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本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

アナフィラキシーの概要

アナフィラキシーとは、アレルギー反応が複数の部位に同時に現れて急速(数分~数時間)に悪化する状態を指します。 症状のうち、急激な血圧の低下・意識レベルの低下・呼吸困難などを伴うものをアナフィラキシーショックと呼び、死亡につながる場合もある重篤な症状です。 アナフィラキシーは、主としてアレルギーの原因物質(アレルゲン)に対する抗体・IgEができている(感作)人が再びアレルゲンに曝露した場合に発症します。 したがって、以前何らかのアレルゲンで症状が出た経験がある人は、次回の発症ではアナフィラキシーに発展するリスクが大きくなります。 ただIgEが関与しないなど、原因によっては過去に問題がなかったアレルゲンでも突然アナフィラキシーがおこる場合や、初回の暴露で発症する例も稀ではありません。 アナフィラキシーをおこすアレルゲンは多種多様で、なかでもハチ毒によるアナフィラキシーはよく知られる事象です。 主な誘因はハチなどの昆虫毒・薬剤・食物で、特に昆虫毒や注射薬の場合は数分~30分程度で症状が現れます。重症化すると命に関わるため、迅速な対応が必要です。

アナフィラキシーの原因

アナフィラキシーを発症する原因(誘因)は、食物・薬剤・昆虫毒の3つが大半です。 ほかにはOIT(経口免疫療法)中の発症や、小麦粉に混入したダニによる発症などがあります。それぞれ個別に見ていきます。

食物

ごく一般的に見られるアレルギー・アナフィラキシーの誘因に、食物アレルギーがあります。日本アレルギー学会の調査によると、全体の68.1%が食物アレルギーによる発症でした。具体的な食品では、牛乳・鶏卵・小麦・落花生・クルミなどが上位を占めています。 これとは別に、食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)が5.2%、経口免疫療法(OIT)中の発症が2.5%あり、これを合わせると75.8%が食物に関わる原因となっています。

薬剤

アナフィラキシーの誘因のうち、11.6%が薬剤によって発症したものでした。薬剤の内容は、造影剤や検査試薬などの診断用薬・血液製剤やワクチンなどの生物学的製剤・腫瘍薬・抗生剤などの医薬品が大多数を占めています。

昆虫毒

昆虫類の毒によるアナフィラキシーは4.4%を占め、ハチ毒が代表的です。ハチ毒の成分には痛みをおこすヒスタミンのほか、アレルゲンとしてホスホリパーゼAなどの酵素やアンチゲン5があり、これが血圧低下や呼吸困難などのアナフィラキシー症状をおこします。 ハチ以外では、ヒアリやオオハリアリによるアナフィラキシー発症と死亡例の報告がありました。

そのほかの原因

アナフィラキシーのアレルゲンはさまざまです。魚の寄生虫アニサキスや、小麦粉に混入したダニの死骸・ラテックス・アルコール・精液・熱・寒冷・運動などのほか、原因不明のアナフィラキシーもわずかながら存在します。

アナフィラキシーの前兆や初期症状について

アレルゲンに曝露すると、抗体のIgEが反応してヒスタミン・ロイコトリエンなどのアレルギー物質が放出されます。 この影響で現れることがあるのがかゆみ・紅潮・粘膜の腫れによる鼻づまり・不安感などの前兆です。症状が出た場合アレルギー科が窓口ですが、なければ近くの総合病院内科を受診しましょう。

初期症状

初期の症状として数分~2時間程度にかけて現れるのが即時型症状です。アナフィラキシーではほとんどが発症が早い即時型で、遅延型は稀です。 アナフィラキシーの症状は、軽度から重度まで3段階に分けられます。初期では軽度のじんましん・鼻水・のどの違和感程度のこともありますが、ごく短時間で重度に進行する可能性が高いため、軽視すべきではありません。

同時多発的におこる症状

アナフィラキシーの特徴である、各部位に同時多発的におこる症状は以下のとおりです。命に関わる症状もあり、迅速な対応が求められます。
  • 皮膚・粘膜:じんましん・発赤・眼瞼や口唇浮腫・眼結膜充血など
  • 呼吸器:せき・鼻水・喘鳴・胸の絞め付け感・呼吸困難など
  • 循環器:頻脈・血圧低下・蒼白・徐脈など
  • 消化器:口やのどの違和感や痒み・咽頭痛・腹痛・下痢など
  • 神経:脱力・眠気・頭痛・恐怖感・失神など
こうした症状のうち、脱力・血圧低下・意識レベルの低下が見られた場合は重篤なアナフィラキシーショックの可能性があるので、できるだけ早期の治療開始が重要です。

