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思春期遅発症
井筒 琢磨

監修医師
井筒 琢磨(医師)

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江戸川病院所属。専門領域分類は内科(糖尿病内科、腎臓内科)
2014年 宮城県仙台市立病院 医局
2016年 宮城県仙台市立病院 循環器内科
2019年 社会福祉法人仁生社江戸川病院 糖尿病・代謝・腎臓内科
所属学会:日本内科学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会、日本不整脈心電図学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心エコー学会

思春期遅発症の概要

思春期遅発症とは男子は15歳まで、女子は14歳までに二次性徴の兆候がまったくない状態をいいます。

出典:厚生労働科学研究成果データベース「思春期開始のサイン」

二次性徴とは、思春期に起こる男女の身体的な特徴のことです。男子は精巣の増大や外性器の成熟、陰毛や腋毛、ひげが発生し、女子は乳房発達や外性器の成熟、陰毛や腋毛の発生や月経が起きます。

二次性徴の発来は、ゴナドトロピンという性腺機能に関与しているホルモンが重要な役割を担っています。

思春期遅発症はゴナドトロピンのはたらきによって、「高ゴナドトロピン性性腺機能不全」と「低ゴナドトロピン性性腺機能不全」に大別されます。

思春期における身体的な成長に対して不安がある場合は、小児科医をはじめ専門医に相談しましょう。

この時期の成長は身体面および精神面での健やかな発達において重要な時期であるため、早期発見や早期治療が求められます。

思春期遅発症

思春期遅発症の原因

思春期遅発症の原因には、「ゴナドトロピン」という性腺刺激ホルモンが関与しているといわれています。思春期遅発症はゴナドトロピンの作用の仕方によって、「高ゴナドトロピン性性腺機能不全」と「低ゴナドトロピン性性腺機能不全」に大別されます。

高ゴナドトロピン性性腺機能不全のなかには染色体異常によるターナー症候群(Turner症候群)が、低ゴナドトロピン性性腺機能不全のなかには体質性思春期遅発症が含まれています。

体質性思春期遅発症は特発性思春期遅発症ともよばれ、両親や兄弟姉妹のなかに二次性徴の発来が遅かった人がいる場合に多くみられることが特徴です。

これは単に思春期における二次性徴の発来が遅れているだけであり、年齢を重ねるとともに兆候がみられるため、特別な治療はおこなわない場合もあります。

ほかにも、低ゴナドトロピン性性腺機能不全には過度なダイエットによる体重減少、肥満などが含まれます。

このように思春期遅発症の原因はさまざまな因子が絡んでいるため、適切な治療をおこなうためには慎重な診断が求められます。

思春期遅発症の前兆や初期症状について

思春期遅発症の前兆や初期症状は、女子の場合は乳房の発育や初経の発来がないことが、男子の場合は精巣の発達や陰茎の成長がみられないことなどが該当します。

身体的な成長の遅れは心理面へ影響を及ぼすことも少なくありません。同時代の人と身体つきが違うことで悩みを抱えることもあるでしょう。

思春期遅発症は身体的な成長をみるとともに、心理面への影響も大きいため、周囲のサポートが重要です。

思春期遅発症の検査・診断

思春期遅発症の診断は身体測定や各種検査、問診内容に基づいておこないます。必要に応じて血液検査や画像検査をおこなう場合もあります。

身体測定では身長や体重の測定に加えて、二次性徴の発達を評価できるTanner分類(タナーぶんるい)を使用します。

Tanner分類は、乳房の発育状態や陰毛の発生状態などを段階的に評価するものです。

問診では、家族歴や本人の既往歴、生活習慣などについて確認します。なかでも家族の二次性徴の発来時期や身長の伸び方などの情報は重要な診断材料です。

また、必要に応じて血液検査によって性ホルモンや成長ホルモン、甲状腺機能などに関する数値を調べ、内分泌系の状態を確認します。

疑わしい原因疾患について調べるために、染色体検査やMRI検査などをおこなう場合もあります。

思春期遅発症の治療

思春期遅発症の治療は、ホルモン補充療法や生活指導、原因疾患の治療などをおこないます。場合によっては特別な治療はせず経過観察するケースもあります。

ホルモン補充療法は、不足しているホルモンを補うことで二次性徴の発達を促す治療です。 性別や年齢、症状に応じたホルモン製剤を投与します。

また栄養失調や肥満が原因の場合は、栄養管理や生活指導をします。

思春期遅発症の原因が他の疾患である場合は、原因疾患の治療をおこないます。

たとえば、甲状腺機能低下症が原因の場合は甲状腺ホルモン剤の投与をし、脳腫瘍が原因の場合は腫瘍を摘出するなど、原因疾患に応じて治療します。

体質性思春期遅発症の場合は経過観察しながら、自然に二次性徴の発来を待つこともあります。

思春期遅発症のどの病型であっても、本人は同年代との違いに悩むことが少なくありません。その気持ちに寄り添って心理的にサポートすることも求められます。

思春期遅発症になりやすい人・予防の方法

思春期遅発症になりやすい人は、二次性徴の発来が遅かった家族がいる人や過度な食事制限により栄養失調を来している人、肥満の人や染色体異常による疾患がある人などです。

思春期遅発症は他の疾患が関与している場合があるため、予防できる範囲には限度があります。

しかし本人や周囲の人がサポートすることで予防できることもあります。

具体的には、成長に必要な栄養素が含まれている食事を摂ることや適度な運動、定期的な健康診断を受けることなどです。

思春期における推定エネルギー必要量は、年齢や性別によっても異なりますが、最も少ない場合でも1,500kcalとされています。

出典:厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020年版)

この時期は身体をつくるための重要な時期であるため、無理な食事制限は望ましくありません。反対に肥満状態の場合は、摂取エネルギー量を控えるよう指導されることもあるでしょう。

また、家族歴があり思春期における成長の遅れが気になる場合は、早めに専門医に相談することをおすすめします。

早期発見は早期治療につながるため、定期的な健康診断も欠かさず受けるようにしましょう。


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