監修医師:
伊藤 規絵(医師)
筋肉痛の概要
筋肉痛は、運動や筋肉を使う活動の後に生じる一時的な痛みや違和感を指します。
原因は新しい運動を始めたり、今まで以上に負荷のかかる運動を行うことで、筋繊維の微小損傷や炎症がおこるためです。
また、運動後の回復期におこる乳酸の蓄積も原因の1つとされています。
症状は個人差が大きく、軽度から強度の痛みまで幅広い範囲で認められます。
通常は運動後の24〜48時間でピークに達し、数日で徐々に改善していきます。
筋肉痛は運動習慣のない人ほど起こりやすい一方で、継続的な運動習慣により筋肉が強化されれば、徐々に症状やその出現頻度は低下します。
よって筋肉痛の悪化を防止するには、個々人に合った適切な運動強度が大切です。
筋肉痛の原因
筋肉痛の原因として最も代表的なのは、筋繊維の微小損傷や炎症です。
具体的には以下のような要因が考えられます。
不慣れな運動や強度の高い運動
不慣れな運動や、普段より強度の高い運動動作を行うと、筋肉が過度に伸展や収縮を強いられ、微細な損傷が生じます。
これは運動経験の少ない人ほど、症状が出現しやすいです。
乳酸の蓄積
激しい運動で筋肉内の乳酸が蓄積すると、pH低下による刺激が痛みを引き起こします。
乳酸は筋肉の疲労回復過程で徐々に代謝されますが、この間に痛みが生じます。
筋肉の疲労
長時間の運動や、短時間でも負荷の強い運動を行うと、筋肉が疲労し、痛みが生じます。
疲労した筋肉は損傷しやすいため、二次的な痛みにもつながります。
水・電解質代謝異常
激しい運動による発汗で水分や電解質(ナトリウム、カリウムなど)が失われることも原因の1つです。
筋肉の収縮・弛緩のメカニズムが乱れることで、筋肉痛が発症します。
水分と同時に電解質(ナトリウム、カリウムなど)を摂取することが大切です。
エキセントリック収縮(伸張性収縮)
本来の筋肉の動作方向とは逆方向に筋繊維が引き伸ばされながら収縮する筋収縮のことです。
具体的には、アームカール(arm curl :肘関節を曲げる動作を繰り返す)でウエイトを上げた後に、その重さに耐えながらゆっくりと下ろす時の上腕二頭筋の収縮などを指します。
この際に筋繊維が損傷しやすくなります。
筋肉痛の原因は複合的で、個人差も大きいようです。
そのために同じ運動を行っても、筋肉痛の程度に個々人で大きな差が現れます。運動初心者は、無理のない範囲で徐々に筋力をつけることが重要です。
筋肉痛の前兆や初期症状について
運動後の筋肉痛は個人差を認めますが、運動を始めたばかりの人や、運動を継続的にしている人にも共通する症状です。
以下にその症状を、具体的に述べます。
筋肉が重くてだるい
筋肉の重だるさや違和感は、わかりやすい初期症状です。
その原因は筋線維の微小損傷や炎症が始まっていることを示しています。
これは活動後、しばらくたった時に自覚することが多いようです。
筋力の低下
運動などで筋肉が損傷すると、一時的に筋力が低下します。
別の動作時に力が入りにくくなったり、普段よりも筋力が弱くなるのが特徴です。
関節可動域が制限される
運動後に筋肉の炎症や硬直により、関節の可動域が制限されることがあります。
特に多く認められるのは、筋肉の伸張を要する動作(伸展や外転など)制限です。
筋肉の腫脹や発赤
筋肉の損傷部位によっては、炎症による浮腫が起きます。
そのため、筋肉に触れると腫れ上がっているのが分かります。
また炎症によって赤く見えることもあり、この発赤は時間の経過とともに徐々に消失するのが特徴です。
このような症状を認めた場合、無理な運動は避け、安静と回復期間を設けましょう。早期の対処で、筋肉痛の発症を緩和することができます。
症状が改善しない場合は、整形外科もしくは内科の受診をおすすめします。
筋肉痛の検査・診断
筋肉痛は複数の検査を実施し、症状と検査所見を照らし合わせて総合的に診断されます。
詳しい検査や診断基準は次の通りです。
筋肉痛の検査
筋肉痛の検査は、医師による視診や触診から始まります。
