監修医師:
勝木 将人(医師)
筋強直性ジストロフィーの概要
筋強直性ジストロフィーとは、遺伝性の疾患で筋緊張性ジストロフィーとも呼ばれる難病です。筋ジストロフィー症のなかでも成人に発症する確率がもっとも高く、手足の筋力低下やさまざまな内臓障害がみられます。
筋強直性ジストロフィーはDM1とDM2の2タイプがありますが、日本ではほとんどがDM1です。疾患の原因は染色体の異常で、発症率は10万人に7人程度です。
筋強直性ジストロフィーの症状は「表現促進現象」という子どもが親よりも染色体異常が大きいために、症状が重く早期に発症する現象が起こります。世代が受け継がれるにつれて発症時期が早まるため、親の症状は軽度で病気に気づかず、子どもの発症で気づくことも多いです。
筋肉の萎縮(筋肉が痩せ細っていき力が出なくなること)が特徴的な症状でDM1では体から離れた部位(手指や足など)に多く、DM2では体に近い部位(肩や股関節など)に多くみられます。どちらのタイプも呼吸筋が障害され、嚥下機能(食べ物を飲み込む能力)の低下が見られるのも特徴です。そのほかにも心臓機能や消化機能、記憶などに関わる高次機能などのさまざまな障害がみられます。症状は自覚されないことも多く、軽度の場合気づかないことも珍しくありません。
筋強直性ジストロフィーの原因
筋強直性ジストロフィーの原因は遺伝子の異常変化です。筋強直性ジストロフィー患者の多くが44本ある常染色体のうち、19番目に異常が生じていることがわかっています。
筋強直性ジストロフィーは遺伝子の中にある塩基配列に異常があり、3つの塩基配列に異常があることもわかっています(トリプレットリピート病)。繰り返される3つの塩基配列(リピート)が通常35回程度なのに対し、筋強直性ジストロフィーでは50〜7500まで伸びることが判明しており、。このリピート回数が長くなるほど重症で早く発症します。親よりも子どもの方がリピート回数が長くなるのも特徴ですが、必ずしも全ての症例でみられるわけではなく、父親から子どもへの遺伝の場合はリピート回数が短くなることもあります。
筋強直性ジストロフィーの前兆や初期症状について
筋強直性ジストロフィーは進行性の筋力低下が特徴です。初期症状でみられやすい筋力低下は以下に挙げられる部位や動作が挙げられます。これらの症状は徐々に進行し、筋萎縮や筋硬直に移行します。
- 前腕・手指:物を握りにくい、指を握ったり開いたりがスムーズにできない
- 足・足首:つま先が上がらない、段差につまづきやすい
- 首:寝返りなどで首を持ち上げにくい
そのほか前兆となりうる多臓器疾患は以下に挙げられるものがあります。筋力低下の症状がみられず、白内障のみみられるケースもあります。
臓器 | 症状 |
---|---|
骨格筋 | 筋強直現象、頭部・手足の進行性筋萎縮 |
心臓 | 心伝導障害、不整脈、心筋症 |
呼吸器 | 肺胞低換気(拘束性障害)、呼吸調整障害(睡眠時無呼吸障害、中枢性換気障害) |
中枢神経系 | 無気力・無関心、認知機能障害、日中過眠、白質病変、精神発達遅滞、学習障害、注意欠陥・多動障害 |
内分泌系・代謝系 | 耐糖能障害、高インスリン血症、高脂血症、甲状腺機能障害、性腺ホルモン異常、不妊 |
消化管 | 嚥下障害、便秘、イレウス、巨大結腸、胆石 |
眼 | 白内障、網膜色素変性症、眼球運動障害 |
耳 | 感音性難聴 |
骨格系 | 頭蓋骨肥厚、後縦靭帯骨化症 |
腫瘍 | 甲状腺、耳下腺、婦人科系などの良性・悪性腫瘍、子宮筋腫、卵巣嚢腫、石灰化上皮腫 |
その他 | 前頭部禿頭、低lgG血症 |
筋強直性ジストロフィーの検査・診断
筋強直性ジストロフィーでは首や手足の筋力低下や筋肉の強直障害、多臓器障害など特徴的な臨床症状から疑われます。しかし、これらの症状はほかの疾患にもよくみられる症状であるため、症状の有無だけでは筋強直性ジストロフィーの確定診断はできません。確定診断をするためにはサザンブロット法やrepeat-primed PCR法という遺伝子検査が必要になります。
サザンブロット法 | repeat-primed PCR法 | |
---|---|---|
保険適用 | 適用内 | 適用外 |
外部委託 | 可能 | 可能 |
採血量 | 多い | 少ない |
リピート長(リピートされる回数)の測定 | 多くのリピートで推定可能 | 短いリピートのみ可能 |
限界 | リピート長の伸長が短い場合、検出できない可能性がある | 多くの患者でリピート長が推定できない |
サザンプロット法はリピート回数が多い遺伝子の検出に優れていて、リピート長を測定しやすいメリットがあります。しかし、リピート長が短い場合は正常な遺伝子との鑑別が難しいため、軽症例を見逃す可能性があります。
repeat-primed PCR法はリピート長が短い遺伝子も検出可能なうえ、採血量が少なく患者への負担が少ないことが特徴です。しかし、リピートの回数が多くなるとリピート長の測定ができません。そのため、まずサザンプロット法で検査し、軽症例が疑われる場合にrepeat-primed PCR法で実施する方法が一般的です。
筋強直性ジストロフィーの治療
筋強直性ジストロフィーの根本治療は現段階では確立されていません。そのため、各症状に対する対症療法が基本になります。
リハビリテーションによって、低下している筋肉に対する筋力強化運動や筋強直による関節の拘縮に対する関節可動域運動を行います。歩行が難しくなった重症例に対しては車椅子や手すりの補助などの生活支援も必要になるでしょう。
多臓器不全に対しては、心不全であればペースメーカーの挿入、甲状腺機能障害であればステロイド薬などの内服など、それぞれの症状に合わせた治療を行います。
筋強直性ジストロフィーが子どもに遺伝する確率は1/2であり、出産を希望する女性に対しては遺伝カウンセリングも検討します。特に女性からの遺伝は表現促進現象が多くみられるため、社会的・心理的な支援が重要です。子どもへの影響を考えたうえで、妊娠・出産を自己決定できる環境を作ることが大切になります。
筋強直性ジストロフィーになりやすい人・予防の方法
筋強直性ジストロフィーは親が遺伝子を持っている人に起こりやすく、予防の方法はありません。
筋強直性ジストロフィーを発症した場合は、重症化を予防するために、専門機関で定期的な健診を受けることが重要になります。