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若年性特発性関節炎
副島 裕太郎

監修医師
副島 裕太郎(横浜市立大学医学部血液・免疫・感染症内科)

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2011年佐賀大学医学部医学科卒業。2021年横浜市立大学大学院医学研究科修了。リウマチ・膠原病および感染症の診療・研究に従事している。日本内科学会 総合内科専門医・認定内科医、日本リウマチ学会 リウマチ専門医・指導医・評議員、日本リウマチ財団 リウマチ登録医、日本アレルギー学会 アレルギー専門医、日本母性内科学会 母性内科診療プロバイダー、日本化学療法学会 抗菌化学療法認定医、日本温泉気候物理医学会 温泉療法医、博士(医学)。

若年性特発性関節炎の概要

若年性特発性関節炎は、16歳未満で発症し、少なくとも6週間持続する関節の炎症を特徴とする疾患です。原因は完全には解明されていませんが、免疫システムが自分の体の組織を攻撃してしまう自己免疫疾患の一種と考えられています。

若年性特発性関節炎のサブタイプ

若年性特発性関節炎は、症状や経過、検査結果などによっていくつかのサブタイプに分類されます。主なサブタイプは以下の通りです。

少関節炎

発症早期に関節が4つ以下しか侵されないタイプで、若年性特発性関節炎の中で最も多く見られます。女児に多く、発症年齢は2〜4歳がピークです。ぶどう膜炎を合併することがあります。

多関節炎

発症早期に5つ以上の関節が侵されるタイプで、リウマトイド因子の有無によってさらに分類されます。
リウマトイド因子陰性多関節炎
オリゴ関節炎と同様に女児に多く、発症年齢は1〜4歳と10〜12歳にピークがあります。ぶどう膜炎を合併することがあります。
リウマトイド因子陽性多関節炎
成人型の関節リウマチと共通の特徴が多く見られます。発症年齢は10〜13歳頃で、関節の破壊が進行しやすい傾向があります。

乾癬性関節炎

関節炎と乾癬が合併するタイプで、発症年齢は2〜4歳と10〜12歳にピークがあります。爪の変形や指の腫れ(指炎)が見られることもあります。

付着部炎関連関節炎

付着部炎(腱や靭帯が骨に付着する部分の炎症)を伴う関節炎で、男児に多く、仙腸関節炎や脊椎炎を合併することがあります。HLA-B27という遺伝子を持つ人に多く見られます。

全身型若年性特発性関節炎

発熱、発疹、リンパ節腫脹などの全身症状を伴う関節炎で、男女比はほぼ同じです。マクロファージ活性化症候群という重篤な合併症を起こすことがあります。

分類不能関節炎

上記のいずれにも当てはまらない関節炎です。

若年性特発性関節炎の原因

若年性特発性関節炎の原因は不明ですが、遺伝的要因と環境要因が複合的に関与していると考えられています。

遺伝的要因

    HLA遺伝子
    特定のHLA遺伝子を持つ人は若年性特発性関節炎を発症しやすいことが知られています。例えば、オリゴ関節炎ではHLA-DRB1*0801、リウマトイド因子陽性多関節炎では成人型の関節リウマチと同様のHLA遺伝子との関連が報告されています。
    その他の遺伝子
    PTPN22遺伝子、IL2RA/CD25遺伝子など、多くの遺伝子が若年性特発性関節炎のリスクに関与している可能性が示唆されています。

    環境要因

    感染症
    ウイルスや細菌感染が若年性特発性関節炎の引き金になる可能性が指摘されています。たとえば腸内細菌叢の異常や特定の抗菌薬の使用との関連が報告されています。
    その他
    生活習慣、食生活、ストレスなど、様々な環境要因が関与している可能性があります。

    若年性特発性関節炎の前兆や初期症状について

    若年性特発性関節炎の初期症状は、サブタイプによって異なります。

    関節症状

    • 関節の腫れ
    • 関節の痛み
    • 関節のこわばり
    • 関節の運動制限

    全身症状(全身型若年性特発性関節炎でよく見られる)

    • 発熱
    • 皮疹
    • リンパ節腫脹
    • 肝脾腫(肝臓と脾臓の腫れ)
    • 心膜炎、胸膜炎(心臓や肺を包む膜の炎症)

