

監修医師:
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)
目次 -INDEX-
大腿骨遠位部骨折の概要
太ももの骨である大腿骨の骨折の1種類で、年間発生率は10万人あたり4.5人程度といわれています。
大腿骨の骨折は大きく以下のように分類されます。
- 大腿骨遠位部骨折(大腿骨顆上骨折、大腿骨顆部骨折):膝関節に近い部分で骨折すること
- 大腿骨近位端骨折(大腿骨頭骨折、大腿骨頸部骨折、大腿骨転子部骨折、大腿骨転子下骨折):股関節の付け根に近い部分で骨折すること
大腿骨遠位部骨折は、発症すると、膝関節の強い痛みや腫れ、出血などの一般的な骨折の症状がみられます。さらに、骨折部位がズレてしまった結果、足が短くなったり、変形したりする場合もあります。
また、うまく治療しても、以前と比べて膝関節の動きが悪くなるなど、日常生活に支障が出る可能性がある、治療の難しい骨折の1つです。
発症する原因は、若い方ではスポーツや交通事故などの強い衝撃、高齢者では骨粗しょう症など骨のもろさがある場合の転倒によって発症することが多い傾向にあります。
骨折した場合の治療は、骨折の程度や、患者さんの年齢、健康状態などによって異なりますが、多くの場合は手術が必要です。手術後は、以前までの動作を行えるように、膝関節を中心にリハビリテーションを行います。
大腿骨遠位部骨折は、適切な治療とリハビリテーションなどによって、大きく改善します。しかし、場合によっては以前までの動作までに戻らない場合もあるため、医師と相談しながら治療を進めることが重要です。
大腿骨遠位部骨折の原因
主に以下のような原因で発症しやすいといわれています。
外傷性要因
外傷性要因は年齢によって以下のように異なります。
高エネルギー外傷
交通事故や高所からの転落、スポーツ中の激しい衝突など、強い外力が加わることで発生します。 特に若年層においては、これらが主な原因といわれています。
低エネルギー外傷
高齢者の場合は、転倒などの弱い外力でも骨折が発生する場合があります。特に、骨粗しょう症の影響で骨が弱くなっている場合は、より危険性が高くなります。
これらの原因から分かるように、大腿骨遠位部骨折は年齢や生活環境に関係なく発生する可能性があります。
大腿骨遠位部骨折の前兆や初期症状について
前兆や初期症状として、以下のようなものがみられます。
痛み
よくみられる症状は、骨折部位への強い痛みです。膝関節周辺にこの痛みはみられて、強い痛みから、足を動かすことが困難になります。
腫れと変色
骨折が発生すると、周囲の組織が腫れて、青あざができるため、視覚的にも異常が確認できます。
歩けない
骨折によって、膝関節の曲げ伸ばしが難しくなるため、歩くことが難しくなる場合があります。特に、体重をかけると痛みが強くなるため、患者さんは歩くことを避ける傾向です。
足の変形
骨折が発生すると、足がいつもと違う位置へ変形する場合があります。
これらの症状が見られた場合は、すぐに整形外科を受診しましょう。整形外科を受診すれば、画像診断などで骨折の程度など詳細な評価ができます。また、同時に手術の有無など治療計画も併せて行えるはずです。
早期の診断と適切な治療を行うことで、合併症のリスクを減らし、症状の改善を促進できます。そのため、症状が軽くても、医療機関を受診して医師の診断を受けましょう。
大腿骨遠位部骨折の検査・診断
大腿骨遠位部骨折の検査と診断は、主に以下の方法で行われます。
身体診察
医師は初期評価として、以下の内容を確認します。
病歴の聴取
患者さんの転倒や外傷の状況、痛みの程度、骨粗しょう症や過去の骨折歴などを中心とした既往歴を確認します。
身体検査
骨折部位の腫れ、変形の有無、可動域の確認などを行います。評価は、膝関節周辺を中心に観察します。
画像診断
骨折の有無や程度を評価するために、以下のような画像診断を行います。
X線検査
最初の診断にはX線検査がよく用いられます。X線画像は、短い検査時間で骨折の有無、骨ズレなどを確認できます。
CT検査
