アキレス腱周囲炎

監修医師：
井林雄太（井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院）

アキレス腱周囲炎の概要

アキレス腱は人間の身体の中で最も太く大きい腱で、ふくらはぎの筋肉である腓腹筋とヒラメ筋の下腿三頭筋から構成されています。歩行やランニング、ジャンプなど、足で地面を蹴り上げる動作のような、つま先を下向きに動かす底屈（ていくつ）と呼ばれる動作に関与しています。
そのアキレス腱に繰り返し負荷がかかることによって、アキレス腱自体だけでなく、その周囲の組織に炎症や変性が起こり、痛みが生じる場合があり、このような病気をアキレス腱周囲炎といいます。
アキレス腱周囲炎は、「アキレス腱付着部炎」「アキレス腱付着部障害」「踵骨滑液包炎」という病名で呼ばれる場合もあります。
アキレス腱は、日常生活やスポーツ活動で負荷がかかりやすい部分であるため、過度なランニングやジャンプ、方向転換などの激しい動きを繰り返すことが多いスポーツ選手や、日常的に足を酷使する職業では、アキレス腱に過剰なストレスがかかり、発症リスクが高まる傾向です。

アキレス腱周囲炎の原因

アキレス腱周囲炎を発症する主な原因は以下があります。

使い過ぎ(オーバーユース)

急な運動や、長距離のランニング・ジャンプ・方向転換などを繰り返し行う動作は、アキレス腱に大きな負荷がかかり、その結果、アキレス腱やその周囲に炎症が生じやすくなります。
特にスポーツで、トレーニング量や強度を上げた場合には、アキレス腱が適応できずに痛める場合があるので注意しましょう。

柔軟性の低下

疲労や加齢などによって筋肉が硬くなることで、動作時における衝撃を吸収しにくくなり、アキレス腱に負担が集中します。特にアキレス腱を構成している下腿三頭筋（ふくらはぎの筋肉）が硬くなっていると、アキレス腱への負荷が増えて痛めるリスクが上がるため、ふくらはぎや足首の柔軟性を保つようにしましょう。

偏平足（へんぺいそく）

偏平足の方はアキレス腱周囲炎を発症しやすいかもしれません。偏平足の場合、アキレス腱が付着する踵の骨が内側に傾き、土踏まずがつぶれる状態になります。
そのような状態になると、アキレス腱の伸張が強くなるため、歩行など、普段の動作を行うだけでアキレス腱に余分な負荷がかかり、炎症を引き起こしやすくなります。

合わない靴の使用

自分の足に合わない靴を使用していると、アキレス腱にかかる負担は大きくなります。具体的には、踵が硬い・クッション性が低い・足のサイズにあっていない・すり減っているなどのような靴を履いているとアキレス腱に負担がかかり、炎症が起こりやすくなります。

アキレス腱周囲炎の前兆や初期症状について

アキレス腱周囲炎は、初期段階で適切な対処を行えば症状の悪化を防ぐことができるため、以下の前兆や初期症状に注意することが重要です。

踵への痛み

アキレス腱周囲炎でよくみられる症状は、アキレス腱が付着する踵のすぐ上に生じる痛みです。この痛みは、歩いたり、走ったりといった動作の開始直後に生じる傾向です。
この痛みは、症状が進行すると強く感じるようになり、場合によっては日常生活の動作に影響を及ぼす場合があります。

アキレス腱の腫れや炎症

アキレス腱周囲炎を発症すると、アキレス腱のあたりが腫れる場合があります。特に、踵の後ろ部分は組織などが炎症し、腫れを生じやすい場所です。
また、腫れと共に、炎症反応を起こして、患部に熱を持つ場合もあります。

ふくらはぎやアキレス腱の違和感やこわばり

痛みや腫れはなくても、アキレス腱の部分に、違和感やこわばりが出る場合があります。この違和感やこわばりは特に起床時や、歩き始めなど動き出しの際に感じることが多い傾向です。