    その他

    ぶどう膜炎
    オリゴ関節炎やリウマトイド因子陰性多関節炎で合併することがあります。自覚症状がないことが多いため、定期的な眼科検査が重要です。
    成長障害
    関節炎の活動性が高い場合や、グルココルチコイド(ステロイド)の使用によって成長が抑制されることがあります。

    お子さんが関節の痛みや腫れを訴える場合は、小児科や整形外科を受診しましょう。必要があれば小児リウマチ専門医を紹介してもらうことになります。小児リウマチ学会が「小児リウマチ診療支援マップ」を作成しており、参考になります( http://www.praj.jp/map/ )。

    若年性特発性関節炎の検査・診断

    若年性特発性関節炎の診断は、問診・診察・検査などを総合的に判断して行います。

    問診

    • 症状の経過や程度
    • 既往歴(これまでになったことのある病気)
    • 家族歴(血の繋がった家族や親戚に同じような症状のひとはいなかったか)
    • 生活習慣

    診察

    • 関節の腫脹、圧痛、運動制限の程度
    • 皮膚の発疹
    • リンパ節の腫れ
    • 肝脾腫
    • 心音、呼吸音

    検査

    血液検査

    • 炎症反応:赤血球沈降速度、C反応性蛋白などの炎症マーカーの上昇が見られます。
    • リウマトイド因子(RF):RF陽性多関節炎で陽性となります。
    • 抗核抗体(ANA):オリゴ関節炎、リウマトイド因子陰性多関節炎、乾癬性関節炎などで陽性となることがあります。

    その他:血算、肝機能、腎機能など画像検査

    • レントゲン検査:関節の腫れや骨の破壊などを確認します。
    • 超音波検査:関節の炎症や滑膜の肥厚などを確認します。
    • MRI検査:関節の炎症や骨髄浮腫、骨びらんなどをより詳細に評価できます。
    • 関節液検査:関節に針を刺して関節液を採取し、炎症の程度や原因を調べます。
    • 滑膜生検:関節鏡などを利用して関節の炎症を起こしている部分も取ってきて、顕微鏡で詳しく調べます(病理検査)。

    若年性特発性関節炎の治療

    若年性特発性関節炎の治療目標は、炎症を抑えて関節の痛みや腫れを軽減し、関節の機能を維持することです。治療法は、若年性特発性関節炎のサブタイプ、重症度、年齢などを考慮して決定されます。

    薬物療法

    非ステロイド性抗炎症薬
    炎症を抑えて痛みを和らげます。
    グルココルチコイド(ステロイド)
    炎症を抑える効果が強いですが、長期使用には副作用があるため、必要最小限の量と期間で使用します。
    抗リウマチ薬・免疫抑制薬
    メトトレキサートなどの薬剤を使用します。若年性特発性関節炎の進行を抑える効果があります。
    生物学的製剤
    炎症を引き起こす物質(サイトカイン)の働きを抑える薬剤で、TNF阻害薬、IL-1阻害薬、IL-6阻害薬などがあります。メトトレキサートなどの従来の治療で効果がない場合や、重症の場合に使用されます。

    リハビリテーション

    理学療法
    関節の可動域を維持・改善するための運動療法や、筋力強化訓練を行います。
    作業療法
    日常生活動作を改善するための訓練を行います。
    装具療法
    関節を保護したり、変形を予防するための装具を使用します。

    若年性特発性関節炎になりやすい人・予防の方法

    若年性特発性関節炎になりやすい人

    若年性特発性関節炎は、子どもに発症する病気です。特定のHLA遺伝子を持つ人、家族に若年性特発性関節炎の患者さんがいる人、感染症にかかりやすい人などは、若年性特発性関節炎を発症するリスクが高くなると考えられています。

    若年性特発性関節炎の予防の方法

    若年性特発性関節炎の予防法は確立されていません。しかし、以下の点に注意することで、若年性特発性関節炎の発症リスクを軽減できる可能性があります。
    感染症の予防
    手洗い、うがい、マスク着用などを心がけましょう。
    バランスの取れた食事
    免疫力を高めるために、栄養バランスの良い食事を摂りましょう。
    適度な運動
    免疫力を高めるために、適度な運動を心がけましょう。
    ストレスをためない
    ストレスは免疫力を低下させるため、ストレスをためないようにしましょう。

    若年性特発性関節炎は、早期に診断し、適切な治療を開始することで、関節の機能を維持し、日常生活に支障なく生活できる可能性が高い病気です。お子さんの関節の痛みや腫れが気になる場合は、早めに医療機関を受診しましょう。


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