X線検査での診断が不十分な場合には、CT検査を行います。CT検査を行えば、骨折の詳細な評価や、骨の構造を三次元的に把握できます。
MRI検査
X線検査で骨折が明らかでない、軟部組織の損傷を評価する必要がある場合などには、MRI検査を行います。
これらの検査を行うことで、大腿骨遠位部骨折の診断がされ、それぞれの状態に合わせた治療方針を決定します。
大腿骨遠位部骨折の治療
大腿骨遠位部骨折の治療は、骨折の程度、患者さんの年齢、骨密度の状態や活動量などを考慮して決定します。
なお、骨折の程度は一般的に、AO分類に基づいて以下のように分類されます。
Aタイプ(非関節内骨折)
関節面に影響を与えないため、動きが影響されにくい骨折で、保存療法が一般的です。
Bタイプ(関節内骨折)
部分的に関節面へ影響を与える骨折で、多くの場合は、手術療法が推奨されます。ただ、場合によっては、保存療法を選択する場合もあります。
Cタイプ(複雑な関節内骨折)
完全に関節面へ影響を与える骨折で、手術療法が必須です。
これらの分類に併せて、以下のような治療法が行われます。
保存療法
Aタイプの骨折に対しては、多くの場合、ギプス固定や牽引などの保存療法を選択します。ただ、この方法では安静期間が長くなるため、膝関節の動きが悪くなったり、歩行などの動作能力が低下したりする場合があります。
手術療法
BタイプおよびCタイプの骨折に対しては、一般的に手術療法を選択します。手術は以下の方法を主に実施します。
髄内釘
膝関節のお皿の下くらいを切って、金属の棒状の髄内釘を挿入して固定する方法です。主に、Bタイプなど部分的に関節面へ影響を与える骨折に対して実施されます。
プレート
太ももの外側を切って、骨折しているところを元の状態に戻した後に、金属のプレートとネジで固定する方法です。主に、主にCタイプなど完全に関節面へ影響を与える骨折に対して実施されます。
リハビリテーション
手術後は全身状態を管理しながら、できる限り早くリハビリテーションを開始します。実際、膝関節の動きも、手術後にリハビリテーションを行うことで、早く動きが改善されるといわれているため、積極的に行いましょう。
また、リハビリテーションを行うことで、膝関節の動きだけでなく、床ずれ・静脈血栓症の予防や、歩くなどの日常生活動作の改善も期待できます。
大腿骨遠位部骨折になりやすい人・予防の方法
以下の要因に該当する場合は、大腿骨遠位部骨折を発生しやすいため、注意するとともに、しっかりと予防することが重要です。
大腿骨遠位部骨折になりやすい方の特徴
以下の場合は、大腿骨遠位部骨折になりやすいので注意しましょう。
高齢者
年齢が高くなるにつれて、骨密度や筋力の低下が認められるため、転倒によって骨折する危険性が高くなります。
女性
特に閉経後の女性は、女性ホルモン(エストロゲン)の減少によって、骨密度が低下するため、注意が必要です。
骨粗しょう症の既往歴がある
骨粗しょう症によって骨密度が低いと、弱い外力でも骨折を発生する可能性があります。
転倒歴がある場合
過去に転倒した経験があると、再度転倒する危険性も高いといわれているため、骨折の可能性も増加します。
運動不足の方
運動不足の状態が続くと、筋力だけでなく、バランスを保つ能力も低下するため、転倒の危険性が高まります。
予防の方法
以下の方法を実践すれば、大腿骨遠位部骨折を発症する危険性も軽減できるかもしれません。
定期的な運動
普段から筋力トレーニングやバランス運動を取り入れて、これらの機能を向上させることで、転倒の危険性を減らせます。
バランスのよい食事
カルシウムやビタミンD、タンパク質を適切に摂取し、骨の健康を維持しましょう。
生活環境の整備
自宅内の段差を解消する、滑りにくい床材を使用するなどして、転倒しにくい環境を作ることが重要です。
定期的な健康チェック
定期的に医療機関で、骨密度検査などの健康チェックを受けて、骨粗しょう症の早期発見と治療を行いましょう。
これらの対策を日常生活に行うことで、骨折の発生を減らせる可能性が高くなります。
参考文献




