脊椎骨折
岡田 智彰

監修医師
岡田 智彰(医師)

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昭和大学医学部卒業。昭和大学医学整形外科学講座入局。救急外傷からプロアスリート診療まで研鑽を積む。2020年より現職。日本専門医機構認定整形外科専門医、日本整形外科学会認定整形外科指導医、日本整形外科学会認定スポーツ医、日本整形外科学会認定リハビリテーション医、日本整形外科学会認定リウマチ医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。

脊椎骨折の概要

脊椎骨折とは、背骨が骨折する状態のことです。
脊椎は一般に背骨と呼ばれ、身体の中でも長い部分を占めます。首(頚椎)から腰(腰椎)を経て、おしりのあたりにある仙骨まで続く骨の集まりを指します。
この脊椎は「身体を支える」「身体を曲げる・伸ばす・ひねる」「神経や臓器を保護する」など多くの役割があります。そのため、脊椎を損傷すると身体のバランスを取る能力や動きに影響を与えるだけでなく、場合によっては神経を圧迫して痛みや麻痺を引き起こす危険性もあります。

脊椎骨折は以下のような種類に分類されます。

圧迫骨折

上下の方向から力が加わることで、骨が圧縮されて生じる骨折です。特に骨粗鬆症や閉経後の女性に多くみられます。尻もちをつくような転倒の場合のみならず、転ばなくとも自身の体重で発症する可能性もあります。

破裂骨折

脊椎を構成する椎体のお腹側と背中側の両方を骨折するもので、骨折の中でも重度の骨折です。潰れが激しく粉々になっている場合も多く、治療をしても骨を元通りにすることは難しいため、背筋が変わってしまう場合や、骨のかけらが神経を圧迫してしまうことで上下肢のしびれや麻痺などが残る場合があります。
原因として、交通事故や転落事故のように、強い外力が作用した場合に発症することが多い傾向です。

脱臼骨折

脊椎の関節が骨折を伴いながら脱臼している状態です。脊柱の脱臼骨折によって、脊髄が骨同士に挟まれ損傷します。そのため手足の麻痺、感覚障害、排尿排便障害、呼吸障害などの症状が現れる場合があります。
原因として、交通事故で自動車にはねられた場合や頭部から転落墜落事故を受傷した場合など、かなり大きな外力が加わることで発症します。

脊椎骨折は、症状が軽いものから重いものまでさまざまであり、さらにどの部位で発症したかによって生活の動作や生命にまで大きな影響を与える可能性があるため、早期に適切な診断と治療を受けることが重要です。

脊椎骨折の原因

脊椎骨折は、以下のようにさまざまな要因によって引き起こされます。

外的外傷

一般的な原因は転倒や交通事故といわれており、その割合はそれぞれ約60%、約20%となっています。

転倒での発症は、高齢者の割合が高い傾向で、特に骨密度が低下している場合は、軽微な転倒でも骨折が生じる場合があるため注意が必要です。

一方、交通事故は若年層に多く見られる傾向で、事故による衝撃が脊椎に直接的なダメージを与えます。

そのほかにもスポーツ活動中の事故や高所からの落下などでも脊椎骨折を引き起こす場合があります。

骨粗鬆症

骨粗鬆症の場合は、骨密度が低下して骨が脆くなっているため、少しの外力が加わるだけでも骨折を発症する危険性が高くなります。

病的原因

背骨や骨盤を中心に、全身の腱や靱帯に原因不明の炎症が生じる強直性脊椎炎や、骨腫瘍なども脊椎骨折の危険性が高くなるため注意が必要です。

脊椎骨折は、これらの要因が複合的に作用することで発生することが多いと言えます。

脊椎骨折の前兆や初期症状について

脊椎骨折は、明らかな発症原因が分かる場合と、いつの間にか発症している場合に分けられます。

ここでは、脊椎骨折における基本的な症状について紹介します。

急激な背中や腰の痛み

最も一般的な症状は、背中や腰などの局所的に感じる強い痛みです。この痛みは、圧迫骨折の時に感じられやすい傾向で、痛みは突然起こり、動くたびに悪化することが特徴です。

手足のしびれや麻痺

骨折によって、脊髄や神経が圧迫されると、手足にしびれや麻痺を感じる場合があります。しびれを感じる部位や強さは、骨折の重症度や部位によって異なります。

慢性的な背中の不快感

骨粗鬆症などによって、いつの間にか骨折している場合は、普段から慢性的な背中の痛みや不快感が生じることがあります。

また、くしゃみや物を持ち上げる動作などのように、日常的な軽い動作でも痛みを訴える場合も脊椎骨折を発症している可能性があるため、注意が必要です。

これらの症状を自覚した場合は、脊椎骨折を発症している可能性があるため整形外科を受診しましょう。特に、痛みや神経症状がある場合は、早期に医師の診察を受ける必要があります。

