監修医師:
神宮 隆臣(医師)
目次 -INDEX-
梨状筋症候群の概要
梨状筋症候群は、梨状筋という殿部(お尻)の奥に位置する筋肉が坐骨神経を圧迫することによって引き起こされる症状の総称のことです。
この梨状筋症候群は中年に発症しやすく、男性と女性で比較すると、女性の方が多い傾向です。
梨状筋は、骨盤の仙骨から股関節の外側に位置する大転子にかけて伸びる筋肉で、主に股関節を外側に回旋(外旋)させる働きがあります。
それ以外にも、股関節の安定性にもかかわるため、歩くなどの動作時でも重要な筋肉の1つです。
この梨状筋は、通常は柔らかいのですが、負担がかかるなどの原因があると、硬くなってしまい、結果、坐骨神経を圧迫します。
なお、坐骨神経は腰のあたりからつま先まで伸びている神経です。
神経と聞くと、細いイメージがありますが、坐骨神経は神経の中でも太く、長い神経です。
実際、坐骨神経は背骨の下の方から出て、股関節の後ろを通り、殿部から足を下って膝の裏側へと続いたあとに、
数本に枝分かれし、さらに足へと降りていきます。
このように坐骨神経は大変長いため、圧迫されることにより、殿部や太ももの後ろ、すね、足先などに痛みやしびれるような痛みが生じます。
具体的には、デスクワークなどの長時間座っている場合など、梨状筋に負担のかかるような姿勢や動作を行うことで症状が出現しますが、歩くと楽になる場合もあります。
この梨状筋症候群は、腰痛やほかの原因によって坐骨神経を圧迫している場合との診断が難しい場面がありますが、
正しい治療を受けることで多くの場合は症状の改善が見込まれます。
梨状筋症候群の原因
梨状筋症候群が生じる原因は、梨状筋が硬くなり坐骨神経を圧迫することで、下記のような方は注意が必要です。
- 長時間のデスクワーク、車の運転を日常的に行う
- 普段からの運動不足で梨状筋を含む筋肉が硬くなっている
- ゴルフや野球など体を捻る動作の多いスポーツで、梨状筋に過度な負荷がかかっている
- 座っているときに足を組む癖がある
- 財布をお尻のポケットによく入れる
上記のように、日常生活が原因で梨状筋症候群が生じる場合と、もともとの梨状筋の形態の異常によって症状を生じる場合があります。
実際、約15%の方々は梨状筋の形態の異常があるといわれています。
梨状筋症候群の前兆や初期症状について
梨状筋症候群の前兆や初期症状は、お尻から太ももにかけての違和感やしびれ、ピリピリする感覚などがありますが、
単なる疲れや腰痛と誤解されることも多くあります。
その後、時間が経過するとともに、痛みやシビレが強くなるだけでなく、感じる範囲も膝や足先まで広くなる傾向です。
姿勢や動作においても、車の運転で座るなど梨状筋が圧迫される動作を行うだけで症状を感じるだけでなく、
症状が強い場合は支えがないと歩くのが難しくなる場合があります。
もし、上記のような症状がみられる場合は、整形外科を受診しましょう。
整形外科を受診することで、筋肉などの問題を専門的に診察・治療することができるはずです。
梨状筋症候群は、症状が軽度であっても、そのまま時間が経過すると悪化する可能性があるため、
痛みやしびれを感じた場合はすぐに専門医へ相談しましょう。
梨状筋症候群の検査・診断
梨状筋症候群の診断は、痛み・シビレなどのように症状だけでは、ほかの疾患と似ているため、慎重な検査と診察が必要です。
一般的には下記のように複合的な判断で、梨状筋症候群と診断されます。
問診
医師から患者さんに対して、症状の詳細な説明を問診します。
具体的には、痛みが生じる場所、痛みが発生するタイミング、どのような姿勢や動作を行えば痛みが強くなるのか、
もしくは痛みが弱くなるのかなどを確認します。
その中でも、特に痛みやシビレが殿部から足に広がっているか、座った状態になると痛みが増加するなどの発言がみられた場合は、
梨状筋症候群を疑う重要な手がかりです。
