある重金属を摂取、あるいは曝露した場合には誰にでも発症する可能性があります。

重金属中毒の発症リスクが高い人には、神経系が未発達な小児、重金属を扱う作業に従事する人、大気や水などが汚染された環境で生活している人が含まれます。 重金属中毒の予防の基本は、重金属を体内に摂取しないことです。

対象となる金属により、具体的な予防方法や気をつけるべきことは異なります。

職業上で重金属の曝露リスクがある場合、適切な防護具の使用が重要になります。 作業中は防じんマスクや手袋、保護メガネを着用し、皮膚や呼吸器からの重金属の侵入を防ぎます。

また、重金属の環境汚染の可能性がある地域では、地元当局の指示にしたがって、水や食品の安全性に留意することが重要です。

関連する病気

  • イタイイタイ病
  • ヒ素中毒
  • カドミウム腎症
  • 鉛中毒

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