

監修医師:
松繁 治(医師)
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医
目次 -INDEX-
アキレス腱断裂の概要
アキレス腱とは、足のかかとの腱のことで、ふくらはぎの筋肉である下腿三頭筋とかかとの骨をつなぐ人体最大の腱で、その腱が切れてしまう怪我のことをアキレス腱断裂といいます。
アキレス腱断裂の受傷時は「後ろから蹴られた」「バットで殴られた」ような衝撃を感じ、突然の激しい痛みを伴います。また痛みだけでなく、大きな音がすることもあります。
この怪我は、スポーツ中に最も多く発症しますが、それだけでなく日常生活でも起こる場合があります。
アキレス腱断裂は下記の2つのタイプに分類されます。
完全断裂
腱が完全に切れてしまう状態で、アキレス腱断裂は完全断裂がほとんどです。
部分断裂
腱の一部のみが切れた状態で、完全断裂に比べて発症する頻度は低くなります。
アキレス腱断裂は、適切に治療しないと歩行や運動などに大きな支障をきたす可能性がありますが、適切な治療と十分なリハビリテーションをおこなえば、元の活動レベルに戻ることが多いのが特徴です。
アキレス腱断裂の原因
アキレス腱断裂は、主に下記のような原因で発症します。
アキレス腱への急激な負荷
アキレス腱断裂の大部分は、スポーツ活動中で、特にバスケットボール・テニス・バドミントンなど、ジャンプや急な方向転換を伴う競技でよく発症します。スポーツ中の発症は、特に、30〜40歳代など若い世代で多く発症している傾向です。
慢性的な過度の使用
アキレス腱断裂は、日常的にランニングをよくおこなう方にも多くみられます。その理由としては、アキレス腱への急激な負荷ではなく、繰り返しの衝撃や負荷により、アキレス腱が徐々に弱くなり、最終的に断裂に至ることと考えられます。
加齢による腱の柔軟性低下
40歳以上になるとアキレス腱の弾力性や強度が低下するため、若い世代よりアキレス腱を断裂しやすくなります。
特定の薬物の使用
ステロイド系の抗炎症薬や、フルオロキノロン系抗菌薬を長期使用している場合は、アキレス腱を弱める可能性があるといわれています。
これらの原因は、単独はもちろんですが、複数の原因が当てはまる場合は、アキレス腱断裂を引き起こしやすくなるため注意が必要です。
アキレス腱断裂の前兆や初期症状について
アキレス腱断裂は突然発症することが多いですが、場合によっては、完全に断裂が生じる前に何らかの前兆や初期症状が現れる場合があります。
これらの症状を早期に認識することで、アキレス腱断裂を予防できるかもしれません。
前兆
アキレス腱断裂が生じるかもしれない前兆としては、下記のような症状があります。
アキレス腱周辺の痛み
運動中や運動後に、アキレス腱が付着している、かかとの後部に軽度〜中程度に痛みを感じる場合があります。
硬さや違和感
いつもよりアキレス腱が硬くなるなど、違和感があります。
腫れ
アキレス腱の周囲が腫れたり、むくみがみられたりします。
初期症状
実際にアキレス腱を断裂した場合は下記のような初期症状が現れます。
激痛が突然生じる
多くの場合、「後ろから蹴られた」「石を投げられた」などのような鋭い痛みを感じます。
パチンという音
断裂時に「パチン」や「バチン」という音が聞こえる場合があります。
腫れと変形が生じる
アキレス腱部分が腫れるだけでなく、アキレス腱の部分がへこんでいるのがみえることがあります。
歩行困難
受傷した足に体重をかけると痛みがでるため、一時的に歩くことが困難になることがあります。しばらく時間がたって痛みが落ちついてくると、歩くことができるようになることが多いです。
これらの症状がみられた場合は整形外科を受診することで、アキレス腱断裂の検査や素早い治療ができるはずです。
アキレス腱断裂の検査・診断
