目次 -INDEX-

大腿骨頭すべり症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

プロフィールをもっと見る
京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

大腿骨頭すべり症の概要

大腿骨頭すべり症 (だいたいこっとうすべりしょう) は、主に成長期に起こる股関節の病気です。大腿骨 (太ももの骨) の先端部分である骨頭が骨の成長板 (骨端線) を境にして後方にずれることで発生します。この成長板は成長期の子どもに特有の柔らかい組織で、負荷がかかりやすく、肥満やホルモンバランスの変化が原因で滑りが起こるとされています。症状としては、股関節や膝に痛みを感じたり、歩行が困難になったりすることがあります。放置すると股関節の変形将来的な痛みにつながるため、早めの診断と治療が必要です (参考文献1) 。

大腿骨頭すべり症の原因

大腿骨頭すべり症は、成長期の子どもに発症しやすい股関節の病気で、原因は明確にはわかっていませんが、複数の要因が関係すると考えられています。中でも肥満が最も重大な危険因子です。肥満であると大腿骨の端 (骨端) により大きな負荷がかかるため、肥満の程度が高いほど大腿骨頭すべり症のリスクが高くなると言われています。
他にも、成長期のホルモンバランスの変化も影響していると言われています。また、甲状腺機能低下症や成長ホルモン欠乏症などの内分泌異常がある場合は、成長に必要な軟骨の正常な発達が妨げられて骨端線が弱くなります。そして、外傷、腎不全、放射線療法を受けたことがあること、そしてダウン症候群やルビンシュタイン・テイビ症候群といった遺伝性疾患なども危険因子と言われています。

大腿骨頭すべり症の前兆や初期症状について

大腿骨頭すべり症の症状は、初期の段階では軽い場合も多く、気づきにくいことがあります。しかし、進行すると特徴的な症状が現れます。一つは股関節や膝に痛みを感じることです。ただ、突然激痛を感じる場合もあれば殆ど痛みに気付かない場合もあり、痛みの程度はかなり様々です。痛みは運動や歩行の際に強まり、休むと軽減することが一般的です。
また、歩き方に変化が見られるのも特徴です。片足をかばうように歩いたり、足を引きずるような歩行になることがあります。さらに、股関節の可動域が狭くなり、足をまっすぐ曲げることが難しくなります。症状が進むと、片足に体重をかけるのが難しくなり、歩行が大きく制限されることもあります。
軽症のまま見逃され、高齢になってから変形性股関節症を起こして股関節痛が始まることもあります。そのため、早いうちに気付くことが重要です。 (参考文献1,2)

大腿骨頭すべり症の検査・診断

大腿骨頭すべり症の診断には画像検査が必要です。一般的にはX線 (レントゲン) を撮影し、大腿骨頭と骨幹の位置関係を確認します。骨頭が正常な位置からずれている場合、大腿骨頭すべり症と診断されます。より正確にずれの程度を評価するために、正面と横の両方の方向から撮影することが多いです。軟骨や周囲の組織の状態を詳しく見るために、MRIを使うこともあります。 (参考文献1)
大腿骨頭すべり症は症状の持続時間によって急性型、慢性型、慢性疾患の急性増悪型 (急性型と慢性型の間) 、前すべり症の4つに分類されます。症状の持続期間が3週間以内の場合を急性型、3週間以上持続している場合を慢性型、そして3週間以上症状が続いたことがあり最近も症状の悪化があった場合をacute on chronic型と言います。痛みはあるがX線では骨のずれが確認できない場合を前すべり症と言います。
また、歩行の状態による分類もあります。松葉杖の有無に関わらず歩くことができる場合を安定型、松葉杖があっても歩くことができない場合を不安定型と言います。不安定型の場合は大腿骨頭への血流が途絶している可能性が高いと判断されます。 (参考文献3)

大腿骨頭すべり症の治療

大腿骨頭すべり症だと診断されたら、さらにすべり症が進行するのを防ぐために、まずとにかくそれ以上股関節に負担をかけないようにすることが重要です。診断後そのまま入院することになる場合もあります。
そして、大腿骨頭がそれ以上すべることを防ぐために手術が必要になることが殆どです。標準的には大腿骨にネジを一本差し込む方法が行われます。こうすることで、将来的な股関節の障害を防ぎます。手術の後も骨頭壊死を起こしやすいため、体重をかけて歩く訓練を始めるまでには半年ほどかかる場合もあります。
また、片側の大腿骨頭だけがすべったという場合でも、予防的にもう一方の大腿骨にネジを差し込む場合があります。これは、片側のみ発症した患者さんのうち30〜60%はもう片側の足でも大腿骨頭すべり症を起こすためです。予防的に手術を行うかどうかは個々の患者さんの状況に応じて判断されます。 (参考文献1,4)

大腿骨頭すべり症になりやすい人・予防の方法

大腿骨頭すべり症になりやすい人

大腿骨頭すべり症は、主に成長期の子どもに多く見られる病気で、女児では12歳男児では13.5歳を中心に発症します。日本では10万人に2.2人と言われており、また男児に多い傾向があります。 (参考文献1,3)

予防の方法

予防として肥満が大腿骨頭すべり症のリスクを高めるため、適切な食事と運動で体重をコントロールすることが予防につながると考えられます。また、急激な成長期においては、無理な運動や過度の負荷をかけないようにすることも重要です。特にスポーツをしている子どもは、股関節に過剰な負担をかけないように注意し、正しいフォームで運動しましょう。

関連する病気

参考文献

この記事の監修医師