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偽痛風
眞鍋 憲正

監修医師
眞鍋 憲正(医師)

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信州大学医学部卒業。信州大学大学院医学系研究科スポーツ医科学教室博士課程修了。日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本医師会健康スポーツ医。専門は整形外科、スポーツ整形外科、総合内科、救急科、疫学、スポーツ障害。

偽痛風の概要

偽痛風とはピロリン酸カルシウム沈着症の一種です。ピロリン酸カルシウム二水和物という結晶成分が関節に沈着することで、強い関節炎発作を起こします。関節の強い痛みと腫れを伴い、痛風とよく似た経過をたどることから「偽痛風」という名前がつけられました。痛風も尿酸の結晶が関節に沈着するため、痛風・偽痛風をあわせて「結晶誘発性関節炎」と呼ぶこともあります。

ピロリン酸カルシウム沈着症の中には、なにも症状を起こさないケースもあります。とくに高齢者においては、無症状でもレントゲンを撮ってみると、手や膝関節、恥骨結合(骨盤の前方の骨の繋ぎ目)の部分に石灰化が認められることがあります。その一方で、繰り返し関節炎を起こし、強い関節変形をきたすケースも認められます。

男性に多い痛風と異なり、発症に男女差はありません。また、高齢者に多いのも特徴的です。最も多く起こるのは膝関節で、半数以上と言われています。ほかに、肩関節・肘関節・手関節・足関節なども好発部位です。

また、偽痛風は頚椎(背骨のうち首の部分)にも起こることがあります。第2頚椎の「歯突起」の周囲にピロリン酸カルシウムが沈着して炎症を起こします。歯突起とは第2頚椎の前方にある上方に伸びた突起です。歯突起は上にある第1頚椎がつくる輪っかの中に下から入りこむような形で組み合わさっています。この歯突起にピロリン酸カルシウムの沈着による炎症が起こると、強い首の痛みが起こります。CTで見ると、歯突起の周囲に冠状の石灰化が認められることから「王冠をかぶった歯突起」という意味でCrowned dens症候群とも呼ばれます。

偽痛風の原因

偽痛風がなぜ起こるのかははっきりとわかっていない面も多くあります。ただ、単一の原因があるというよりも、いくつかの要因が組み合わさっておこるものと考えられています。

特に大きな要因のひとつは加齢です。加齢とともに軟骨の石灰化が進むことが知られており、これが偽痛風のリスクを高めると考えられています。60歳以上では、10歳ごとに軟骨の石灰化が2倍に増えるという報告もあります。変形性関節症と関与しているとも考えられています。

カルシウム・マグネシウムなどの代謝の問題も要因のひとつです。とくに若い人に発症する場合は、副甲状腺というカルシウムの代謝に関わる器官の機能異常がある可能性が否定できません。また、「ループ利尿薬」と呼ばれるタイプの利尿薬はマグネシウムを低下させるため偽痛風の発症と関わっている可能性が示唆されています。

ほかにも、手術や外傷などによる機械的刺激や物理的刺激の影響も発症に関わると考えられている要因です。

偽痛風の前兆や初期症状について

偽痛風では急性の経過で関節の腫れと痛みを認めます。症状のある関節は赤くなったり、熱をもったりすることもあります。関節症状とともに、38度を超える発熱が起こることも珍しくありません。症状は一過性のことも多いですが、ときに発作を繰り返し、関節の変形をもたらすこともあります。

基本的には症状が起こる関節は1ヶ所ですが、ときに両膝同時や膝と手など数ヶ所の関節に同時に起こることもあります。ただし、関節リウマチのように多数の関節に症状が起こることはありません。 Crowned dens症候群の場合は、後頸部の強い痛みが起こり、発熱や頸部の可動域制限が起こります。

