

監修医師:
佐藤 浩樹(医師)
目次 -INDEX-
二次性心筋症の概要
心筋症とは、心臓の筋肉の病気です。心臓は血液を全身に押し出して供給する機能を持っていますが、これを支える心筋が障害されることで、呼吸困難や浮腫などのさまざまな症状をきたします。
二次性心筋症は、心筋症のうち、心筋原発ではなく原因および全身疾患との関連がはっきりしているものを指します。(二次性心筋症は、「特定心筋症」と呼ばれることもあります)
二次性心筋症の原因となる全身疾患には、ウイルスをはじめとした感染症や、全身性エリテマトーデスなどの膠原病、甲状腺機能亢進症などの代謝性疾患のほか、薬物の副作用やアルコールの過剰摂取などがあります。
二次性心筋症の治療は、原因となっている基礎疾患の治療のほかに、心不全や不整脈などに対する対症療法が中心となります。
本記事では、二次性心筋症の原因と症状、検査と診断方法、治療などを詳しく説明します。
二次性心筋症の原因
二次性心筋症を引き起こす病気や要因には、以下のようなものがあります。
1. 感染症によるもの
ウイルス
感染症ではウイルスによるものが多いです。二次性心筋症をきたしやすいウイルスとしては、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、COVID-19などがあります。
細菌
心筋症をきたすことのある細菌には、ジフテリア、リケッチアなどがあります。
真菌
カンジダ症などがあります。
寄生虫
シャーガス病(トリパノソーマ感染症)などがあります。
2. 膠原病によるもの
全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性筋炎、皮膚筋炎、強皮症、関節リウマチなどがあります。
3. 代謝性疾患によるもの
甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、副腎皮質不全、褐色細胞腫、粘液水腫性心筋症、クッシング症候群、糖尿病、尿毒症、アクロメガリー、アミロイドーシス、サルコイドーシス、ヘモクロマトーシス、糖原病、ファブリー病などがあります。
4. 中毒によるもの
薬物では、アドリアマイシン、ブレオマイシン、ステロイドなどがあります。またアルコールの過剰摂取によりアルコール性の心筋症をきたすことがあります。
重金属では、鉛や水銀、コバルトによる中毒により心筋症をきたすことがあります。
5. 神経疾患・遺伝性疾患によるもの
神経筋疾患として筋ジストロフィーやミトコンドリア脳筋症など、遺伝性疾患としてはフリードライヒ失調症、家族性筋緊張性ジストロフィーなどがあります。
6. その他
出産後に発症することがある産褥心筋症や、高度肥満に伴う肥満関連心筋症などがあります。
二次性心筋症の前兆や初期症状について
二次性心筋症の症状
二次性心筋症の症状は多岐にわたり、基礎疾患の種類や進行度、心筋への影響の程度によっても異なります。
心不全による症状
息切れ(労作時の呼吸困難)、倦怠感、むくみ(浮腫)、寝苦しさ(起座呼吸)、胸部の不快感などがあります。これらは心筋症に限らず、心不全(心臓の機能異常)全般で起こる症状です。
不整脈による症状
不整脈を合併することで、めまい、失神などをきたすことがあります。
全身症状
原因となる基礎疾患に伴い、発熱や体重減少、関節痛などをきたすことがあります。
二次性心筋症の病院探し
二次性心筋症に限らず、息切れや倦怠感、浮腫や夜間の寝苦しさなどの心不全症状を感じる場合は、早めに循環器内科を受診することが大切です。
二次性心筋症の検査・診断
二次性心筋症の診断には、詳細な病歴聴取と身体観察のほかに、以下のような検査を併用して行います。
心電図検査(ECG)
心筋の障害示す虚血性変化の確認のほか、狭心症や心筋梗塞との鑑別、不整脈の有無の確認などの為に実施します。
胸部レントゲン検査(X線)
心不全に伴う、心拡大や肺うっ血の有無の確認のために実施します。
心臓エコー検査(超音波検査)
心臓の構造の異常や心筋の動きの異常の有無の確認などに用います。