アナフィラキシーの検査・診断

アナフィラキシーはすでに重症で症状の進行も早く、通常の疾患のような機器などを使う検査・診断を行う余裕がありません。 アナフィラキシーが疑われる場合は、症状による診断で速やかに治療を開始します。 具体的には以下の3項目のうちどれか一つに該当すれば、アナフィラキシーと診断されます。
  • 皮膚か粘膜のどちらかに急速(数分~数時間以内)に現れた症状があり、呼吸器か循環器のどちらか、または両方の症状を伴う
  • アレルゲンになるものへの暴露後、急速に現れた皮膚や粘膜・呼吸器・循環器・消化器症状のうち少なくとも2つを伴う
  • アレルゲンへの暴露後、急速な血圧低下が見られる
症状の観察でアナフィラキシーの可能性を確かめるとともに、必要な人員・薬剤・備品の手配や確保など治療へ向けた準備が同時進行で始められます。 原因物質を特定するための検査はアナフィラキシーからの回復後に行われ、症状の回復に向けた治療や次のアレルゲン暴露への対策に備えます。

アナフィラキシーの治療

アナフィラキシーの治療は、症状による診断でアナフィラキシーが疑われるとされた直後に開始します。 患者さんの呼吸器・循環器・精神状態・皮膚の状態と体重を確認後、薬物による治療を行います。

アドレナリン注射

アナフィラキシーの治療では、アドレナリンが第一選択薬になります。もともと体内の副腎皮質から分泌されるホルモンで、心拍数を増やしたり血圧を上げたりして身体の機能を高める作用を持つ物質です。治療薬として使うことで、心臓の収縮力が強化されて血圧を回復させ、気管支を拡張し気道の浮腫を抑制できます。 この作用により下記のようなアナフィラキシーの症状改善が期待できます。
  • 低血圧の緩和
  • アナフィラキシーショックの予防
  • じんましん・血管性浮腫の軽減
  • 上気道閉塞の軽減
  • 下気道閉塞の軽減
アドレナリンの注射によって呼吸困難や心停止につながる危険な症状が緩和される可能性が高いため、治療ではアドレナリン注射が優先的に使用されます。この注射は成人では1回あたり0.5mgが最大量です。治療では1mlあたり1mgの濃度で0.5mlが筋肉注射されます。 血中濃度は40分で半減するので、効果が出にくい場合は5~15分おきに反復投与が可能です。

第二選択薬

アナフィラキシーの治療では第二選択薬も設定されています。H1抗ヒスタミン薬・β2アドレナリン受容体刺激薬・グルココルチコイドの3種類です。抗ヒスタミン薬・アドレナリン受容体刺激薬は効果が見込める症状が限定的であり、グルココルチコイドは効果が出るまでに時間を要するなどの特徴があります。 共通するのは救命効果がない点で、アドレナリンに代われる存在ではありません。

補完治療

アドレナリンだけでは対応しきれない症状に対しては、補完的な治療が追加されます。呼吸困難や低酸素状態への対応は、マスクや経口エアウェイによる大量の酸素投与です。 低血圧でショックが懸念される場合は、アドレナリンの静脈投与やほかの昇圧剤の追加が検討されます。低血圧が戻りにくい場合は、補液で血液量を増やしたり血管収縮薬で血圧上昇を図ったりします。

アナフィラキシーになりやすい人・予防の方法

アナフィラキシーは誰にでもおこる可能性があります。しかし、特になりやすい人も存在し、以下のような人が挙げられます。
  • 医薬品で副作用が出たことがある
  • 以前にアレルギー反応が出たことがある
  • アレルギー歴がある(食物・喘息・アトピー性皮膚炎・アレルギー性鼻炎)
こうした履歴がある人は、同じアレルゲンに過剰反応してアナフィラキシーを発症する可能性があるため、対象の物質・薬品を避けることが大切です。 また、アナフィラキシー発症者に対しては、退院までに抗体検査や血液検査で誘因を特定します。 退院後は誘因の回避と再発時の対応方法を、患者さんや家族に指導します。併せてアドレナリンの自己注射(エピペン)の処方・指導も必要です。 積極的な対応としては免疫療法があります。ハチ毒の免疫療法は有効で国際的にも標準治療ですが、保険適用ではありません。 ほかの誘因でも免疫療法は可能ですが、副反応の問題があるため積極的な推奨はされていません。

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