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頚椎椎間板ヘルニア
佐藤 章子

監修医師
佐藤 章子(医師)

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[【経歴】
東京女子医科大学医学部卒業 / 川崎市立川崎病院整形外科初期研修医 / 東京女子医科大学東医療センター整形外科リウマチ科医療練士助教待遇 / 東京警察病院整形外科シニアレジデント / 医療法人社団福寿会整形外科 / 菊名記念病院整形外科 / 厚生中央病院整形外科 / 日本医科大学付属病院整形外科リウマチ科助教 / 国立国際医療研究センター国府台病院整形外科 / 現在は無所属だが大学院進学、リウマチ班のある大学への移籍を交渉中 / 専門は整形外科、リウマチ科 / 他に得意分野は骨粗鬆症治療と高齢者治療
【主な研究内容・論文】
リウマチ患者に対する生物学的製剤の治療成績の検討、人工肘関節弛緩術の治療成績の検討、精神科疾患を合併する整形外科手術症例の検討など
【保有免許・資格】
日本整形外科学会専門医、リウマチ認定医
臨床研修指導医

頚椎椎間板ヘルニアの概要

頚椎椎間板ヘルニアとは、頚椎(首の骨)の間にある椎間板というクッションに異常が起きる疾患です。椎間板の内部には髄核という組織があり、髄核は繊維輪という比較的強度の高い組織に包まれています。しかし、何らかの原因で繊維輪が壊れてしまうと、髄核が後方や後側方に脱出して神経を圧迫します。このような神経の圧迫が起こる疾患が椎間板ヘルニアであり、頚椎で起きる椎間板ヘルニアを頚椎椎間板ヘルニアと呼びます。

頚椎椎間板ヘルニアの多くは加齢や姿勢の問題で生じるとされていて、主な症状は首や肩周囲の痛み、上肢の感覚障害や運動障害、歩行障害などさまざまな神経障害が起きるのが特徴です。予防のためには全身運動をして、頸部を支えられる力をつけることが大切です。

診断はレントゲンやMRI検査、整形外科テストなどの臨床症状で判断されます。レントゲンだけでは確定診断が難しいため、MRI検査や整形外科テストと併せた診断が重要です。また、脊髄や椎間板造影によって神経欠損や椎間板の変性があるかどうかを確かめることも有効になります。

治療では消炎鎮痛剤やオピオイド薬などの投薬、牽引などの物理療法や理学療法、装具療法が適応です。また、医師によるブロック注射も痛みの軽減に効果的とされています。しかし上肢の感覚障害や歩行障害が強いなど日常生活に支障が出る場合には手術も検討されます。

頚椎椎間板ヘルニアの原因

頚椎椎間板ヘルニアが発症する原因は、椎間板へ過剰な負担がかかることです。具体的には、頚椎の椎間板前方へかかる負担が大きいと発症しやすくなると言われています。これは前方へ負担がかかることで、後方に髄核が脱出しやすくなるためです。

頚椎の後方には神経が通っていて、その神経が圧迫されると痛みや痺れといった症状が出やすくなります。頚椎ヘルニアの症状は後方へ髄核が脱出し、神経が圧迫されたときに出現します。

頚椎椎間板の前方へ負担がかかる状況は、主に以下が考えられます。

  • スマホや本を見るためにずっと下を向く
  • PC画面やテレビを見るために体に対して頭が前に出る
  • 猫背姿勢

このような動作や姿勢は頚椎のカーブが少ないストレートネックを作り出します。ストレートネックになると本来後ろに倒れている頚椎が前方に倒れるため、頚椎の椎間板の前方へ負担がかかり髄核が後方へ脱出しやすくなるので注意しましょう。

頚椎椎間板ヘルニアの前兆や初期症状について

頚椎椎間板ヘルニアには「中心型」と「神経根型」の2つがあり、それぞれ初期症状が違います。

中心型頚椎椎間板ヘルニア

中心型頚椎椎間板ヘルニアとは、髄核が後方真ん中に脱出して脊髄を圧迫するヘルニアで、しびれや痛みが出ます。前兆や初期症状では上肢に痺れが出る程度のことが多いですが、症状が進行すると細かい動作ができなくなる巧緻運動障害がみられます。

上肢症状だけでなく体幹や下肢にも症状が出て、下肢腱反射の消失や排尿障害、痙性歩行といった歩行障害が見られることもあります。これらは重度の頚椎椎間板ヘルニアに見られる症状なので、初期症状である上肢の神経障害が見られた時点で治療していくことが大切です。

神経根型頚椎椎間板ヘルニア

神経根型頚椎椎間板ヘルニアとは後側方に髄核が脱出して神経根を圧迫するヘルニアで、痛みやしびれが出ます。後側方への脱出なので片側の上肢に症状が出ることが一般的で、肩甲背部から上肢にかけて痛みを訴えることがあります。