血液検査
心筋症の診断および心筋梗塞などのほかの鑑別疾患の判定のために行います。具体的には、炎症マーカー、心筋逸脱酵素、電解質異常、膠原病の関連項目などを測定します。
MRI画像検査、CT画像検査
心筋の構造の評価や代謝性疾患の鑑別などの為に行います。
そのほかに、アミロイドーシスやサルコイドーシスなどの特定の疾患の確定診断のために心筋生検検査などを行うこともあります。
二次性心筋症の治療
二次性心筋症の治療は、基礎疾患の管理と心不全や不整脈などの症状に対する治療が中心となります。
基礎疾患の治療
二次性心筋症はほかの疾患が原因であるため、まずは基礎疾患の治療が最優先となります。
感染症に伴う二次性心筋症
- ウイルス性心筋症:心不全に対する対症療法が中心となります
- 細菌性心筋症、真菌性心筋症、寄生虫性心筋症:感受性のある抗生物質による治療を行います
膠原病に伴う二次性心筋症
ステロイドや免疫抑制剤(メトトレキサート、シクロホスファミドなど)などを使用します。生物学的製剤(抗TNF-α抗体など)が使用されることもあります。
代謝性・内分泌疾患に伴う二次性心筋症
以下の治療があります。
甲状腺機能異常の場合
甲状腺ホルモン補充(低下症)や抗甲状腺薬(亢進症)
糖尿病が関与する場合
血糖コントロールの改善(SGLT2阻害薬、GLP-1受容体活性薬などの使用)
中毒・薬剤による二次性心筋症
薬剤が原因の場合は薬剤の変更や使用量の調整を行います。
アルコールが原因の場合は禁酒が重要です。
神経筋疾患・遺伝性疾患による治療法
根本的な治療法はないことが多く、心不全に対する対症療法が中心となります。
心不全の治療
心不全の薬物療法
以下の4種類の薬物を中心に治療します。
- ACE阻害薬/ARB/ARNI(エナラプリル、バルサルタン/サクビトリルなど)
- β遮断薬(カルベジロール、ビソプロロールなど)
- SGLT2阻害薬(ダパグリフロジン、エンパグリフロジンなど)
- 抗アルドステロン薬(スピロノラクトン、エプレレノンなど)
そのほかに、利尿薬(フロセミド、トルバプタンなど)を併用します。
不整脈に対する治療
以下のような治療を行います。
- 薬物による治療(抗不整脈薬):心室性不整脈の抑制などに対して行います
- カテーテル治療(アブレーション):頻脈性不整脈に対する治療として行います
- ペースメーカーの埋め込み:徐脈性不整脈に対する治療として行います
- 植込み型除細動器(ICD):致死性の不整脈によるリスクが高い場合に検討します
生活習慣の改善
- 食事管理:必要に応じて塩分や水分の制限などを行います
- 運動療法:有酸素運動を推奨しますが、基礎疾患によっては運動を制限することもあります
- 禁酒・禁煙:特にアルコール性心筋症では禁酒が必須となります
そのほかに、薬物療法が無効かつ急変するリスクが高い症例では心臓移植を検討することもあります。
二次性心筋症になりやすい人・予防の方法
二次性心筋症になりやすい方は、原因となる基礎疾患ごとに異なり、以下のように分類されます。
感染症によるリスクが高い方
免疫不全のある方(HIV感染者、がん治療中の患者さん、臓器移植後の免疫抑制剤使用者)、高齢者など。
膠原病を基礎疾患に持つ方
全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性筋炎、皮膚筋炎、強皮症、関節リウマチ、サルコイドーシスなど。
代謝性疾患を持つ方
糖尿病、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)、クッシング症候群、末期腎不全(尿毒症)、アミロイドーシス、サルコイドーシスなど。
特定の薬物などの摂取がある方
- 薬物:アドリアマイシン、ブレオマイシン、ステロイドなどを内服中である
- アルコールの過剰摂取
特定の神経疾患・遺伝性疾患を持つ方
筋ジストロフィー、ミトコンドリア脳筋症、フリードライヒ失調症、家族性筋緊張性ジストロフィーなど。
その他
出産後の方、高度肥満を持つ方、高血圧を持つ方など。
参考文献