アキレス腱断裂を正確に診断することは、適切な治療方針を決定するうえで重要です。一般的にアキレス腱断裂の場合は下記のような検査・診断をおこないます。
問診
どのような状況で怪我をしたか、その際にどのような音がしたかなど詳しい内容を聞きます。
視診、触診
アキレス腱が完全に断裂している場合は、視診でアキレス腱の一部にくぼみや腫れを確認できます。また、同じように 医師が直接アキレス腱に接触して、断裂の有無や程度を確認します。
トンプソンテスト
アキレス腱断裂の有無を確認する検査方法の1つです。やり方としては、うつ伏せになり膝を直角に曲げた状態でふくらはぎを強くつまむと、正常では足先が上に動きますが、アキレス腱が断裂している場合は足先が動きません。
画像検査
画像検査によるアキレス腱断裂の有無は、一般的に超音波検査で評価します。超音波検査は、断裂を疑う部位を詳細に評価することができ、簡便で何回でも侵襲なく検査をおこなうことができます。また、治療中の腱の治癒過程を観察するうえでも有用です。
また、アキレス腱の部分断裂や慢性的な変性などを確認する場合は、超音波検査よりMRIの方が詳細な評価ができます。
アキレス腱断裂を疑った場合は、これらの検査を組み合わせておこなうことで、アキレス腱断裂の有無・程度だけでなく、靭帯損傷などほかの関連する問題も評価できます。
アキレス腱断裂の治療
アキレス腱断裂の治療は大きく保存療法と手術療法にわかれます。
保存療法
保存療法のメリットとして、入院や手術が不要なので費用が安いだけでなく、手術による合併症のリスクがありません。また、近年では早期運動療法を取り入れた保存療法をおこなうことで手術療法と同じくらい良好な成績を残せる報告が多くされています。
一方、デメリットとしては、ギプスの固定期間が長く、ギプスを終了してから装具を使用して歩行を開始するため歩行の開始時期が遅くなります。また、アキレス腱の再断裂率が手術と比較して高い傾向であることが挙げられます。
手術療法
手術療法は、完全断裂の場合や、若年者・アスリートなど高い活動性を求める場合に対して選択されることが多い治療法で、一般的に2〜3週間ギプス固定をおこない、その後装具に変更します。全体重をかけて歩くのに1ヶ月程度必要です。
手術療法のメリットとしては、再断裂のリスクが低い、早期の機能回復が期待できるなどがあります。
その一方で、手術代と入院費が必要なので費用が高くなる、手術による感染のリスクがある、傷跡が残るなどのデメリットがあります。
リハビリテーション
保存療法・手術療法のどちらを選択する場合でも、リハビリテーションをおこなわなければ予後が悪くなることがあります。
リハビリテーションの目的は、受傷前の機能を再び獲得させることのため、足首の動く範囲や筋力の向上を中心におこないます。
機能の回復だけでなく、再断裂の予防のためにもリハビリテーションは欠かせないものとなっています。
アキレス腱断裂になりやすい人・予防の方法
アキレス腱断裂になりやすい人・予防の方法は下記のような内容があります。
アキレス腱断裂になりやすい人
アキレス腱断裂は10歳代後半から高齢者まで起こる可能性がありますが、特に30〜50歳代になると、老化でアキレス腱が弱くなっているため発症しやすくなります。
その中でも、日常的に運動をしていない方が突然激しい運動をおこなうと急激な負担がかかるため注意が必要です。
その他にも、アキレス腱炎や部分断裂の既往がある場合や、ステロイド系抗炎症薬や、特定の抗生物質を長期的に使用している場合もアキレス腱断裂になりやすいため注意しましょう。
予防の方法
アキレス腱断裂を予防するには、運動前や普段から足首やアキレス腱をストレッチしたり、下腿三頭筋の筋力トレーニングをしたりして、柔軟性や筋力を保つようにしましょう。
また、普段から履く靴にも注意が必要です。かかとが動く靴は、走ったりバランスをとったりするときにアキレス腱に余分な負荷がかかるので避けましょう。