関節可動域の測定、筋力低下の有無、場合によっては血液検査も行います。
X線検査では骨の異常の有無を確認し、MRI検査では筋肉や腱の状態を詳細に観察し、損傷部位の特定や、損傷の程度を把握します。
その他にも、必要であれば、筋電図検査で筋障害や末梢神経障害の合併も確認します。
これらの検査結果から、医師は筋肉痛の原因や損傷の部位・程度を総合的に判断します。
筋肉痛の診断
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1.主要な症状を認める
- 筋肉が重くだるい
- 筋肉の発赤や腫脹、熱感を認める
- 関節可動域が制限されている
- 画像検査(MRI、超音波)で筋肉の異常信号所見を認める、もしくは筋電図検査で異常所見が確認できる
- 筋肉の適応力が低く運動経験が少ない人
- 全身的な筋力や有酸素運動の能力が低い人
- 筋肉や腱の柔軟性が低い人
- 体重過剰で筋肉に負荷がかかりやすい肥満体型の人
- 加齢に伴い筋肉量が減少する高齢者
- 筋肉量が少ない女性
- 運動時の発汗による水分・電解質の喪失が著しい脱水状態の人
- 過度なストレス下にある人
- 睡眠不足の人
- 喫煙者
- 運動前の軽度のウォーミングアップ
- 運動後のクーリングダウン
- 運動前と運動後のストレッチ
- 運動終了後のアイシング
- 適切な筋肉の安静
- 運動中の適切な水分摂取
- 筋肉痛回復のための食事の摂取
- 急激な過度の運動を行わず、徐々に運動負荷をかける
2.検査所見
診断は上記1、2を満たした場合となります。
筋肉痛の治療
筋肉痛の治療は、軽度から中等度の場合保存的治療と必要に応じた専門的治療が実施されます。
対応の仕方と、実施方法をご紹介します。
筋肉を休ませる
筋肉の過剰使用を避けて、十分な休息が必要です。
症状が軽ければ数日、重症の場合は1週間以上の休息が必要になります。
冷却(アイシング)
損傷部位の冷却によって炎症を抑え、疼痛を和らげます。
冷却時間は15-20分ほどが目安です。
圧迫
弾性包帯などで損傷部位を軽く圧迫すると、腫れを抑えることができます。
患部(筋肉痛の部位)の挙上
患部を心臓の高さより上に保つことで、浮腫の緩和が期待できます。
NSAID(非ステロイド性抗炎症薬)
炎症を抑制し、疼痛を和らげる作用があります。
軽症の筋肉痛に有効です。
温熱療法
温めることで筋肉の硬直や痛みが改善されます。
患部を温めるだけでなく、全身浴なども効果的です。
ストレッチ
損傷部位を適度に伸ばすことで、筋肉の可動域を保ち、硬直を防げます。
筋肉痛の初期は、休養やアイシング、圧迫、抗炎症薬など、保存的治療が中心ですが、万が一保存的治療で改善が期待できない場合、整形外科や内科の受診をおすすめします。理学療法や注射、手術など、医師の診断のもとでより専門的な治療を実施することになります。
筋肉痛になりやすい人・予防の方法
筋肉痛は未使用の筋肉に負担をかけることで発症する症状です。
筋肉痛になりやすい人を知ることで、予防もできるためこの章でご紹介します。
筋肉痛になりやすい人
筋肉痛になりやすい人は以下のような共通点があります。
これらの要因が複数重なって、筋肉痛のリスクが高まります。
例えば、運動経験の少ない高齢女性がストレスを抱え、睡眠不足の状態で運動をすれば、筋肉痛の症状が極めて出現しやすくなります。
それぞれの要因を取り除くか、カバーすることが重要です。
筋肉痛の予防の方法
筋肉痛は、運動前の体の状況と自身のコンディションを把握することで予防ができます。
具体的な予防方法をご紹介します。
筋肉痛の予防の上で大切なことは、無理をしないことです。
そのためには、運動量や可動域の幅を徐々に増やすことが重要です。例えば初心者の人や久しぶりに運動する人が、突然過度の運動負荷をかけると怪我の恐れもあります。よって、運動負荷は徐々にかけていくことをおすすめします。
さらに、運動前後のケアも大切です。無理をしないことが最大の予防になるため、自身の健康状態を把握しながら活動しましょう。