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ロコモティブシンドローム
松繁 治

監修医師
松繁 治(医師)

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経歴
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医

ロコモティブシンドロームの概要

ロコモティブシンドローム(運動器症候群)とは、運動器の障害によって移動機能が低下した状態のことです。

英語で、移動することを示す「ロコモーション(locomotion)」と、移動するための能力があることを示す「ロコモティブ(locomotive)」をもとに、日本整形外科学会が2007年に提唱した言葉です。

ロコモティブシンドロームが進行すると、介護が必要になるリスクが高まります。2019年に行われた国民生活基礎調査によると、日本人が要支援、要介護になる原因の約25%が運動器の障害(骨折転倒、関節疾患、脊椎損傷)であることもわかっています。

つまり高齢化が進んでいる我が国にとって、ロコモティブシンドローム対策は重要であるといえるでしょう。

ロコモティブシンドロームの原因

ロコモティブシンドロームの原因は、加齢による筋力の低下や、骨や関節といった運動器の病気などです。

私たちは身体を動かすには骨や筋肉、関節だけでなく、脊椎や末梢神経などが連携する必要があります。これらのうちどれか1ヶ所でも障害が起こると移動機能が低下し、ロコモティブシンドロームへとつながるのです。

ロコモティブシンドロームの原因となる主な病気は、以下のとおりです。

  • 骨粗鬆症
  • 骨折
  • 変形性関節症
  • 変形性脊椎症
  • 脊柱管狭窄症
  • 神経障害
  • サルコペニア

また「がんロコモ」といって、がんやがんの治療によって運動器の障害が生じ、移動機能が低下するケースもあります。がんロコモの場合、運動器の痛みをがんによる痛みであると我慢してしまうケースもあります。生活指導や手術により改善することもありますので、気になるときにはがんロコモドクターに相談してみましょう。

ロコモティブシンドロームの前兆や初期症状について

下記に示す7つの項目のうち、1つでも当てはまればロコモティブシンドロームが心配されます。

  • 片足で立って、靴下が履けない
  • 家の中でつまずいたり、すべったりする
  • 階段を上がるときに、手すりを必要とする
  • 掃除機の使用や布団の上げ下ろしなど、重労働の家事を行うのが困難である
  • 2kgほど(1リットルの牛乳2パック程度)の購入品を持って帰るのが困難である
  • 15分間程度、続けて歩けない
  • 青信号のうちに横断歩道を渡りきれない

これらはすべて骨や関節、筋肉が衰えているサインです。運動機能の低下が進行していると考えられる場合には、整形外科を受診しましょう。

ロコモティブシンドロームの検査・診断

ロコモティブシンドロームの検査には、立ち上がりテスト、2ステップテスト、ロコモ25といった3つの方法があります。

立ち上がりテスト

立ち上がりテストでは、下肢の筋力を測ります。4種類の台(それぞれ高さ40cm、30cm、20cm、10cm)に座り、両足または片足で立ち上がります。

方法

  • まずは40cmの台でテストを行う
  • 両足でクリアできたら、片足で行う
  • 片足でクリアできたら、10cm低い台を使い両足で行う
  • これを繰り返し、クリアできなくなったら終了

  • 両足のテスト方法
    • 40cmの台に、下腿を床面と70度程度になるよう台に腰を掛ける
    • このとき、両足は肩幅くらいに開き、かかとを台に付ける
    • 胸の前で腕を交差させる
    • 反動を付けずに立ち上がり、3秒キープする

    片足のテスト方法

    • 両足で立ち上がれた高さの台で行う
    • 両足で行ったときのように台に腰を掛け、片足を上げる
    • このとき、上げた足の膝は軽く曲げる
    • 反動を付けずに立ち上がり、3秒キープする

    2ステップテスト

    2ステップテストでは歩幅を測定し、下肢の筋力、バランス能力、柔軟性などを総合的な歩行能力を調べます。

    方法

    • スタートラインを定め、両足のつま先を合わせる
    • できる限りの大股で2歩歩き、両足を揃える
    • スタートラインから着地点のつま先までの距離を測る
    • 2回行い、よかった方の記録を採用する
    • 採用した値から2ステップ値(※)を計算する

    (※)2ステップ値=2歩分の距離(cm)÷身長(cm)

    ロコモ25

    ロコモ25とは、身体の痛みや日常生活に関する25問の質問により移動機能を測定するものです。なお質問内容は、こちらです。

    回答結果を数値化して、移動機能の進行状況を判定します。

    判定方法

    3つのテスト結果により、ロコモ度1、ロコモ度2、ロコモ度3にわけられます。各テスト結果の中で、もっとも移動機能の低下が進行している段階を判定結果とします。

    ロコモ度1(移動機能の低下が始まっている)

    • 立ち上がりテスト:どちらか一方の脚で40cmの台から立ち上がれないが、両足で20cmの台から立ち上がれる
    • 2ステップテスト:2ステップ値が1.1以上1.3未満
    • ロコモ25:7点以上16点未満

    ロコモ度2(移動機能の低下が進行している)

    • 立ち上がりテスト:両足で20cmの台から立ち上がれないが、30cmの台から立ち上がれる
    • 2ステップテスト:2ステップ値が0.9以上1.1未満
    • ロコモ25:16点以上24点未満

    ロコモ度3(移動機能の低下が進行し、社会参加に支障をきたしている)

    • 立ち上がりテスト:両足で30cmの台から立ち上がれない
    • 2ステップテスト:2ステップ値が0.9未満
    • ロコモ25:24点以上

    ロコモティブシンドロームの治療

    ロコモティブシンドロームの治療法は、段階によって異なります。

    ロコモ度1の場合

    ロコモ度1の場合は、運動や食事による改善が基本となります。筋力やバランス力の低下が始まっている状態ですので、筋力アップのための運動や食事を心掛けましょう。

    日本整形外科学会が推奨する運動として「ロコトレ(ロコモーショントレーニング)」があります。ロコトレは、バランス能力を強化するための片足立ちと、下肢筋力を付けるスクワットの2種類です。転倒に注意しながら、自分のペースで行ってください。

    また食事は、たんぱく質やカルシウムが不足しないよう、バランスのよい食事が基本となります。

    ロコモ度2の場合

    ロコモ度2の場合は、整形外科医の受診がおすすめです。なぜならロコモ度2に該当し、とくに痛みのある場合には運動器疾患を発症していることがあるからです。

    整形外科医が移動機能低下の原因を見極め、状態に合わせて適切に対応する必要があります。運動器疾患を発症しているときには、リハビリや投薬、手術などを行うこともあります。

    ロコモ度3の場合

    ロコモ度3は、すでに社会参加に支障をきたしている状態ですから、整形外科医を受診しましょう。治療方法は、ロコモ度2の場合と変わりません。

    ロコモティブシンドロームは回復が見込めるものですから、自立した生活を続けられるよう早めに対処しましょう。

    ロコモティブシンドロームになりやすい人・予防の方法

    ロコモティブシンドロームになりやすいのは変形性膝関節症、変形性腰椎症、骨粗鬆症と考えられています。つまり膝、腰、骨に関わる障害を抱えている方です。また高血圧など生活習慣病のある方は、そうでない方と比べてロコモティブシンドロームの原因となる病気に罹患しやすいこともわかってきています。

    ロコモティブシンドロームを予防する方法は、以下のとおりです。

    • ロコチェックにより運動機能の状態を確かめる
    • ロコトレ(片足立ちやスクワット)を行う
    • 運動習慣を身に付ける(ウォーキング、水中歩行、テニス、太極拳など)

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