身体診察
身体診察として、梨状筋を実際に触って評価する場合があります。
通常では触ることができない梨状筋が、コリコリと触れるだけでなく、触ると同部に痛みを伴います。
また、それとともに、下記のようないくつかの整形外科テストを行います。
Pace徴候
患者さんが座った状態で、足を外側に開こうとする動作(外転)に対して抵抗を加える。
フライバーグテスト
仰向けに寝て痛みのある側の足を持ち上げて、股関節を曲げます。その後、股関節を内側にひねる動作(内旋)をさせる。
FAIRテスト
仰向けに寝て痛みのある側の足を持ち上げて、股関節を曲げます。その後、股関節を内側に倒す動作(内転)とともに内旋をさせる。
これらの整形外科テストを行うことで、梨状筋が緊張して、痛みやシビレが生じた場合は、
陽性と判定されるため梨状筋症候群を疑います。
画像診断
超音波(エコー)、CT、MRIなどの画像検査を行って、梨状筋が厚くなって、坐骨神経を圧迫していないか評価する場合がありますが、
梨状筋症候群を診断するために、CT・MRIなどを行う頻度は少なく、
脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアなどの腰椎疾患を除外診断をするために行う方が頻度的には多い傾向です。
電気生理学的検査
最近では、筋肉や神経に電気刺激を与え、その伝導速度や筋電位の反応から病気を調べる電気生理学的検査を行う場合があります。
具体的な内容としては、痛みやしびれを生じさせる原因となっている部位を特定させる筋電図検査や、筋疲労の程度を調べる反復刺激検査などがあります。
このように梨状筋症候群は、複数の検査を組み合わせて行うことで診断します。
梨状筋症候群の治療
梨状筋症候群は、重症で日常生活に支障がでる場合は、手術を行うこともありますが、多くの場合は下記のような保存療法が主要です。
保存療法
理学療法
理学療法などのリハビリテーションでは主に梨状筋を中心とした筋肉のストレッチを行います。
また、お尻のくぼんでいる場所で、押して気持ちよく感じる箇所にテニスボールを置いて刺激することで梨状筋をほぐすことができます。
薬物療法・神経ブロック
薬物療法には、消炎鎮痛剤・末梢神経障害性疼痛治療薬・筋弛緩薬などを使います。
また、理学療法や薬物療法を行ったものの、効果が乏しい場合は神経ブロックによる治療を行います。
手術療法
保存療法を実施したものの、症状が改善せず、歩く・座るなど日常動作が難しい場合は手術療法を検討します。
手術療法は、坐骨神経を圧迫しない程度まで梨状筋の一部を切除する梨状筋切除術などを行います。
梨状筋症候群になりやすい人・予防の方法
梨状筋症候群は、梨状筋が硬くなり坐骨神経を圧迫することで痛みやシビレなどの症状がでます。
そのため、股関節が硬い方や、運動不足の方は梨状筋を含めた筋肉が硬くなる傾向になるため、梨状筋症候群になりやすい傾向です。
そのほかにも、長時間の運転・デスクワークを行う方や、中腰での作業が多い方も注意が必要です。
予防方法
1.適切な姿勢を維持する
長時間同じ姿勢を避けるだけでなく、座っているときは背中を正して梨状筋への圧迫を減らしましょう。
2.適度な運動
日常的に梨状筋を中心としたストレッチや、運動を取り入れ、筋肉を柔らかくするだけでなく、殿部の筋肉を強化しましょう。
3.体重管理
適正な体重を維持して、関節や筋肉への負担を軽減させましょう。
これらの予防方法を日常的に行うことで、梨状筋症候群の発症を減らすことができるはずです。
関連する病気
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 坐骨神経痛
- 腰椎脊柱管狭窄症
- 骨盤の筋膜炎
- 変形性股関節症
- 筋筋膜性疼痛症候群
- 股関節滑液包炎
- 糖尿病性ニューロパチー
参考文献