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臼蓋形成不全
松繁 治

監修医師
松繁 治(医師)

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経歴
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医

臼蓋形成不全の概要

臼蓋形成不全は、骨盤の臼蓋(きゅうがい)と呼ばれる部分が不完全な状態のまま成長する病気であり、寛骨臼形成不全とも呼ばれます。

臼蓋の形成が不十分であると、大腿骨頭(大腿骨の頭側にある球状の部分)の全体を覆うことができず、体重をかけたときに大腿骨頭の一部に負担がかかるため、関節内の軟骨がすり減る変形性股関節症の原因となります。

日本の変形性股関節症患者の90%は臼蓋形成不全が発症原因であり、40-50歳の女性で発症する場合が多いと報告されています。

臼蓋形成不全によって変形性股関節症が起きている場合は、手術が適応されることもあります。

また、先天性の股関節脱臼がある乳児でも臼蓋形成不全をきたすことがあるため、早期の診断や経過観察、治療が大切になります。

臼蓋形成不全

臼蓋形成不全の原因

臼蓋形成不全となる原因はわかっていません。

臼蓋形成不全は乳児期のときに自然に改善すると考えられていますが、成人の臼蓋形成不全が起こる理由については不明です。

臼蓋形成不全の前兆や初期症状について

臼蓋形成不全の初期症状は、椅子から立ち上がったり歩き始めたりするときの股関節(足の付け根)の痛みや違和感です。

股関節をひねる動きや階段の昇り降り、あぐらの姿勢などにより軟骨がすり減って痛みの症状が現われます。

初期の段階では、痛みがでるのは動作開始時だけがほとんどです。

しかし、症状が悪化するにつれて痛みの症状も強くなり、夜間寝ているときにも痛みが現れたり、日常生活の動作に支障をきたしたりします。

臼蓋形成不全の検査・診断

臼蓋形成不全の診断では、主に以下のような検査が行われます。

レントゲン撮影

レントゲン撮影は体にX線を当てて写真を撮影する検査であり、臼蓋形成不全の診断では股関節のレントゲン写真を撮影します。

撮影したレントゲン写真から寛骨(骨盤の外側の骨)と大腿骨の骨頭の角度の計測を行うことで、臼蓋形成不全の程度を確認でき、変形性股関節症につながる可能性も推測できます。

超音波検査

超音波(エコー)検査は、超音波を使って体内の臓器の状態を観察する検査です。

超音波検査はX線を使うレントゲンやCTのように放射線を使わないため安全性が高く、乳児や小児の臼蓋形成不全の診断に用いられます。

乳児の検診で股関節脱臼が疑われた際の二次検診としても使用されています。

CT検査

CT検査は360°方向からX線を体に当てることによって、身体の輪切り画像を撮影する検査です。

関節の隙間を正確に評価できることに加え、臼蓋や大腿骨頭の病変や変形の把握に優れているため、変形性股関節症の症状が出ている場合に行われます。

MRI検査

MRI検査は磁気の力を利用して身体の断面を撮影する検査であり、骨や筋肉、関節の撮影に有効です。

股関節の炎症所見や関節液の状態、変形性股関節症の進行の程度を把握できるため、経過観察の評価や手術をはじめとした治療方針を決定するために行われます。

臼蓋形成不全の治療

臼蓋形成不全の治療では保存的治療、薬物療法、手術の3つが選択されます。

症状の程度によっては複数の方法を組み合わせながら治療を行います。

保存的治療

臼蓋形成不全で変形性股関節症が起きている場合の保存的治療は、患者教育や運動療法などがあります。

患者教育には股関節の解剖や疾患に関する知識の習得のほか、日常生活の動作や環境の改善などがあり、運動療法ではウォーキングやジョギングのような有酸素運動や筋肉トレーニング、水中運動などが行われます。 

患者教育や運動療法は、疼痛や股関節の機能改善に効果があることが報告されています。

薬物療法

臼蓋形成不全により変形性股関節症を発症した場合や、痛みの症状が強い場合には薬物療法が行われます。

薬物療法では、アセトアミノフェンや非ステロイド性の抗炎症薬(NSAIDs)、トラマドールなどのさまざまな薬剤が痛みの緩和に有効であることが報告されています。

薬物療法は一時的な症状緩和に効果的で、短期的に股関節の働きを改善するために選択されます。

手術

臼蓋形成不全の手術には、関節温存術と人工股関節全置換術(THA)の2つがあります。

関節温存術

関節温存術は、股関節を切除せずに、骨盤と大腿骨の位置を調整することで関節の機能を改善する手術です。

関節温存術は骨頭の変形や臼蓋形成不全の程度、症状の進行度、年齢などを考慮して適切な方法が選択されます。

臼蓋形成不全の程度が強い場合には、臼蓋の部分に骨移植を行って大腿骨頭と接触する部分を大きくする臼蓋形成術をあわせて行う場合もあります。

関節温存術は初期の変形股関節症が適応で、青年期から壮年期(15-44歳)を対象に行われる手術であり、症状の緩和や進行の予防を目的に行います。

人工股関節全置換術(THA)

人工股関節全置換術は、股関節を人工股関節に取り替える手術です。

人工関節の材質にはチタンやコバルトなどの金属やセラミック、ポリエチレンなどが使われており、変形性股関節症によってダメージを受けた股関節や関節軟骨を人工関節に変えて固定し、痛みの症状を緩和します。

人工股関節全置換術は進行した変形性股関節症が適応であり、主に中年期(45-64歳)以上で検討されることが多いです。

人工股関節全置換術の術後では、股関節脱臼や深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症などの合併症のリスクが高まるため、脱臼につながらない動きを守りながら下肢をできるだけ動かすように心がけましょう。

臼蓋形成不全になりやすい人・予防の方法

臼蓋形成不全になりやすい人や予防の方法はありません。しかし、乳児の場合は股関節脱臼、成人の場合は変形性股関節症への進行予防する必要があります。

乳児の予防法

乳児における股関節脱臼の予防では、乳児期の定期検診受診が大切です。

生後3ヶ月後の定期検診では、股関節検診が含まれており、臼蓋形成不全や股関節脱臼の有無を調べられます。

以下の項目に当てはまる場合は、臼蓋形成不全などの発育股関節形成不全や股関節脱臼のリスクが高いと言われています。

  • 股関節の開きに左右差がある、向き癖のある方向と反対側の股関節の開きに制限がある
  • 太ももや鼠径(足の付け根)の皮膚の溝が非対称
  • 同一家系内に股関節疾患の家族歴がある
  • 女児である
  • 骨盤位分娩(逆子)
  • 秋冬出生児(足を伸ばした状態のまま衣服でくるむことで脱臼になりやすい)

成人の予防法

成人では、下肢の筋力をつけることが変形性股関節症の予防に効果的です。

筋力がつくことで股関節痛を軽減できるため、無理のない程度に運動習慣を続けましょう。

肥満になると股関節に大きな負担がかかり、変形性股関節症を悪化させる可能性があります。

BMI25未満の体重を維持できるよう暴飲暴食を避けた規則正しい食事なども生活習慣に取り入れましょう。


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