パラコート中毒
眞鍋 憲正

監修医師
眞鍋 憲正(医師)

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信州大学医学部卒業。信州大学大学院医学系研究科スポーツ医科学教室博士課程修了。日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本医師会健康スポーツ医。専門は整形外科、スポーツ整形外科、総合内科、救急科、疫学、スポーツ障害。

パラコート中毒の概要

パラコート中毒は「パラコート」という除草剤によって引き起こされる中毒症状です。
パラコートは世界各国で使用されてきた除草剤ですが、毒性が強く、多くの致死的な事例が報告されています。
日本では現在、パラコートの生産は中止されていますが、過去には自殺目的や犯罪に使用され、多くの死亡例がありました。

ただし、現在でもパラコートを5%に希釈した「パラコート・ジクワット製剤」は販売されており、約40mL程度の服用で致死量に達します。
パラコート・ジクワット製剤の誤飲による死亡例も報告されています。

パラコート中毒の症状は摂取量によって異なりますが、一般的にはショック症状や肝臓、腎臓、膵臓などの臓器障害、口腔内や咽頭などのびらんや潰瘍が生じます。
その後、徐々に肺線維症が進行し、呼吸不全状態に陥って死に至ります。
症例によっては当日に死亡することもあれば、十数日後に死亡する例もあります。

パラコート中毒に対する解毒薬や拮抗薬は存在しないため、迅速な対応が重要です。 
誤飲した場合は直ちに口をすすぎ、可能であれば活性炭を混ぜた水を飲ませ、すぐに医療機関を受診する必要があります。
吸入した場合は新鮮な空気のある場所に移動し、皮膚や目に付着した場合はすぐに洗い流すことが重要です。

パラコート中毒の原因

パラコート中毒の原因は、パラコートを体内に摂取することです。
主に経口摂取によって起こりますが、皮膚や気道からの吸収でも発生する可能性があります。
自殺目的での大量の飲用や、認知症の人による誤飲が多く報告されています。

また、農業従事者がビニールハウス内でパラコートを長期間使用し続けることで、吸引による慢性的な曝露が起こり、肝臓・腎臓障害や肺線維症を発症することがあります。
このような場合、数カ月後に呼吸不全によって死亡に至る例も報告されています。

パラコートは摂取すると細胞内に蓄積され、体内に重大な障害を与えるため、極めて危険な物質です。

パラコート中毒の前兆や初期症状について

パラコート中毒の初期症状は、主に吐き気や嘔吐から始まります。
吐き気や嘔吐はパラコートに催吐剤が含まれていることによって生じ、嘔吐物は特徴的な青緑色を呈します。

摂取直後から、口腔内や咽頭、食道、胃の粘膜にびらんや潰瘍が生じ始めます。
びらんや潰瘍の影響により、声がかれたり飲み込みづらくなったりすることもあります。
腹痛や下痢、吐血が生じることもあります。

その後、肝臓や腎臓、膵臓などの臓器に障害が及び、徐々に進行していきます。
腎機能障害によって尿量が減少したり、肝機能障害によって黄疸が現れたりすることもあります。

時間の経過とともに症状が進行すると、肺にも障害が及び、肺線維症へと進行します。
徐々に呼吸不全が生じ、最終的には呼吸不全によって死に至ります。

症状の進行速度や重症度は、摂取したパラコートの量によって大きく異なります。
大量に摂取した場合は中枢神経に影響が及ぶことで、けいれんや意識障害などのショック症状が起こり、循環不全によって短時間で死に至ります。

パラコート中毒の検査・診断

パラコート中毒の診断は詳細な問診から始まります。
発症時の状況やパラコートの摂取量、嘔吐物の色や性状などを確認します。
特にパラコート特有の青緑色の嘔吐物は、重要な診断の手がかりになります。

場合によっては尿検査でパラコートの存在を確認したり、血液検査で肝機能や腎機能の状態を評価したりします。
胸部X線画像診断によって肺の状態を確認することもあります。
血液ガス測定や電解質検査などによって全身状態も確かめます。

しかし、パラコート中毒は急速に重篤化する可能性があるため、受診時にすでに致死的な状態に陥っている場合は、詳細な検査よりも即座の治療開始が優先されます。
この場合、臨床症状と問診情報から診断し、直ちに救命処置を開始することが重要になります。

パラコート中毒の治療

パラコート中毒の治療の主な目的は、体内に摂取されたパラコートを可能な限り迅速に体外へ排泄させることです。
消化管内に残存したパラコートに対しては、胃や十二指腸にチューブを導入して洗浄することで直接除去します。
血中に移行したパラコートを排出させるために強制的な利尿や血液透析などの方法も用いられます。

また、パラコートは酸素によって毒性が増強するため、酸素濃度を一定に保つために持続気道内陽圧(CPAP)という人工呼吸法を実施することがあります。
腎臓や肺への障害を予防するために、大量のステロイドを投与することもあります。

すでに臓器障害が進んでいる場合は、各症状に応じた対処療法をおこないます。
腎機能障害に対しては透析療法、呼吸不全に対しては人工呼吸管理などが実施されます。

パラコート中毒の予後は一般的に不良ですが、摂取した量が少量で、早期に適切な治療を開始できた場合は、救命できる可能性があります。

パラコート中毒になりやすい人・予防の方法

パラコート中毒になりやすい人は、主にパラコート・ジクワット製剤を農業で使用する人です。
特に農村地域や農家では使用頻度が多くなるため、発症リスクが高くなります。
また、認知症の人や乳幼児は近くにパラコート製剤があると誤飲する可能性があります。

予防の方法は誤飲する可能性がある人の近くにパラコート製剤を置かないことです。適切な保管と管理を徹底することが求められます。
万が一誤飲した場合は、すぐに口をすすぎ、可能であれば活性炭を混ぜた水を飲ませます。
吸入した場合は新鮮な空気のある場所に移動し、体を温めながら安静にします。
皮膚に付着した場合は、多量の水と石鹸で十分に洗い流します。
目に入った場合はコンタクトを外し、水で洗い流します。
いずれの場合も、速やかに医療機関を受診することが重要です。

パラコート中毒は早急に重篤化する可能性があるため、迅速な対応が生存率を高める鍵となります。


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