脊椎骨折はそのままの状態にしておくと、症状が悪化する恐れがあるため、少しでも気になる症状があれば、迷わず専門医に相談しましょう。

脊椎骨折の検査・診断

1つの検査で脊椎骨折を診断することは難しいため、基本的に以下のような検査を複合的に行います。

問診

いつから、どのような状況で、どのような痛みを感じたかなどを詳細に問診します。そのほかにしびれなどの神経症状の有無も合わせて確認します。

画像診断

問診の結果、脊椎骨折などを疑った場合は、画像診断を実施して、より詳細な評価を行います。画像診断は以下のようにさまざまな種類があるため、どれを使用するかは目的によって異なります。

①X線検査(レントゲン検査)
脊椎骨折の初期診断にX線検査は簡易に撮影できるなどの理由からも広く使用されています。特に、X線検査は圧迫骨折による変形を確認するために有効です。

X線検査は、骨の形状から骨折の有無を確認しますが、骨の微細な損傷や軟部組織の損傷は判断できないため、その場合は追加の検査が必要になります。

②CTスキャン(コンピュータ断層撮影)
CTスキャンは、骨折の位置や程度、脊髄への影響などのように、脊椎骨折の詳細な評価に優れています。特に、複雑な骨折や骨片の位置の評価に有効なため、手術の計画を立てる際にも使用されます。

③MRI検査(磁気共鳴画像法)
MRI検査は、脊髄や神経の損傷を評価するのに有効で、骨折による神経の圧迫などを詳細に評価できます。

骨密度測定

脊椎骨折が骨粗鬆症によって発症したと考えられる場合は、骨密度測定を行う場合があります。測定の結果、骨密度の低下が分かることは、今後の骨折の予測や予防にも有益です。

神経学的評価

脊椎骨折によって神経症状が生じている場合は、神経学的評価を行います。神経学的評価で、感覚や運動障害の程度を評価することは、神経の損傷の程度をうかがい知る判断材料になります。

脊椎骨折の治療

脊椎骨折の治療法は、保存的治療と外科的治療に分けられますが、これらは、骨折の種類、患者さんの年齢、全体的な健康状態、神経機能の有無などによって決定されます。

保存的治療

症状が軽い場合や高齢者などの場合は、保存的治療が多く、以下のような内容を行います。

①安静と痛み管理
脊椎骨折を発症したばかりの場合は、安静が推奨されます。安静の期間は2週間程度が多い傾向ですが、症状や状態によって異なるため、定期的に画像検査を行って評価します。特に、骨折して3ヶ月程度は、骨折部位が不安定で簡単に骨が変形するため注意が必要です。
痛みに対しては、消炎鎮痛剤の内服や点滴、ブロック注射、骨粗鬆症治療の注射剤、などが多く併用されます。

②コルセットやギプス
骨折部位の安定性を保つために、コルセットやギプスを使用する場合があります。柔らかいコルセットではなく硬めのコルセットを使用してしっかりと固定することで、痛みを軽減させ変形の進行をできる限り防ぐことを目指します。

外科的治療

重度な脊椎骨折や、神経損傷がある場合は、外科的治療が必要となることがあります。特に、神経症状が強い場合や、不安定な骨折の場合は、手術が行われる傾向です。

①固定術
骨折部位を金属製のネジや棒で固定する方法で、背中を切開して固定する方法と、身体の脇側を切開して固定する方法があります。治療をする範囲や固定する力が異なるため、それぞれの骨折にあった方法を選択します。

②椎体形成術
グラグラする背骨を固めて痛みを止める手術方法になり、骨粗鬆症による圧迫骨折に対して行われる場合があります。
この手術方法は、骨折した部分に骨セメントなどを入れることで、痛みの軽減だけでなく、脊椎の安定化を図る目的があります。

脊椎骨折になりやすい人・予防の方法

脊椎骨折は、以下のような要因に該当する場合に発症しやすくなるため、注意が必要なだけでなく予防策を講じることが重要です。

高齢者

年齢が上がるにつれ骨密度が低下し、骨粗鬆症のリスクが高まるため、少しの外力でも骨折を発症する危険性が高くなります。特に女性は閉経後に骨密度が急激に減少するため、より注意が必要です。

運動不足

定期的な運動を行わないと、筋力が低下するだけでなく、骨密度も低下するため、骨折の危険性が高くなります。

生活習慣の乱れ

喫煙やアルコールの多飲、カルシウムやビタミンDなどの栄養状態の不良は、骨の状態に悪影響を及ぼし、骨折の危険性を高める要因となります。

脊椎骨折の予防のために、定期的な運動、カルシウムやビタミンDの摂取、喫煙やアルコール多飲を控えることなどで、骨の健康を保ちましょう。

また、骨密度測定を含む定期的な健康診断を受けることで、骨粗鬆症の早期発見と治療が可能になります。

これらの予防策を講じることで、脊椎骨折の発症を大幅に減少できるはずです。


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