

監修医師:
小鷹 悠二(おだかクリニック)
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線維筋痛症の概要
線維筋痛症(fibromyalgia:FM)は全身の結合組織や(いらない)筋肉の痛みと朝の1分程度のこわばりが特徴の原因不明の疾患です。
3ヶ月以上の長期にわたり、上記の症状が継続します。さらに随伴症状として疲労感や頭痛、不眠など多彩な身体、神経・精神症状を伴います。
しかし、どの徴候も身体診察や一般的画像検査を含む臨床検査で症状を説明できる異常を見出せません。機能性身体症候群(FSS)に属する特異なリウマチ性疾患のひとつです。
※FSS とは、身体的訴えがあるにもかかわらず、適切な診察や検査を行っても病理学的所見の認められる病気の存在を証明できない病態です。その身体的訴えが苦痛なため日常生活に支障をきたしている状態をさします。
線維筋痛症の予後と有病率
自殺を除いて生命にかかわる疾患ではありません。しかし、QOL、ADLは著しく悪く、日常生活に支障をきたします。日本の有病率は人口の約1.7%〜2.1%とある程度頻度の高い疾患です。
線維筋痛症の関連疾患
古くからリウマチやほかの膠原病を疑われて病院を受診することが多く、次のように多様な呼び方で呼ばれていましたが、1990年に統一されました。
- 非関節性リウマチ(nonarticular rheumatism)
- 心因性リウマチ(psychogenic rheumatism)
- 軟部組織性リウマチ(soft tissue rheumatism)
- 結合組織炎(fibrositis)
- 結合織炎症候群(fibrositis syndrome)
- 線維筋痛症候群(fibromyalgia syndrome:FMS)
現在も類似病態として、次のような疾患があげられ、明確に区別するのが難しいのが現状です。
機能性身体症候群(functional somatic syndrome:FSS)
- 慢性疲労症候群(CFS)
- 過敏性腸症候群
- 顎関節症
- 小児の不登校
- パニック障害
- 湾岸戦争症候群
- シックハウス症候群
- 化学物質過敏症
- 間質性膀胱炎
精神疾患
- うつ病
- 身体表現性障害(DSM-IV TR,DSM-5では身体症状関連障害:somatic symptom and related disorders)
線維筋痛症の原因
明らかな原因は不明ですが、線維筋痛症の発症に関連のある因子は以下が報告されています。
身体的ストレスや疾患
外傷,出産,各種ワクチン,変形性関節症・全身性エリテマトーデスなどの膠原病リウマチ性疾患,心疾患,片頭痛などを含む
心理社会的・心的ストレスや疾患
抑うつ気分,双極性障害,不眠 ,不安
遺伝的要因
いくつかの候補遺伝子の変異(SNPs)およびmicroRNAを含む発現量の差の報告があります。しかし、どれもまだ決定的な証拠がありません。
ただ、家族に線維筋痛症の患者さんがいる場合に罹患率が高いといわれ、環境か遺伝の何らかの影響があると考えられています。
線維筋痛症の前兆や初期症状について
全身の痛みは必須の症状です。身体のさまざまな部位に慢性的にあらわれ、持続的、あるいは断続的な痛みとなります。
痛みは鈍い痛みのこともありますが、激しい痛みとなった場合には、痛みで仕事や家事ができなくなります。痛みは日によって強弱があったり、1日のうちで時間によって変化したりすることがあります。
線維筋痛症の痛みは痛みのある局所に原因のある痛みではありません。原因となる部位が特定できない、神経と痛みを感じるネットワークの過敏性を特徴とする中枢性疼痛(中枢性疼痛の定義は、中枢神経の損傷や機能障害による痛み、です。)やとされています。痛みを感じるような刺激がないのに痛みを感じる回路が刺激され、身体のさまざまな部分が痛んだり少し触られただけで強い痛みを感じる症状が出ます。
また、約90%の患者さんで疲労感があります。ほかに高率に見られる症状は睡眠障害や抑うつ症状、朝のこわばりです。
症状は多彩で、以上のような割合であらわれます。
線維筋痛症の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、リウマチ科、内科、整形外科、精神科です。線維筋痛症は全身の痛みと疲労を引き起こす疾患であり、リウマチ科や内科、整形外科、精神科で診断と治療が行われています。
線維筋痛症の検査・診断
線維筋痛症は画像検査や血液検査で異常所見に乏しいのが特徴の一つです。強い痛みの割に、身体診察上関節の赤み、腫れ、 発熱、拘縮ならびに変形などを認めません。
採血検査でも、炎症を示すCRP(C-reac tive protein)、赤沈などの異常がありません。リウマチ性疾患や膠原病で異常を示すことが多い検査項目である、抗核抗体,リウマチ反応などの自己抗体も増加しないことが多いのです。
痛みのある部位のX線やMRI(magnetic resonance imaging)などの画像検査でも症状を説明できる所見が見つかりません。
リウマチ性疾患が背景にあり線維筋痛症を発症した場合でも、基礎疾患の活動性や臨床検査所見と一致しない症状を訴えることが多い傾向です。
以上を踏まえ、線維筋痛症は1990年に米国リウマチ学会から発表された診断基準により診断されます。
線維筋痛症の治療
非薬物療法
線維筋痛症の診断に至った場合、患者さん・家族にこの病気が良性の病気であり、生命的なリスクを伴わないことを理解してもらうことが重要です。その後、段階的な運動療法や温熱療法、針治療など物理療法を行います。
それでも効果が不十分なときにはそれぞれの症状に適切な治療を追加します。
疼痛関連抑うつ、不安破局的思考など精神的な症状が強い場合、精神・心理療法として認知行動療法や精神科的な薬物療法が必要です。
著しいADL低下がある場合、多面的なリハビリプログラムが有用です。
薬物療法
激痛や睡眠障害などがある場合、薬物療法を追加します。
- 抗うつ剤
- 神経障害性疼痛緩和薬
抗うつ効果ではなく、痛みを抑制する神経回路を深津化させる作用があるため、アミトリプチリンやデュロキセチンが使用されます。
線維筋痛症では痛みを伝達する経路が活性化されているため、神経伝達を抑制する薬剤が鎮痛効果を発揮します。
神経障害性疼痛緩和薬であるプレガバリンは第一選択薬となっています。
線維筋痛症になりやすい人・予防の方法
線維筋痛症患者さんの約80〜90%は女性で、特に40〜50歳前後の中年期から更年期にかけて多く発症します。頻度は少ないものの、高齢者や若年者、男性にもみられます。
線維筋痛症の自覚症状を悪化させる原因として以下のものがあげられます。これらを避けることが、自覚症状を改善することに役立ちます。
- 喫煙
- 肥満
- 心身の強いストレス
また、自覚症状を軽快させる基礎療法として以下があげられます。積極的にとりいれれば、症状の改善に役立つでしょう。
- 有酸素運動
- 徐呼吸
- 禅,ヨガなどの瞑想
- 温熱・WAON療法
- 局所の冷却療法
- 森林浴(アロマ療法を含む)
- 音楽療法
- 適量のアルコール
※WAON療法とは遠赤外線サウナ装置を用いて温熱療法を行い、血管拡張をうながす治療法のことです。「室内を均等の60℃に設定した遠赤外線乾式サウナ治療室で全身を15分間温めて、サウナ出浴後さらに30分間の安静保温を追加して、最後に発汗に見合う水分を補給する治療法」と定義されます。




