監修医師:
佐藤 章子(医師)
東京女子医科大学医学部卒業 / 川崎市立川崎病院整形外科初期研修医 / 東京女子医科大学東医療センター整形外科リウマチ科医療練士助教待遇 / 東京警察病院整形外科シニアレジデント / 医療法人社団福寿会整形外科 / 菊名記念病院整形外科 / 厚生中央病院整形外科 / 日本医科大学付属病院整形外科リウマチ科助教 / 国立国際医療研究センター国府台病院整形外科 / 現在は無所属だが大学院進学、リウマチ班のある大学への移籍を交渉中 / 専門は整形外科、リウマチ科 / 他に得意分野は骨粗鬆症治療と高齢者治療
【主な研究内容・論文】
リウマチ患者に対する生物学的製剤の治療成績の検討、人工肘関節弛緩術の治療成績の検討、精神科疾患を合併する整形外科手術症例の検討など
【保有免許・資格】
日本整形外科学会専門医、リウマチ認定医
臨床研修指導医
脱臼の概要
脱臼は、関節を構成する骨が正常な位置から外れた状態を指し、大きく分けると、完全脱臼と亜脱臼の2つに分類されます。完全脱臼は骨が完全に外れた状態で、亜脱臼は関節が部分的にずれた状態です。
脱臼の原因は外傷性と非外傷性に分けられます。外傷性脱臼はスポーツや交通事故などで急激な力が関節にかかると発生し、非外傷性脱臼は関節の不安定性や先天的要因により発生します。
主な症状は、急性痛や肩関節機能障害があり、適切な処置が行われないと、慢性的に関節が不安定になったり、変形したりする合併症につながる可能性が高まります。
一般的な脱臼部位は肩関節であり、その他には肘関節、股関節、膝蓋骨、指関節などでも発生します。
脱臼の重症度は、関節のズレの程度や周囲の軟部組織の損傷の有無によって異なり、神経や血管の損傷を伴う場合は特に緊急性が高いです。脱臼の診断と治療には、整形外科医による早期の整復と適切なリハビリテーションが機能回復の鍵になります。
脱臼の原因
脱臼の原因は、外傷性と非外傷性に分類されます。
外傷性の肩関節脱臼では、転倒や衝突など、外から直接的な力が加わることが要因として挙げられます。特に、ラグビーや柔道などのコンタクトスポーツや交通事故などの高エネルギー外傷で発生しやすいです。
非外傷性脱臼では、関節周囲の靭帯や筋肉の弱まりや、先天的な関節の形態異常などがあります。例えば、エーラス・ダンロス症候群やマルファン症候群などの先天性疾患などです。
部位別には、肩関節における回旋腱板の機能不全や関節唇損傷が不安定性を引き起こし、脱臼の要因となります。肩関節の再脱臼率は若い人ほど高いため、再脱臼を予防するために適切な治療が必要です。
股関節では、発育性股関節形成不全が原因となることがあります。
脱臼の前兆や初期症状について
非外傷性脱臼の初期症状では、関節に違和感やゆるみを感じ、痛みや腫れ、動かしにくさなどが出現します。
外傷性脱臼の初期症状では、突然の激しい痛みが最も特徴的です。この痛みは、関節のズレに伴い周囲組織が引っ張られたり、圧迫されたりすることによって引き起こされるもので、関節を動かすことが困難になります。
見た目の変化として、関節の変形や膨らみがみられます。また、神経や血管の圧迫により、末梢の感覚異常やしびれ、血流障害が生じる可能性があります。
特に、上腕骨頭の前方脱臼では腋窩神経(えきかしんけい)の損傷リスクが高まり、肩関節機能障害を引き起こします。また、上腕二頭筋や肩甲下筋などの損傷も伴うため筋力低下の症状も出現することがあります。
脱臼の検査・診断
脱臼の検査・診断は、詳細な病歴聴取と綿密な身体診察から始まります。
ケガのきっかけや、痛みの性質、過去の脱臼歴などを確認し、関節の不安定性のリスク因子を評価します。特に、非外傷性脱臼では先天性疾患が影響するため、病歴聴取は大切です。
身体診察では、視診、触診、関節可動域検査を行い、関節の変形や腫脹、圧痛、関節弛緩性を評価します。
