

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
コステロ症候群の概要
コステロ症候群は、1971年にCostelloによって報告された先天性疾患であり、特徴的な顔貌、神経精神発達の遅れ、肥大型心筋症、先天性心疾患、筋骨格異常など多様な症状を伴う疾患です。発生頻度は30万出生に1人程度とされており、非常に稀な疾患です。この疾患は、RAS/MAPKシグナル伝達経路に関連する遺伝子変異によって引き起こされる「RASopathy」と呼ばれる疾患群の一つです。同じくRASopathyに分類されるヌーナン症候群やCFC症候群とは類似する特徴を持ちますが、それぞれ異なる遺伝的背景を持つことが近年の研究で明らかになっています。コステロ症候群の原因遺伝子としてはHRAS遺伝子の変異が同定されており、そのほとんどは新生突然変異として発生します。
コステロ症候群の原因
コステロ症候群の主な原因は、HRAS遺伝子の変異です。この遺伝子は細胞の増殖や分化、アポトーシスの制御に関与するRAS/MAPK経路の一部を構成しています。特に、HRAS遺伝子の特定の変異が疾患発症に関与していることが報告されています。これらの変異によって、細胞のシグナル伝達が過剰に活性化し、異常な細胞増殖や形態形成異常を引き起こすと考えられています。なお、両親に同じ変異が認められることはほとんどなく、多くの場合、新生突然変異として発症します。
コステロ症候群の前兆や初期症状について
コステロ症候群は出生直後から多様な症状が認められます。新生児期には哺乳障害や摂食困難を伴うことが多く、経管栄養が必要になることがあります。また、胃食道逆流症を高頻度で合併し、頻繁な嘔吐がみられます。成長に伴い、軽度から中等度の知的障害が認められることが一般的であり、言語発達の遅れも特徴的です。特に、1~2歳までに発語が始まるものの、構音障害の影響で流暢な会話が困難な場合もあります。
頭頸部の特徴としては、相対的大頭症、厚い唇、大きな口、広い鼻根部、巻き毛などが挙げられます。乳児期には強い人見知りや音に対する過敏性、不眠傾向がみられますが、成長とともに明るく社交的な性格へと変化することが知られています。
コステロ症候群の検査・診断
コステロ症候群の診断は、臨床的な特徴と遺伝子検査によって確定されます。特に、特徴的な顔貌や心疾患、発達遅滞などが診断の手がかりとなります。臨床診断の段階では、ヌーナン症候群やCFC症候群との鑑別が重要になります。遺伝子検査によってHRAS遺伝子の特定の変異が確認されることで、確定診断が可能となります。
合併症の評価として、心臓超音波検査、脳MRI、胃食道逆流症の評価、骨格異常のX線検査などが行われます。特に、心臓病変の評価は重要であり、定期的なフォローアップが必要です。
コステロ症候群の治療
コステロ症候群に対する根本的な治療法は存在せず、各症状に応じた対症療法が中心となります。心疾患に対しては、心臓超音波検査を定期的に行い、必要に応じて薬物治療や手術が検討されます。特に、肥大型心筋症を合併する場合には、心不全管理が重要となります。
哺乳障害や摂食困難に対しては、経管栄養や胃瘻造設が必要になることもあります。また、胃食道逆流症の管理として、制酸薬の投与や外科的治療(Nissen噴門形成術など)が検討されることがあります。
発達支援に関しては、理学療法や作業療法、言語療法が推奨されます。特に、言語発達が遅れることが多いため、早期の言語療法介入が有効とされています。また、学校生活においては、特別支援教育や個別の教育プランの提供が望まれます。
腫瘍の発生リスクが高いため、定期的な腫瘍スクリーニングが必要です。特に、横紋筋肉腫や神経芽腫のリスクが高く、10歳以降では膀胱移行上皮がんの発生率も高まるため、定期的な尿検査や画像検査が推奨されます。
コステロ症候群になりやすい人・予防の方法
コステロ症候群は遺伝子の突然変異によって発症するため、予防法は確立されていません。しかし、家族内に同様の症例がある場合には、遺伝カウンセリングを受けることで、リスクを理解し適切な管理を行うことができます。
早期診断によって適切なサポートを受けることが重要であり、多職種連携による継続的なフォローアップが推奨されます。特に、成長とともに合併症が多岐にわたるため、小児期から成人期にかけての医療体制の整備が必要とされています。
参考文献
- Gripp KW, Morse LA, Axelrad M, et al. Costello syndrome: Clinical phenotype, genotype, and management guidelines. Am J Med Genet A. 2019;179:1725–1744.
- Aoki Y, Niihori T, Inoue SI, et al. Recent advances in RASopathies. J Hum Genet. 2016;61:33–39.
- Aoki Y, Niihori T, Kawame H, et al. Germline mutations in HRAS proto-oncogene cause Costello syndrome. Nat Genet. 2005;37:1038–1040.
- 青木洋子. Noonan症候群とその類縁疾患(Costello症候群,CFC症候群). 周産期医学. 2022;52:751–754.
- Gripp KW, Rauen KA. Costello Syndrome. GeneReviews. 2006.