偽痛風は症状のみではほかの病気とも見分けがつかないため、疑わしいときは医療機関を受診しましょう。一般内科やリウマチ内科、整形外科を受診するのがおすすめです。

偽痛風の検査・診断

偽痛風の診断には、関節液検査が重要です。関節液中にピロリン酸カルシウムの血症が証明されれば診断が確定できます。そのためには、関節液を顕微鏡で観察し、結晶の形や複屈折性の違いを調べることが必要です。 症状の部位により関節液の採取が難しい場合には、症状や画像検査などを組み合わせて診断します。

偽痛風の検査について

以下のような検査を必要に応じて行っていきます。偽痛風の診断には、これらの検査結果を総合的に判断することが重要です。

X線検査 X線検査で軟骨へのピロリン酸カルシウムの沈着による石灰化像が線状に認められるかを確認します。膝関節の典型例では、半月板に石灰化が認められます。関節炎を繰り返すと、変形が強いことがわかります。 エコー検査 エコー検査は、X線検査よりも軟骨内や半月板内の石灰化を検出しやすいという報告があります。ただし、検査者の技量により精度が変わってしまうのが欠点です。 血液検査 血液検査では、炎症反応の指標となるCRP値や白血球数の増加を確認します。 血清カルシウム値が低い場合も、偽痛風を疑う必要があります。 関節穿刺液検査 関節穿刺液検査で関節液内にピロリン酸カルシウムの結晶が認められれば、診断は確定できます。 結晶を確認するには、偏光顕微鏡を使用します。 CT検査 Crowned dens症候群の診断にはCTが有用です。レントゲン検査では結晶成分はわかりません。CTでは歯突起の周囲に淡い石灰化像が見えます。

偽痛風とほかの疾患の見分け方

偽痛風と痛風の違いは、関節液の結晶成分で判断できます。同じ結晶が沈着する病気でも、痛風の尿酸結晶と偽痛風のピロリン酸カルシウム結晶では見え方が異なります。

化膿性関節炎(関節に起こる感染症)も偽痛風との鑑別が必要です。どちらも関節液は濁っていることが多く、外観のみでは判断ができません。化膿性関節炎を否定するためには、結晶成分の証明とともに、関節液の培養検査を行い病原微生物がいないかを確認する必要があります。

Crowned dens症候群の場合は、もっとも重要なのは髄膜炎との鑑別です。どちらも発熱や後頭部痛をきたし、首が硬く動かなくなります。Crowned dens症候群はCTでの歯突起周囲の石灰化が特徴的ですが、ときに髄膜炎がないかを調べるために髄液の検査を行うこともあります。

偽痛風の治療

偽痛風の特異的な治療はありません。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:一般的な消炎鎮痛薬)を処方し、自然に発作が落ち着くのを待つのが一般的です。症状があるうちは無理に動かずに安静にしておく必要があります。

腎機能障害などでNSAIDsが使えないときや、治療にもかかわらず症状が持続するときにはステロイドを内服や関節内注射で使用することもあります。また、関節液が多量にたまっているときは穿刺して排出することもあります。 関節炎を繰り返し、変形が強くなってしまった場合は、壊れた関節を人工関節に置換するなど外科的処置を考慮することもあります。

発作が治ってしまえば、安静にしておく必要はありません。体力を落として寝たきりにならないように、無理のない範囲でしっかりと動きましょう。

偽痛風になりやすい人・予防の方法

高齢者関節の手術を受けたり、利尿薬の内服をしている場合には要注意です。 また、若い人でも副甲状腺機能の異常など、カルシウムの代謝に関わる疾患を患っている場合は偽痛風が起こることがあります。 ただし、現時点で偽痛風発症のメカニズムが完全にわかっていません。したがってどのような人に起こるリスクが高いかということは明言できないのが現状です。

残念ながら、確立された偽痛風の予防薬はありません。カルシウムやマグネシウムの代謝異常があれば、補正したり原因治療をしたりすることで繰り返さなくなる可能性はあります。食事など生活習慣の改善などでも予防することは困難です。

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