初期症状では痛みを中心に痺れや感覚障害などの神経症状が見られます。症状が進行すると筋萎縮や脱力といった症状が見られ、握力などの筋力低下が進みます。

頚椎椎間板ヘルニアの検査・診断

頚椎椎間板ヘルニアではレントゲン画像やMRI検査による検査が主流です。レントゲン画像では頚椎と頚椎の間の距離(椎体間距離)を測り、その椎体間が狭くなっていると頚椎椎間板ヘルニアが示唆されます。しかし、レントゲンでは椎間板の状態を詳細に把握することはできません。そのため、確定診断をするためにはMRI検査が必要です。

MRI検査では椎間板や髄核、神経の状態が詳細に把握でき、髄核の脱出の程度もわかります。MRIのほか、脊髄造影でも神経の圧迫程度や箇所の特定が可能です。

レントゲンやMRIの画像診断と併せて、感覚テストや頚椎へのストレステストを行うとより詳細な状態把握が可能です。神経が損傷した場合、痛みや痺れ、感覚の鈍さが出る場所は神経の損傷部位によって決まっています。感覚テストや頚椎へのストレステストと画像診断を組み合わせることで、頚椎椎間板ヘルニアによる詳細な損傷箇所が把握できます。

頚椎へのストレステストは、頚椎椎間板ヘルニアと他の上肢に痛みや痺れを出す疾患との鑑別として有効になります。上肢に痛みや痺れを出す疾患は胸郭出口症候群や肩関節周囲炎、肘部管症候群、手根管症候群などです。
これらの疾患は上肢に痛みや痺れを出すものの、頚椎へのストレステストでは誘発されません。

頚椎椎間板ヘルニアの治療

頚椎椎間板ヘルニアの治療は主に装具療法や薬物療法、理学療法、物理療法、手術が挙げられます。

装具療法

頚椎の動きによって頚椎椎間板ヘルニアの痛みが強く誘発される場合、装具で頚椎を固定することで痛みの軽減を図ります。固定力が強いもの、弱いものと種類があり、患者さんの生活様式に合わせた固定力が選択されます。

薬物療法

薬物療法では内服や注射によって症状の緩和を図ります。内服では消炎鎮痛薬や、しびれに対してビタミン製剤、神経障害性疼痛緩和薬などが有効です。注射ではブロック注射が選択され、神経のすぐ近くに薬剤を打ち込むことで、神経症状の緩和が期待できます。

理学療法・物理療法

理学療法では頸部の筋力トレーニングや頚椎の動かし方を学ぶことで、頚椎椎間板ヘルニアの症状が出にくい状態を目指します。頚椎椎間板ヘルニアでは頚椎周囲の筋力低下や不良姿勢が見られることが多いため、頚椎椎間板ヘルニアを誘発しやすい状態を改善することで症状の緩和や再発予防を図ります。

頚椎牽引や電気治療などの物理療法も症状の緩和に有効です。頚椎牽引によって椎体間の距離を広げ椎間板の圧迫を軽減したり、電気治療頸部周囲の筋肉に当てることで神経の炎症や筋肉の緊張が緩和され、痛みや痺れの軽減が期待できます。

手術

装具療法や薬物療法、理学療法、物理療法などの保存療法で改善が見られなかった場合や、痛みや痺れが強かったり、痙性歩行、膀胱直腸障害が見られるなどで日常生活に支障が出る場合には手術が選択されます。

頚椎椎間板ヘルニアの手術では椎間板を取り除き、頚椎の椎体間を固定する手術(頚椎前方固定術)があります。原因となる椎間板を取り除くことで、症状の緩和が期待できます。そのほかにも神経の通り道を広げる手術(椎弓形成術)、圧迫されている神経を解放する手術(椎弓切除術)などの手術方法もあり、患者の状態に合わせて選択されます。

頚椎椎間板ヘルニアになりやすい人・予防の方法

頚椎椎間板ヘルニアになりやすい人は、以下に挙げるような特徴を持ちます。

  • デスクワークで座って画面を長く見る人
  • 読書や手芸が趣味で下を向く時間が長い人
  • 首周りや体幹の筋力が弱く猫背な人

頸部が前方に突出している、もしくは頭が下を向きやすい人は頚椎椎間板ヘルニアを発症するリスクが高くなります。運動不足で猫背になっている人は注意が必要です。

予防方法としては普段から姿勢に気をつけることが重要です。猫背になることで体に対して頸部が前に突出し、椎間板が後方に脱出しやすくなるため、猫背の予防や改善が大切になります。

具体的には仕事中に背伸びをしたり、猫背にならないように体幹を鍛えることなどが有効です。頸部の運動だけでなく、全身運動をすることで猫背の改善につながり、頸部が前に倒れにくくなるのでヨガやラジオ体操、散歩などの全身運動を日頃から行うように心がけてください。


参考文献

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