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腱鞘巨細胞腫
松繁 治

監修医師
松繁 治(医師)

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経歴
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医

腱鞘巨細胞腫の概要

腱鞘巨細胞腫(けんしょうきょさいぼうしゅ)とは、手指や足趾の腱が通るトンネルのような組織「腱鞘」の内部にできる良性腫瘍です。良性ではあるものの進行性の腫瘍であり、大きくなると関節の破壊をともないます。
ほとんどのケースで手術をすれば摘出可能な腫瘍です。しかし、手術で取り除いても再発するケースもあります。

手指の屈筋腱側に発生することが多く、好発年齢は40歳前後で、男性よりも女性に発生しやすいのが特徴です。腫瘍自体に痛みを伴うことはほぼありませんが、腱鞘内にできることで関節の動きを邪魔してしまうことがあります。また大きくなると隣接する骨・関節が壊れると痛みが出る可能性も否定できません。

腱鞘巨細胞腫は、初期段階では小さなイボのような見た目です。触るとコリコリと硬い感触があるものから、ふわふわとやわらかいものなどまで、個人差があります。とくに後者はガングリオン(ゼリー状の物質の詰まった腫瘤)と混同されることがありますが、MRIや生検検査などで容易に鑑別できます。

腱鞘巨細胞腫はイボのように見えるため皮膚科疾患と思われがちですが、その病態により整形外科の受診が推奨されます。なお、よく似た病変で膝や股関節など大きな関節に生じる良性腫瘍は色素性結節性絨毛滑膜炎と呼ばれます。

腱鞘巨細胞腫

腱鞘巨細胞腫の原因

腱鞘巨細胞腫は染色体異常が原因だとする説もありますが、腱鞘巨細胞腫ができる原因はまだ解明されていません。外傷や脂質異常によって発症する可能性も指摘されています。

腱鞘や腱鞘内の滑膜から組織が異常増殖してできるという説がもっとも一般的です。

腱鞘巨細胞腫の前兆や初期症状について

腱鞘巨細胞腫の初期症状は、手指や足趾にちいさなイボ状の腫瘍があるのを自覚することです。ほとんどの場合は痛みなどの症状がないため放置され、徐々に進行していきます。
進行すると腫瘍の大きさは5cm程度にまで成長し、場合によっては周囲の骨や関節を圧迫し、破壊する可能性があります。

腫瘍が周囲の骨や関節を破壊する段階まで大きくなると、破壊された骨や骨膜組織から痛みを感じることがあります。
また腱鞘巨細胞腫が関節の動きを制限し、突っ張り感を感じたり関節の可動域が狭くなったりといった悪影響が出る可能性もあります。

腱鞘巨細胞腫の検査・診断

腱鞘巨細胞腫は画像検査・生検検査によって診断されます。

画像診断ではまず、MRIが有効です。良性腫瘍の一種である腱鞘巨細胞腫では、輪郭のはっきりとした腫瘍組織像を得られることが特徴となっています。

腫瘍組織の画像検査としては、MRIだけでなくエコーも有効です。検査に時間がかかるMRIと違ってエコーであれば、比較的短時間で撮影できるメリットがあります。デメリットはMRIと比較すると画像の精度が落ちることです。

また、腱鞘巨細胞腫が大きく進行し隣接する骨・関節を圧迫している場合は、レントゲン・CTで骨の状態を把握できます。

生検検査では針を腫瘍組織に刺し、細胞を吸引して検査する穿刺吸引細胞診をおこないます。腱鞘巨細胞腫は特徴的な病理所見が得られるため、生検検査が腱鞘巨細胞腫の確定診断に役立ちます。

腱鞘巨細胞腫の治療

腱鞘巨細胞腫の治療は手術による全摘出術が推奨されています。腱鞘巨細胞腫の摘出術は部分麻酔もしくは全身麻酔でおこなわれます。

関節まで腱鞘巨細胞腫が浸潤していた場合は、靭帯や関節包(かんせつほう)などを切開して関節内の腫瘍まで摘出する必要があります。なお、腱鞘巨細胞腫は完全に摘出できたとしても、10〜30%程度の比較的高い確率で再発することが知られています。

再発の理由は、完全な細胞組織の摘出が難しいためと考えられています。したがって、再発してもすぐ対処できるように経過観察が必要です。

ただし、がんなどの悪性腫瘍と異なり、他の部位へ転移することはほとんど報告されていません。
腱鞘巨細胞腫の摘出術をおこなった後も関節の可動域制限が残っていた場合には、関節の可動域や周辺の筋力の回復を目的にリハビリも行います。

腱鞘巨細胞腫になりやすい人・予防の方法

腱鞘巨細胞腫の発症原因が詳しく解明されていないため、この病気になりやすい人もはっきりとは定義できません。40歳前後で好発し、男性よりも女性に多く見られることはわかっています。

腱鞘巨細胞腫は外傷や脂質異常症が原因で発症するケースがあると考えられています。したがって、労働環境などの理由から手をよく使い、怪我をしやすい人は発症リスクが高くなる可能性があります。また、脂質異常症の治療をしている人も注意が必要です。

予防方法も現在のところ確立されていません。進行性の疾患であり、早期発見と早期治療は重要だと言えます。自覚症状に乏しいことから放置されがちな疾患ですが、病変に気づいたら整形外科を受診しましょう。

また、腱鞘巨細胞腫は比較的再発しやすい疾患としても知られています。手術で摘出できたとしても再発の恐れがあるため、経過観察を怠らないことが再発予防につながります。


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