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先天性風疹症候群
馬場 敦志

監修医師
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)

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筑波大学医学群医学類卒業 。その後、北海道内の病院に勤務。 2021年、北海道札幌市に「宮の沢スマイルレディースクリニック」を開院。 日本産科婦人科学会専門医。日本内視鏡外科学会、日本産科婦人科内視鏡学会の各会員。

先天性風疹症候群の概要

先天性風疹症候群とは、妊娠中の女性が感染した風疹ウイルスが胎児へ感染し、先天的な障害をもたらす疾患です。

風疹ウイルスが胎盤を通過して胎児に感染し、さまざまな臓器や組織の発達に障害を与えます。

先天性風疹症候群が発症する確率は、妊娠1カ月時点での感染で50%以上、2カ月で35%、3カ月で18%、4カ月で8%程度で、妊娠して間もない時期であるほど高くなることが分かっています。

出典:国立感染症研究所「先天性風疹症候群とは」

風疹の流行年と先天性風疹症候群が多く発生する年は一致しており、街中で風疹が流行すると先天性風疹症候群の発生頻度も上がります。

風疹の予防接種が普及した現在では、先天性風疹症候群の発生頻度は低いですが、完全に無くなったわけではありません。

先天性風疹症候群の予防のためには、妊娠前の風疹ワクチンの接種が非常に重要です。

子どもの頃に風疹の予防接種をしていても抗体価が低下している場合もあるため、これから妊娠を考えている人や近くに妊娠している女性がいる人は、一度風疹の抗体価を検査することをおすすめします。

また、妊娠中は風疹患者との接触を避けるなどの感染予防に努めることが大切です。

先天性風疹症候群の原因

先天性風疹症候群は、風疹ウイルスが妊娠中の女性の胎盤を通して胎児に感染することが原因です。

風疹ウイルスは非常に小さなRNAウイルスで、飛沫感染や接触感染によって伝播します。

妊娠している女性が風疹ウイルスに感染すると、ウイルスは胎盤を通過して胎児に感染し、発育中の臓器や組織に重大な影響を与えます。

全妊娠期のなかでもとくに妊娠20週(6カ月)までが感染のリスクが高いとされています。

出典:厚生労働省「風しんについて」

この時期の胎児は重要な器官が形成される時期で、感染によって成長や発達に遅れが生じる可能性があります。

とくに影響を受けやすい器官は、耳や目、心臓で、これらの器官の障害が、難聴、白内障、先天性心疾患などの症状を引き起こします。

先天性風疹症候群の前兆や初期症状について

先天性風症候群の主な症状は以下のとおりです。

  • 難聴
  • 白内障
  • 先天性心疾患

難聴

難聴は妊娠3カ月以降の女性が風疹に感染した場合でも出現する可能性があり、先天性風疹症候群の80〜90%の割合で出る症状です。

出典:国立感染症研究所「先天性風疹症候群にみられる難聴」

先天性風疹症候群による難聴の程度は軽度から重度まで幅広く、左右どちらかの一側に出現することもあり、症状の出現の仕方がさまざまです。

白内障

白内障は妊娠3カ月以内の女性が風疹に感染した場合に発症することが多く、先天性風疹症候群の約30%の割合で認められる症状です。

出典:日本周産期・新生児医学会「先天性風疹症候群(CRS)診療マニュアル」

白内障による水晶体の白濁は、全体に白濁すると肉眼でも確認できますが、部分的に白濁している場合は肉眼での発見が難しい場合もあります。

先天性心疾患

先天性風疹症候群の心疾患では、動脈管開存症や心室中隔欠損症などが認められることがあります。

妊娠3カ月以内の女性が風疹に感染した場合に発症するケースが多いです。

出典:工藤典代「先天性風疹症候群の予防と対応」千葉県県立保健医療大学健康科学部栄養学科

先天性風疹症候群の検査・診断

先天性風疹症候群を診断するための検査は以下のとおりです。

  • 血液検査
  • ウイルス分離同定検査
  • PCR検査

血液検査

血液検査では風疹ウイルスに対する IgM抗体と IgG抗体を調べます。

IgM抗体は感染症の急性期に産生されるもので、新生児は胎児のときにすでに風疹ウイルスに感染しているため、出生後の血液検査でIgM抗体の上昇が認められます。

IgG抗体はIgM抗体よりも少し時期が遅れて産生される抗体です。

どちらの抗体検査も先天性風疹症候群の診断をする際に重要な手がかりとなります。

ウイルス分離同定検査

ウイルス分離同定検査とは、新生児の咽頭ぬぐい液や唾液、尿から風疹ウイルスを直接調べる方法です。

全ての医療機関で実施されている検査方法ではありませんが、風疹ウイルスに感染している子どもからは長期間風疹ウイルスが検出できるため、疑わしい場合は早めに検査を受けることが大切です。

PCR検査

PCR検査は風疹ウイルスの遺伝子を確かめる検査です。

ウイルス分離同定検査と同様に咽頭ぬぐい液や唾液、尿を調べることが多く、白内障をきたしている水晶体の一部を利用して調べる場合もあります。

PCR検査は微量のウイルスでも検査することができ、感度も良い点が特徴です。

ただし検査できる医療機関は限られているため、先天性風疹症候群を疑う場合は早めに実施できる施設を探して検査を受けてください。

先天性風疹症候群の治療

先天性風疹症候群の治療は、症状の種類や重症度に応じて実施します。

難聴の治療

難聴は人工内耳を植え込みする手術や、補聴器の装着などによって治療します。

視力障害も併発していることがあるため、早期からの介入が重要です。

白内障の治療

白内障は手術が可能と判断された時点で、水晶体を除去し人工の水晶体を挿入する手術をおこないます。

目の白濁が長期間に及ぶと視力に障害が出る可能性もあるため、可能な限り早く治療することが望ましいです。

先天性心疾患の治療

先天性心疾患の治療は、程度によっては自然治癒することもあるため経過観察する場合もあります。

外科的治療を要する場合、手術ができると判断した時点で動脈管開存症や心室中隔欠損床などに対する手術を実施します。

先天性風疹症候群になりやすい人・予防の方法

先天性風疹症候群になりやすいのは以下のような人です。

  • 風疹の予防接種を受けていない妊婦の胎児
  • 風疹に対する免疫が低下している妊婦の胎児
  • 風疹が流行している地域に住んでいる、または流行している地域へ渡航する妊婦の胎児

これらをふまえて、先天性風疹症候群を予防するためには、風疹の予防接種を受けることが重要です。

日本では1歳と小学校入学前に風疹の予防接種が必要とされていますが、これらの機会を逃した人や十分な免疫を持っていない人もいます。

妊娠を計画している女性は事前に風疹の抗体検査を受け、抗体価が低い場合は風疹の予防接種を受けることが推奨されています。

ただし、風疹の予防接種後2カ月程度は避妊が必要です。

出典:厚生労働省「風しんについて」

またパートナーや家族が十分な免疫を持っていることも、間接的な予防につながります。

妊娠している女性がいる周りの人は風疹の抗体検査を受け、 必要に応じて風疹の予防接種を受けましょう。

妊娠している女性は風疹ワクチンを接種していても、手洗いやうがいなどの感染予防対策を徹底しておこなってください。


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