脱臼では、神経血管損傷を伴いやすいため、末梢の感覚や運動機能などの神経学的評価も必要です。明らかに重篤で、骨折や合併症が見られる場合は救急医療機関を受診する必要があります。
確定診断には画像検査が不可欠であり、単純X線撮影を用いて関節の位置関係を評価します。CT検査やMRI検査は、脱臼に伴う微細な骨折を確認するのに使用されます。
反復性脱臼の症例では、MRI検査が関節包や関節唇の微細な損傷の検出に有効です。新生児や乳児の脱臼では単純X線検査で抽出されないことも多いため、超音波検査で診断する場合が多いです。
超音波検査は、軟骨組織の観察に適しているため、軟骨成分が多い小児の股関節脱臼のスクリーニングに用いられます。
脱臼の治療
脱臼の治療は、迅速な整復と適切な療法が基本です。
急性期の治療目標は、関節を正常な位置に戻し、周囲組織の二次的損傷を最小限に抑えることになります。整復は、局所麻酔や全身麻酔下で行われ、徒手整復法(脱臼した部位に対して手で元の位置に戻す手法)を実施するのが一般的です。関節の種類や脱臼の状態によって適切な整復方法を選択します。
整復後は損傷部位を動かさないように、ギプスやつり包帯を用いて固定します。固定方法は、脱臼の種類や部位によりさまざまです。また、X線撮影で関節の位置を確認し、神経血管系の再評価を行います。
安定した整復が得られない場合や、整復後も不安定性が持続する場合は、手術療法が検討されます。
手術後は、関節の安定性を獲得するために一定期間の固定が必要です。固定期間は関節の種類や損傷の程度によって異なりますが、一般的に2〜3週間程度です。
固定後は、関節の拘縮を防ぐために、段階的なリハビリテーションプログラムを実施します。初期には関節可動域訓練と等尺性筋力トレーニングが行われ、徐々に筋力強化や協調性訓練を実施します。
反復性脱臼や慢性的な不安定性を呈する症例では、関節鏡視下手術や観血的手術による靭帯修復や関節包修復術が選択されることがあります。術後のリハビリテーションは特に重要で、適切な運動療法と患者教育により、関節機能の回復と再脱臼の予防を図ります。
脱臼を起こしやすい人・予防の方法
脱臼のリスクが高い人には、いくつかの特徴や要因があります。
例えば、疾患が原因で関節の緩みが起きやすい人は脱臼を発症しやすいです。これには、組織の脆弱性が特徴の遺伝性疾患であるエーラス・ダンロス症候群やマルファン症候群などの疾患が含まれます。
また、特定のスポーツ選手、特にコンタクトスポーツや投球動作を多用する競技の選手も脱臼のリスクが高いです。さらに、過去に脱臼の既往がある人は、関節の不安定性が残っている可能性があり、再脱臼のリスクが高まります。
再脱臼率は若い人ほど高いですが、高齢者も筋力低下や骨粗鬆症による関節の安定性低下により、転倒時に脱臼を起こしやすいため注意が必要です。
予防方法としては、適切な筋力トレーニングとストレッチが重要になります。脱臼と同時に関節唇損傷も発生しやすいため、関節を安定させる筋肉群の強化が効果的です。
スポーツ活動時は、適切な装具の使用や、テーピングによる関節のサポートも考慮します。正しいフォームやテクニックの習得、過度な負荷を避けることも重要な予防方法です。
日常生活においては、転倒予防が重要であり、特に高齢者では手すりの設置、段差の解消などの環境整備やバランス能力の向上を目的とした運動療法が推奨されます。
さらに、定期的に診察を受け、関節の状態を把握することで、早期に不安定性を発見し、適切な介入を行うことが可能です。
これらの予防策を総合的に実施することで、脱臼のリスクを軽減し、関節の健康を維持することができます。
関連する病気
- 発育性股関節形成不全
- 脳梗塞
- エーラス・ダンロス症候群
- マルファン症候群
- 関節唇損傷
- 変形性関節症
参考文献