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本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

ナルコレプシーの概要

ナルコレプシーは睡眠障害の一種で、睡眠覚醒中枢の機能異常による過眠症のことです。過眠症は夜間に十分な睡眠をとっているにも関わらず、日中に目覚めていられないほどの強い眠気に襲われる状態を指します。過眠には、身体症状によって睡眠不足になるものと脳の機能調整がうまく行われずに起こるものがあり、ナルコレプシーは後者になります。
ナルコレプシーは1880年にフランスの医師によって提唱されました。ギリシャ語で眠気を意味するナルコと発作を表すプレシーが組み合わさった言葉です。日中に過度な眠気が出現し、歩行中や食事中など眠ることがないと思われる状況で突然居眠りが起こります。主な症状は、睡眠発作・情動脱力発作・睡眠麻痺・入眠時幻覚です。突然、数分から数十分ほどの短い眠りにおちるため、日常生活に支障をきたします。タイプ1とタイプ2があり、タイプ2のナルコレプシーでは情動脱力発作の症状が生じないのが特徴です。
また、ナルコレプシーは10〜20代前半で発症し、特に14〜16歳で増加します。40歳以上での発症は稀です。症状は徐々に進展し、数年かけてさまざまな症状が出るようになり長時間持続していきます。日本での有病率は0.16〜0.18%と推定されており、男女差は認められていません。遺伝学的にみると一卵性双生児の一致率は20〜30%、親や兄弟などの第一近親発症率も1〜2%と報告されています。

ナルコレプシーの原因

オレキシン神経が免疫細胞の攻撃を受けて変性・脱落することが原因と考えられています。オレキシン神経は覚醒状態を保つ神経ペプチドのオレキシンを作っている神経です。オレキシンは、睡眠や覚醒などを制御している神経ペプチドで、睡眠や覚醒パターンに欠かせない物質と考えられています。

情動脱力発作が生じる症例では、約90%で髄液中のオレキシン濃度が健常者よりも顕著に低下しています。オレキシン濃度の低下は発症時から始まり、一卵性双生児の不一致例では、健常側のオレキシン濃度は正常です。

これにより、オレキシン神経の障害は発症前に始まる可能性があります。ナルコレプシーには、遺伝要因・環境要因・自己免疫など複数の因子が関連していると考えられています。

ナルコレプシーの前兆や初期症状について

日中の強い眠気がナルコレプシーの初期症状です。後になって情動脱力発作が現れ始めます。ナルコレプシーで現れる症状は次の4つです。

  • 睡眠発作
  • 情動脱力発作
  • 睡眠麻痺
  • 入眠時幻覚

睡眠発作は、日中に耐えがたい眠気に襲われ、歩行中や食事中など通常では眠らない状況で眠り込むことです。情動脱力発作は大笑い・驚き・怒りなど強い感情が引き金となって、突然一時的な筋力低下が生じ、数秒から数分の短い時間で自然に回復します。

脱力の程度は呂律が回りにくい・頬が緩むなどの体の一部に脱力が生じるものから、床に崩れ落ちるまで個人によって程度は異なります。睡眠発作・情動脱力発作ともに症状の持続時間が短いのが特徴です。

入眠時幻覚は、入眠時に起きる視覚性・体感性を伴う幻覚です。部屋に人がいる・浮遊感がある・体の上にのられるなど現実感の強い幻覚を生じます。寝起きの際にも同様の症状が現れる場合があります。

ナルコレプシー患者さんの30%ほどに認められる症状です。睡眠麻痺は、入眠時や出眠時に全身の力が抜けてしまい、体が動かせず声も出せなくなる症状です。動けない状態が数秒から数分続き、幻覚と同時に生じる場合もあります。

気になる症状がある方は、精神科・心療内科・神経内科を受診してください。可能であれば睡眠障害の治療や研究に力を入れている病院やクリニックがおすすめです。

ナルコレプシーの検査・診断

診断は、発症時期・眠気の状態・症状の経過などの問診から始まります。本人に眠気の自覚が乏しいケースもあるため、家族からの聴取も重要な情報です。ナルコレプシーは、タイプ1とタイプ2に分かれており、参考にする睡眠障害国際分類(ICSD-3)の診断基準もタイプによって異なります。

