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薬物中毒
勝木 将人

監修医師
勝木 将人(医師)

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2016年東北大学卒業 / 現在は諏訪日赤に脳外科医、頭痛外来で勤務。 / 専門は頭痛、データサイエンス、AI.

薬物中毒の概要

薬物中毒は急性中毒と慢性中毒の2つに分類されます。
急性中毒は有毒な物質が体内に入ることで、急性にさまざまな症状が出現する病気です。
具体的には、覚せい剤急性中毒や有機溶剤急性中毒、急性アルコール中毒などが挙げられます。

慢性中毒とは、薬物依存がみられる人がさらに薬物乱用をくり返すことで起こる慢性的な疾患です。慢性中毒には覚せい剤精神病や有機溶剤精神病などがあります。
原因となる薬剤の使用を中止しても、症状は自然に消えることなく時間経過とともに悪化する場合もあります。周囲の人からは症状が落ち着いたようにみえても、再び薬物を乱用する事例も少なくありません。

薬物を乱用することで一時的に起こるのが「急性中毒」、薬物乱用をくり返すことで自分の意思では薬物の使用をコントロールできない「薬物依存」という状態になります。
さらに依存に基づく乱用を続けると「慢性中毒」とよばれる慢性的な状態へと発展します。

慢性中毒は自分の意思でやめようと思ってもやめることはできません。まずは脳の病気であることを理解し、できるだけ早く専門医による適切な治療を受けることが重要です。
病気を抱えている本人だけでなく、家族も薬物中毒に対して正しい知識と対処法について学び対応していくことが求められます。

薬物中毒

薬物中毒の原因

薬物中毒の原因は急性中毒と慢性中毒により異なります。

急性中毒

急性中毒は有毒な物質が体内に入ることが原因でおこります。急性中毒を引き起こす有毒な物質には、有機溶剤や覚せい剤、麻薬、アルコールなどさまざまなものがあります。

慢性中毒

慢性中毒の原因は、薬物依存者が薬物をくり返し使用することです。

依存が形成される原因としては、脳の報酬系の異常があげられます。
薬物を摂取すると脳内にドパミンとよばれる快楽物質がでます。快楽物質がでると中枢神経が興奮し、楽しい気持ちになれたり嫌なことを忘れたりすることができます。
自分で努力や工夫をしなくても簡単に脳の報酬系を刺激できるため、脳はますます薬物を求めるようになり、依存が形成されます。

薬物中毒の前兆や初期症状について

急性中毒、慢性中毒のそれぞれの症状は下記の通りです。

急性中毒

急性中毒の症状は原因となる物質によってさまざまですが、意識障害やけいれん、呼吸・循環器に障害が見られることが多いです。

慢性中毒

慢性中毒は、妄想や幻覚などが主な症状として挙げられます。
覚せい剤精神病の場合は、「誰かが自分の悪口を言っている」などの幻聴や、「誰かに後をつけられている」などの妄想がみられます。

薬物中毒の検査・診断

急性中毒、慢性中毒のそれぞれの検査は下記の通りです。

急性中毒

急性中毒の検査には、簡易薬物検査、血液検査、心電図、画像検査があります。

  • 簡易薬物検査
    尿検査試薬を使って、体内の薬物の有無を調べます。
  • 血液検査
    原因となる毒物を調べたり、合併症を見つけたりすることができます。
  • 心電図
    急性中毒の症状として、不整脈がみられることが多いです。急性心不全や不整脈をすぐにみつけられるように、モニター心電図で継続的に観察をおこないます。
  • 画像検査
    急性中毒では、長時間の意識障害を起こす場合があります。その場合、下肢静脈血栓や肺塞栓(はいそくせん)が合併していないか確認するために、造影CTをおこないます。

慢性中毒

慢性中毒の検査には血液検査や尿検査があります。薬物使用直後であれば、簡易尿検査で薬物の種類を特定できます。

薬物中毒の治療

急性中毒、慢性中毒のそれぞれの治療は下記の通りです。

急性中毒

急性中毒では意識障害やけいれん、呼吸・循環障害といった症状がよくみられるため、気道と循環の確保を優先します。

意識がはっきりしない場合は誤嚥(食べものが誤って気管に入ること)による窒息の可能性があるため、気道確保を目的として気管挿管をおこないます。

けいれんしている場合にはジアゼパムやドルミカムなどの薬剤を使用しますが、それでも収まらない場合には静脈麻酔薬の使用を検討します。

また命の危険がある不整脈が出現した場合には、除細動をおこなうこともあります。
その後はできるだけ早く体の外へ毒物を出すために、胃の洗浄や活性炭の注入、原因薬物に対する解毒薬(拮抗薬)の投与をおこないます。

慢性中毒

慢性中毒の治療は断薬が基本となります。

幻覚や妄想の症状がある場合は、向精神病薬の薬が処方されます。症状は内服後1~3ヶ月以内に改善することが多いといわれています。
幻覚や妄想などの精神症状は改善しても、薬物に対する依存自体が消えたわけではありません。薬物依存が治らない限り、薬物乱用をくり返してしまいます。

薬物依存を改善する治療としては以下が挙げられます。

  • 心理療法
    集団精神療法としてのミーティングや認知行動療法などのプログラムがおこなわれます。あわせて家族へのプログラムも実施されます。認知行動療法とは、ものの受け取り方や考え方、行動の仕方を修正することを目的としておこなわれる治療法です。
  • 自助活動への参加
    自助活動には、入所型の民間リハビリテーション施設(ダルク)や同じ薬物依存の仲間が集まってミーティングを行う自助グループ(ナルコティクス・アノニマス)があります。

自助活動は、依存症という障害がつくられる上で変化してしまった、生活習慣や物事のとらえ方、対人関係などを改善していくうえで効果があります。依存状態を抜け出すためには、良くなったり悪くなったりをくり返しながら、時間をかけて回復していく必要があります。
自助活動へ参加し、同じ問題を抱える仲間と支え合うことは、回復までの長い道のりを乗り越える手助けとなります。

しかし薬物依存者は「止めようと思えばいつでもやめられる」と障害を認めず、なかなか治療を受けたがりません。
薬物依存者の家族が、ダルクの家族会に参加した時点では治療を拒否していても1年後にはそのうちの約半数が治療機関につながっているという調査結果がでています。そのため長期目線で少しずつ治療につなげる心持ちが必要です。

薬物中毒になりやすい人・予防の方法

薬物中毒になりやすい人の特徴には、低年齢で薬物を使い始めた、うつなどの精神疾患がある、過去に家族が薬物を使っていた、薬物を使う人が周りにいるなどが挙げられます。

薬物中毒の予防は、たった1回でも薬物を使わないこと、また他人に薬物を勧められても断ることです。

慢性中毒は、本人だけではなく家族を巻き込む病気です。自分の力で薬物の使用をコントロールできないため、家族の手助けが必要となります。
ただし家族の問題として悩みを抱え込む必要はありません。最寄りの保健所、各都道府県にある精神保健福祉センターなどの機関に相談し、できるだけ早く専門医による治療につなげることが、解決の糸口となるでしょう。


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