足首の可動域の低下

アキレス腱に繰り返し負荷がかかった結果、炎症が生じたり、アキレス腱の周囲が硬くなることで、足首をスムーズに動かしにくくなります。

これらの症状が気になった場合は、整形外科を受診することで、アキレス腱の状態や周囲の炎症の有無など詳しく観察され、適切な治療を行うことができます。
症状が気になっていたにも関わらず、受診しなかった結果、重症化すると治療期間も長くなってしまうため、何か気になる症状がある場合は、すぐに受診しましょう。

アキレス腱周囲炎の検査・診断

アキレス腱周囲炎を疑った場合は、以下のような検査を複合的に実施した結果、診断します。

問診と視診

痛みがいつから始まったか、痛みの強さや場所、日常生活への影響などについて詳しく問診します。特にスポーツや仕事などで足を酷使しているのかや、運動量の変化があった場合は注意が必要です。
問診を行った後は、視診や触診でアキレス腱周囲の腫れや熱感、圧痛の有無などを確認してより詳細な評価を行います。

超音波検査（エコー検査）

超音波検査は、アキレス腱やその周辺組織を詳細に確認するために有効です。超音波検査は、レントゲン写真ではうつらない腱・靭帯・筋肉の損傷、組織の炎症、アキレス腱の厚さなどの状態をリアルタイムで観察できます。

また、動かしながら検査できるため、痛みが生じる姿勢・動作を確認しながら評価できます。

画像診断

超音波検査だけで診断することが難しい場合は、画像診断としてMRIが行われます。MRIは、アキレス腱やその周囲の組織を細かく確認することができ、アキレス腱の腫れや炎症の有無、変性の程度などが確認できます。

また、アキレス腱周囲炎の直接的な診断には役立ちませんが、踵の部分の骨に変形や突起がないかを確認するためにX線検査を行う場合もあります。

アキレス腱周囲炎の治療

アキレス腱周囲炎の治療は、症状の重さや炎症の程度に応じてさまざまな方法が選ばれますが、基本的には以下の通りです。

安静とアイシング

アキレス腱周囲炎の場合、まずはアキレス腱への負担を軽くするために、2〜3週間程度の安静を保ち、日常生活でもなるべく痛みを感じないよう活動を制限します。しかし、重度の場合は、安静期間も長くなり、症状が改善するまでに1〜2ヶ月を要することもあります。
また、痛みや腫れが強い場合には安静とともに患部の炎症を抑える目的で、アイシングを行います。アイシングは、氷をビニール袋に入れたものを患部に当て、15〜20分程度冷やすと効果的です。

薬物療法

痛みや炎症が強い場合には、消炎鎮痛剤（NSAIDs）が処方される場合があります。それ以外でも、痛みが慢性化している場合には、塗り薬や湿布などの外用薬を使用することもあります。

ストレッチと物理療法

ふくらはぎの筋肉やアキレス腱を中心としたストレッチを行います。ストレッチは、理学療法士の指導のもとで、正しい方法を学ぶことでより効果的です。
また、低周波治療などの物理療法を患部に当てることで、血流が促進され、痛みの軽減や治癒を早める効果が期待できます。

装具療法

テーピングやサポーターを使用することで、足首やアキレス腱にかかる負担を減らし、安定性を高めます。
それ以外にも、インソールを使用することで足にかかる負荷を均等にし、歩行時にかかるアキレス腱への負担を軽くできます。特に、偏平足など、足の形状が原因の場合には、インソールが効果的です。

注射療法

アキレス腱へのステロイド注射は短期的な除痛効果があるため、痛みが強い場合は行いますが、腱の脆弱化や断裂を起こす可能性があるため、基本的には行わないことがほとんどです。

アキレス腱周囲炎になりやすい人・予防の方法

アキレス腱周囲炎は、足に過剰な負担がかかりやすい生活をしている場合に発症しやすく、スポーツでランニングやジャンプを頻繁に行う場合は注意が必要です。
そのほかにも、体が硬く、足の柔軟性が低下している、偏平足など足の形状に特徴がある場合も注意が必要です。
これらの内容に該当する場合は、運動前にはふくらはぎや足首のストレッチを行い、筋肉や腱の柔軟性を高める、クッション性のある靴や足にフィットするシューズを選ぶなどで、アキレス腱への負担を軽減させることが重要です。