タイプ1

以下は、情動脱力発作が起こるタイプ1の診断基準です。

  • 耐えがたい睡眠欲求や日中に寝込むようなことが毎日、少なくとも3ヵ月以上続く
  • 下記のいずれか、もしくは両方がある
  • 情動脱力発作があり、かつ睡眠潜時反復検査(MSLT)の基準を満たしている
  • 脊髄液中のオレキシンAの濃度が低値

オレキシンには構造は異なりますが、機能的には同じAとBがあります。このオレキシンAが検査で110pg/mL以下あるいは平均の1/3未満の際に低値と定義されています。

タイプ2

次は、情動脱力発作が起きないタイプ2です。

  • 耐えがたい睡眠欲求や日中にも寝込むようなことが毎日、少なくとも3ヵ月続く
  • MSLTの基準を満たしている
  • 情動脱力発作が生じない
  • 脊髄液のオレキシン濃度が未測定か、測定した場合にオレキシンの欠乏がない
  • 過眠症状やMSLTの所見が、睡眠不足・閉塞性睡眠時無呼吸・睡眠後退障害・薬物や物質による影響あるいはこれらからの離脱では説明できない状態

閉塞性睡眠時無呼吸は、睡眠時に気道が塞がれることで無呼吸になる症状を指します。睡眠後退障害は加齢での体内時計の変化によって、夕方に生じる眠気や早朝覚醒のことです。

睡眠ポリグラフ(PSG)

診断は、上記の症状の有無や睡眠検査によって判断します。睡眠の度合いやレム睡眠の現れやすさを評価するために、睡眠ポリグラフ検査(PSG)・睡眠潜時反復検査などが行われます。PSGは、入院して行う睡眠時の生体活動を測定する検査です。脳波・心電図・眼球運動・呼吸・酸素飽和度などが測定できます。睡眠段階や呼吸の状態などが評価できるため、睡眠障害の診断に使われやすい検査です。ナルコレプシーでの睡眠ポリグラフ検査は、眠気の原因が閉塞性睡眠時無呼吸やそのほかの睡眠障害の可能性を排除するために行います。

睡眠潜時反復検査(MSLT)

MSLTも入院が必要な検査で、日中の眠気を客観的に評価する検査です。9〜17時まで2時間おきに20分程眠ってもらい、眠るまでの早さから眠気の強さを判定します。判定方法は2点あり、平均入眠潜時と入眠期レム睡眠期の回数を算出します。入眠潜時は、消灯から睡眠段階が最初に生じたところまでの経過時間です。5回行った平均を出します。入眠期レム睡眠期は、入眠後15分以内に生じるレム睡眠のことです。ナルコレプシーの診断基準の1つに入っているMSLTの基準とは、平均睡眠潜時が8分以下、かつ入眠機レム睡眠期が2回以上を指します。

ナルコレプシーの治療

薬物療法と非薬物療法があり、薬物療法は効果的です。適切な治療を行うことで日常生活に支障がでるような症状をある程度コントロールできるようになります。日中の眠気に対しては、メチルフェニデート・ぺモリン・モダフィニルが処方されます。

情動脱力発作・睡眠麻痺・入眠時幻覚には、レム睡眠抑制作用を持つクロミプラミンなどの三環系抗うつ薬が有効です。頻尿などの副作用や服薬が難しい場合には、セロトニン再取り込み阻害薬やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬が使われます。

夜間の睡眠障害にはベンゾジアゾピン系や非ベンゾジアゾピン系の睡眠導入剤を用います。また、非薬物療法では、規則正しい生活を心がけて睡眠の質を高めるのがおすすめです。

ナルコレプシーになりやすい人・予防の方法

遺伝子によってはナルコレプシーになりやすい可能性があります。しかし、その遺伝子を保有していることで発症するわけではありません。

ナルコレプシーの患者さんでは、ヒト白血球抗原と呼ばれるHLAのDR2が陽性であり、日本人の多くの患者さんでこの遺伝子の保有が確認されています。HLAは、免疫系が敵か味方かを判別する複雑な抗原系です。

日中の眠気や睡眠発作の予防には、夜間の睡眠時間の確保・短時間の計画的な昼寝がおすすめです。

ナルコレプシーの患者さんには、日中によく寝て夜は眠れない方もいます。夜間に眠れるよう早めに寝るようにしてもらうことで睡眠時間を確保してください。また、睡眠不足は過眠症状の悪化にもつながるため睡眠不足にならないように短時間の昼寝なども予防の1つになります。

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